#010 おやすみ、夢
はてさて…
今回の亀組の日常は…
お風呂からあがり、カンプ・ノウにてパジャマ姿でアッザムを読破している時に父宗郎が帰宅して、ネクタイを緩めながら部屋に入ってきた。
「ただいま、宗則。今日は幼稚園楽しかったか?」
「うん。おかえりなさい!」
「お~アッザムかぁ~!こいつはなかなか強いんだよな~!」
「ねぇ、アッザムリーダーってすごいね~!」
「あぁ。あれにはガンダムもてこずっていたな~!」
「でもアムロがかつんだよね~?」
「もちろんだ!」
そう言いながら父宗郎は寝室に着替えにいった。こうやって僕はガンダムを観ないうちに詳しくなって、どんどん好きになっていく。これでDVDを買ってしまったら、どこにも行かなくなってしまわないだろうか。本気で心配しながら、ギャンの盾の有効性についても真剣に考え始めていた。
「むね君っ~歯磨くのよ~!」
「はぁ~い。」
すでに眠気が本気を出し始めていた僕は、目を擦りながら下におりていった。ソファーには父宗郎と静子が座ってテレビを観ていた。何の番組かは分からなかったが、何だか真剣に観ていた。
「馬鹿だな・・・こいつは誰よりの犯罪人だな・・・」
「うん、でも良い人も多いんだよね~。」
「そうだな。トップが馬鹿なんだ。」
イラク戦争についての番組である事だけは分かったが、僕は母好江と洗面所に行って歯を磨いた。半分は自分でやったが、残りは母好江が手伝ってくれた。これで、かすかに残っていたGHQの残存兵力も撤退を余儀なくされたであろう。口の中はかなりクリア・クリーンだった。
「おやすみなさ~い」
僕は目を擦りながらみんなに挨拶をした。
「お休み、宗則。」
「オヤスミっクス~!」
静子の華やかさと父宗郎の実直さに後を押されながら、僕は母好江と手をつなぎながらカンプ・ノウに歩いていった。どれだけ眠くても、母好江の子守唄を聴くまでは、決して寝るわけにはいかなかった。母好江の子守唄は、どんなに素晴らしい歌手の歌声よりも、どんなに美しい音楽よりも、僕の全てを優しく確かに暖かく包み込んでくれた。これほどの心地よさは、この世の中に存在するのだろうか、と心から感じえるひと時であった。だから、たとえ少しでも、わずか一小節であろうとも母好江の子守唄を聴かなければならなかった。
「きょうは、どのうた~?」
「そうね~・・・・」
母好江は優しくそうつぶやくと、ゆっくりと僕に布団を掛け、僕の髪とおでこをなでながら「 赤とんぼ 」をささやいてくれた。ゆっくりゆっくり。正確には一匹目の赤とんぼしか覚えていない。僕は本当に眠かったらしく、すぐに眠ってしまった。心地よいゆりかごのに揺られるように。
僕はあまり夢を見ない。しかし、この日は珍しくはっきりと覚えられる夢を見ていた。昼間の印象が強かったのか、何なのか、最初の登場人物はタナチョウとベム小林であった。
「にんげんにしてみろ~にんげんにしてみろ~」
そう叫ぶベム小林の姿は、もはや人間のそれではなく、何とも形容しがたい奇怪な姿であった。しかし、それは決して醜くはなく、それどころか美しささえ感じられた。
「待て・・・」
逃げようとするタナチョウの前にお武家様の姿の竹中が、光の中に立っていた。
「貴様・・・逃げると申すか。武士の風上にもおけん・・・」
そう言うと、武士竹中はベム小林に向かって足を進めた。
「そなたが・・・さぞ苦しかろう・・・」
「にんげんか~にんげんか~」
そう荒ぶるベム小林に手をかざすと、そこからまばゆい光があふれ、その空間を包んでいった。
「・・・許すのだ・・・全てを・・・・」
天上界の光に包まれたベム小林の姿はみるみる人間のそれに戻っていった。
「あ、あ、ありがとうございます。」
涙を流すその姿は、人間を通りこして、二丁目の世界遺産・高畑真太郎になっていた。感動しているタナチョウは一人でグルグル回っている。武士竹中は一人で祈りを捧げている。遠くの方から北斎とレイチェルが走ってやってくる、二丁目の世界遺産はとうとう飛ぼうと羽ばたく真似を本気で始めている。タナチョウはついに地球上では考えられない速度でホフク前進をし始めている。武士竹中は一人お稲荷さんを食べている。北斎とレイチェルはコタツに入って無事人間の姿に戻ったベム小林とドンジャラを始めている。突然雨が降ってきて、傘を探そうとしたら、笹岡さんがレディオを全力で追い越しながら、僕にレインコートを貸してくれた。それを僕は着ながら上を見たら、そこは表町幼稚園亀組の教室だった。窓から素晴らしい天気の空をみたら、二丁目の世界遺産が無事に遥か上空を羽ばたいていた。そのそばには見た事もない鳥類が随伴していた。驚く事もなく見ていたら、僕は急に嬉しくなって、思いっきり振り返ったら、そこには誰の姿もなく、ただ脱ぎ捨てられたMikeのシャツと一つだけ残されたお稲荷さんがあった・・・
夢から覚めて、小鳥のさえずりが聞こえてきて、どれくらいたったのか分からないが、時計を見たら6時くらいだった。僕はもう一度夢の続きを見たくなって目を閉じたが、もう夢を見る事はなかった。
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エピソードに続きます