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第9話 不安の帰宅

 全ての授業が終わり、下校時間となった。

 久々に受けた授業に、無事にこの世界に帰って来られたんだなぁという実感が得られた。

 おかげで苦手だった先生すらも、懐かしくてまた会えたことに喜びを抱いてしまうぐらいには、俺は異世界で色々とあり過ぎたようだ……。


 しかし、そんな感情に100%浸ることはできなかった。

 というか、100%どころかほとんど駄目だった。


 その理由は、ただ一つ。

 俺は現在、異世界の魔王を家で留守番させているからだ――!ドンッ


 ……うん、自分で言っておいてなんだが、本当に意味が分からないと思う。

 しかし残念ながら、これは真実であり、今家には本物の魔王がいるのだ……。


 俺も急いでいたから、今朝は適当に家にあったチョココロネを食ってくれと伝えはしたが、あいつはちゃんと食べられているだろうか?

 風呂やトイレも本当に大丈夫か?

 まさか家から出て、何か問題を起こしてはいないだろうな……?


 犬のジョンより全く信用ならない魔王に、不安や心配が次々と泉のように湧き出てくる……。


「おう信也ー! 今日帰りにみんなで駅前の――」

「すまん勇作、今日は急いでるんだ」

「おう、珍しいな? 分かった、また今度な~!」

「すまん」


 クラスの男子達を連れた勇作が、帰りの寄り道に俺も誘ってくれる。

 こうして誘ってくれるのはありがたいし、俺だって男水入らずで遊びに行きたい気持ちはあるが、今日は駄目なのだ。

 断ると、すんなり受け入れてくれた勇作に申し訳なさを抱きつつ、俺は急いで下校する。


「あ、信也ー! 今日さ、うちらでカラオケ――」

「すまん桃花、今日は急いでるんだ」

「ほーう、珍しいね? 分かったよー、気を付けてねー!」

「すまん」


 女子グループの中にいた桃花が、通りかかった俺をカラオケに誘ってくれる。

 こうして誘ってくれるのはありがたいし、俺だってカラオケで歌って歌って歌いまくりたい気持ちはあるが、今日は駄目なのだ。

 断ると、すんなり受け入れてくれた桃花に申し訳なさを抱きつつ、俺は急いで教室を飛び出すのであった。



 ◇



「ただいまー」


 学校を飛び出した俺は、そのまま走って家へと帰ってきた。

 これも異世界後遺症のおかげで、陸上部も真っ青なハイペースで走って帰ってきてしまった。

 恐る恐る玄関を開けると、リビングからテレビの音が漏れて聞こえてくる。


 ――魔王のやつ、ちゃんと家にいるんだろうな?


 鍵は閉まっていたから、少なくとも魔王は玄関から出てはいないだろう。

 しかし、油断はできない。

 窓から外に出ようと思えば、簡単に出られるのだから。

 頼むから、面倒ごとはよしてくれよ……と、俺は謎の緊張感とともにお祈りしつつ、リビングの扉を開ける――。



『って、なんでワシやねーん!』

「アハハハハハ! こやつは何を言うておるのだ! ワハハハ!」



 リビングの扉を開けると、そこにはテレビを指さしながら爆笑している魔王の姿があった。

 傍にはジョンもいて、魔王はジョンのモフモフを上手に枕にしながら横になっている。

 元々着ていたドレスではなく、俺が着替え用に置いておいた服へと着替えていることから、どうやらちゃんと風呂には入ってくれたようだ。


「……俺がいない間に、随分とこの世界にも馴染んだようだな」

「んぁ……? って、シ、シンヤ!?」


 呆れながら声をかけると、ようやく俺が帰ってきたことに気付いた魔王は驚いて立ち上がる。

 大方、何か不味いところを見られてしまったとでも思っているのだろう。

 しかし、こうして立ち上がってみるとやっぱり服のサイズが大きかったようで、何ていうか全体的にダルッとしている。


 ……というか、ちょっと待て。こいつ……。


「おい、魔王……」

「な、なんだ!? 我は言われたとおり、ここで大人しく待っていただけだぞっ!」


 慌てて言い訳をする魔王。

 あんなテレビで爆笑しておいて、大人しいってなんだよ。

 しかし、今俺が言いたいのはそういうことじゃない。


「そうじゃない、お前……元々着ていた服はどうした?」

「服? あ、ああ! それなら言われたとおり、せんたっき……? とやらで洗濯して――」


 俺の問いかけに、ドヤ顔で答える魔王。

 しかし言いかけたところで、魔王は言葉を詰まらせるとプルプルと震えだす。


「洗濯して? どうした?」

「……そのままだ」

「なるほどな……」


 洗濯したけれど、干すのを忘れてしまう。

 そんなことは、人間生きていればやってしまうことはある。

 ましてや相手は、今日この世界へやってきた異世界の魔王。

 洗濯機を扱えただけでも合格点をあげたい。


 しかし、それはそれ。これはこれだ――。


「……とりあえず、待ってろ」


 俺はそう魔王に声をかけ、とりあえず洗濯機を確認しに行く。

 蓋を開ければ、洗濯しっぱなしで放置された魔王の服が入っていた。

 さすがに時間が経ってそうだし、俺は黙ってもう一度洗濯を回してやる。


 それから自室へ行き、少し厚手のパーカーを持ってリビングへと戻る。


「お前の服は、もう一度洗濯しておいたぞ」

「そ、そうか、すまぬな……」

「あと、ほれ」


 そう言って俺は、持ってきたパーカーを魔王へと放り投げる。


「おわっ!? な、なんだこれは!?」

「いいから、それを着ておけ」

「着ろって、なんだいきなり……」


 少し不満そうに首を傾げつつ、自分の今の服装を確認する魔王。

 そして、ようやく魔王も今の自分の姿に気付いたのだろう。

 小さくはない自分の胸元を確認すると、その顔は見る見る真っ赤に染まっていくのであった。


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