#011 おはよう、寝坊
はてさて…
今回の亀組の日常は…
早朝にあんな夢を見たせいか、目覚まし(セイコーさん)の職務怠慢か、僕は珍しく寝坊をしてしまった。
「宗則~朝だぞ~!起きなさい!」
カンプ・ノウにネクタイを結びながら入ってきた父宗郎は優しくも厳しい顔を向けている。
「う、うん・・・」
僕はまだ夢の余波に襲われており、現実なのか夢なのか曖昧なトワイライト・ゾーンにいるようだった。
「顔を洗ってきなさい!」
「はぁい」
窓の外を見て、上空に二丁目の世界遺産が羽ばたいていない事を確かめながら、僕は急いで洗面所にむかっていった。母好江も今日は出かけるらしく、エプロン姿ではなかった。
「おはよう、むね君っ!ごめんね~!顔洗おう!」
僕は冷たい水を手のひらいっぱいに溜めると、一気に顔にかけゴシゴシと目を覚まさせていった。
「じゃあ、行ってくる。しっかりご飯を食べてから行くんだぞ、宗則!」
父宗郎はそう言いながら玄関にむかっていった。僕は父宗郎のカバンを持つ母好江と一緒に玄関まで行って、出勤する父宗郎を見送った。
「気を付けてね。いってらっしゃい」
「ああ、ありがとう」
「いってらっしゃ~い、お父さん」
ドアが閉まると、思い出したかのように僕と母好江は朝ごはんのパン(芳醇)を食べ始めた。今日はヨーヨー・マのチェロが朝の桶狭間家を包んでいる。マーガリンをほど良くつけながら僕は最後の一切れを口に入れて、牛乳を飲んだ。
「あら、もうこんな時間!むね君食べたっ?」
「うん、おなかいっぱい」
「よし、じゃあ歯を磨いて行こうっ!」
僕と母好江は社長に見られている吉野家の新米店長の様なスピードで全てをこなしていった。
笹岡さんもレディオもすでにゴミステーションのあたりにはいなかった。今日は燃えないゴミの日らしく、どう見ても燃えないものばかりの中に、明らかに本が何冊か入っていた。(びっくり日本の百人2)という僕の興味を最大限に刺激するそのタイトルの本は、分厚く、昭和の匂いがプンプンであった。僕はもちろん平成生まれまれである。昭和と言う時代については父宗郎からよく聞かされていた。全てが荒削りの段階であったその時代は、モンスターが溢れとても刺激的であったらしい。刺激だけで言ったら現代の方が多そうであるが、父宗郎は昭和の刺激に比べたら、今のは玩具だと言い続けていた。
僕と母好江はその後ろに置いてあった(あせらない家事5)という本には気がつかずに幼稚園へと急いでいった。
玄関ではちょうど来たばかりの北斎が靴を脱いでいた。
「おはよう、むねのりくん」
「おはよう~」
母好江はヒスパニックと多恵先生に挨拶すると、僕に手を振りながら急いで帰っていった。
「ねぇ、むねのりくん。きのうのドムできた~?」
「ううん、きょうまたやるんだ~」
僕は朝一番からの北斎とのガンダム講談に胸を躍らせていたが、同時にその会話の持ちえる危険性は、自己防衛本能として持ち合わせていた。ここで更なるガンダム講談を継続するのは外交上得策ではないと判断されていた。しかも、相手は北斎である。
「瑞希ちゃんは、きょうなにをかくの~?」
「まだきめてないけど、たぶん・・・わかんない。なんにしようかな~」
「おはようございますっ!みなさん!」
「おはようございまぁぁ~すっ!」
タナチョウはまだ眠そうである。丈志はクシャミが出そうで出なそうな表情である。ベム小林は全壊で眠っている。起きろ人間っ!
次の
エピソードに続きます