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#012 御大将、松平平八郎汰

はてさて…


今回の亀組の日常は…

 ドッドッドッドっドっドッドッドッドっドっドっドッドっドっ


 爽やかな朝の空気の中に、荒々しくも包容感のある音が響き渡っていた。これは決して珍しい事でも、大事件でもなく、僕たちにとっては心底嬉しいサインであった。


「園長先生だぁぁぁ~!」


 ほぼ全員が歓喜の声をあげていた。


「やったぁ~えんちょうせんせいだぁ~!」


 地域どころか、国家レベルで非常に有名である御大将こと松平平八郎汰園長である。愛車いや相棒である排気量3000ccのハーレーダビッドソン( 鬼斬丸 )にまたがり、強烈ベルボトムで現れるその御姿には、何のよどみも、汚らわしさもなかった。


「やぁ!みんな!おはようっ!」


 何と気さくな御大将は園児・職員全てに愛されていた。強く・厳しく・優しい。そして何よりも太陽の様に暖かい方である。全てを受け止め、しかし全てを許すわけではなく、善悪をはっきりさせ、さらにその悪の中の善を、善の中の悪を見いだし正してくださる方である。それら全てに心からの愛情を感じることが出来るという真実が、全員に愛されるゆえんである。


「せんせい~またおもしろいおはなしきかせて~!」


「ねぇ~せんせい~おねがぁ~いぃ~!」


「よぉ~しわかった!みんな座りなさい!」


「はぁぁぁぁ~いぃっ!」


 今、日本中でここまで生徒を完全掌握できているクラスがどれだけ存在するのであろうか。僕たちは某国のマス・ゲームを上まらんばかりの統一性をもって御大将を取り囲んで座った。


「いかなる場合でも上様に失礼があってはいけない・・・」

 そうつぶやく様に竹中は正座である。


 僕は北斎と隣同士になって座り、あたりに丈志がいない事を確認すると、心のガスマスクをしまいながら、安心して御大将の方に精一杯の眼差しを向けた。


「よし、今日は僕がこのまえ行って来たロシアの話をしよう・・・」


 キリストのゴスペル(福音)を聴く様に僕たちは物音ひとつ立てないように心がけている。ヒスパニックに至ってはメモ用紙とペン(ゼブラ)を持ち、慣れない眼鏡を掛けながら身構えている。


「まずはイギリスに行ったんだよ。ロシアに行く前に。ルフトハンザは悪くない航空会社でね、ゆったりとしたシートで14時間位だったかな・・・確か。でもぜんぜん大変じゃなかったんだ!でも、テロがあったでしょ?だから飛行機に乗るまでの検査が大変でね。僕の友達はほとんど裸になっていたんだよ!あははははははは!今思い出しても面白いな!」


「せんせい!なんではだかになったの~?」


 誰もが聞きたかった事をレイチェルが聞いてくれた。


「うん、っふふ!あのね、僕の友達はアメリカ人で日本語がぜんぜん話せないんだ!それで僕がちゃんと教えてあげていたんだ。でも、どこで習ったのかわからないような言葉も知っていたんだ。それで検査の時に、わざわざ話せない日本語で{マッポにつかまるぅ~!ワテはアホやぁ~}って言っちゃったんだ。」


「せんせい、マッポてなにぃ~?」


「うん、警察官って意味なんだ。使っちゃたらだめだぞ!」


「はぁい」


「それで、怪しまれちゃって、違う部屋に連れて行かれて色々調べられたんだ!もちろん警察につかまる様な事はしてないんだよ!どこかで誰かに教わったんだろうね~!それで、やっと二人そろってロンドンについて、2時間くらい次の飛行機を待ってから、目的地のモスクワ行きの飛行機に乗ったんだ。これがまたオンボロでね!ガタガタガタガタ言ってるんだけど、僕たち以外のロシアの人たちは何も言わないし、まったく普通にしてるんだ。でも僕の友人はとっても怖かったんだろうね、スチュワーデスさんを呼んで、{この飛行機、動きますか?}って上空20000メートルで聞いてるの。スチュワーデスさんは苦笑いをしていたけど、僕の友人の顔は引きつっていたんだよ!」


「えぇ~だいじょうぶだったのぉ~せんせいぃ~」


 そいつを聞きますか~といった素晴らしい質問を繰り出してくれたのは、もちろん二丁目の世界遺産であった。


「うん、大丈夫だったよ!なんとか無事に着いて、ホテルに着いたのは夜中の1時すぎで、とってもおなかがすいてたんだけど、疲れていたからそのままねちゃったんだ~!」


 この話が最高の盛り上がりを見せたのは、それから少したってのことであった。


「その店で会ったバボビッチさんっていう人が凄かったんだ!身長は、たぶん2メーターくらいか、それ以上あったんだろうな~!すごく大きくて、でも優しい目をしていたんだ。バボビッチさんは、むかし日本に住んでいた事があったらしくて、僕を見てうれしくなったみたいで、おっきなお酒のビンを片手に持ってやってきたんだ・・・


「こんちんは!わたしぃの、なまへは、バボビッチでした。」


「あ、あ、こんにちは!日本語はなせるんですか?」


「はい、すこち。わたしぃは、むかし、むかし、にほんに、いました。すんでいます。」


「あぁ、日本にいらっしゃったんですね!」


「そう!にほんに、いしゃっしゃった。」


「・・日本のどちらに住んでいたんですか?」


「はい。にほんに。いしゃっしゃって、Unn、たかだかばか。」


「ああ、東京の高田馬場ですか。」


「そうそう、たかだがばか!」


「・・・そうですかぁ。」


「わたしぃ、あなた、ヴォッカ、のみたい」


「あぁ、よろしいんですかぁ?」


「はぁい。のむまえにのむっ!AHHAHHHAHHHHAHHA」


「あはははははっつ」


・・・・そう言って結局朝まで飲んだんだ~!バボビッチさんは軍隊の人で、すごく強い人なんだ。昨日手紙が来ていたんだ!みんなにもヨロシクっていってたぞ~!」


「えぇ~あいたいな~ボバビッチさん~」


「バボビッチさんだよ~ボバじゃなくて。」


 20分くらいして話を終えいったん出て行くと、御大将は大きな袋にロシアのお土産をたくさん抱えて戻ってきた。


「みんなの分、ちゃんとあるから、一列に並ぼうっ!」


 そう言うと僕たちは急いで立ち上がり一列になった。なぜか僕は北斎と手をつないでいた。無意識であったが確かに手をつないでいた。次々とお土産が渡されていく中で、僕は何だか渡されたくない様な気持ちになっていた。しかし、渡されたお土産がロシアの毛皮の帽子だと分かると、僕も北斎も手を放して喜んでいた。

次の


エピソードに続きます

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