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第8話 至高の昼食

「ワン!」

「……んん」

「ワンワン!」

「……なんだ……我は今寝ているのだ……」

「ワンワンワン!」

「……ええい! 何だと言うのだっ!」


 せっかく気持ちよく寝ていたのに、ジョンの鳴き声で無理やり起こされる。

 魔王である我が、まさかただの動物に叩き起こされる日が来るとはな……。


 グゥ~~~。


 しかし、それと同時に鳴りだすお腹――。

 沢山食べたはずの朝食も、どうやらすっかり消化されてしまったようだ。


「……そうだった、昼食の時間までの仮眠のつもりだったな」


 窓の外は明るく、まだそれほど時間は経っていないだろう。

 つまりジョンは、昼食の時間になったから我を起こしてくれたということだろうか?


 ――本当に、ジョンの世話になってしまったというわけか……。


 全ての魔族の頂点であるこの我が、まさかただの動物に面倒を見られてしまうとは情けない……。


 何が楽しいのか、ジョンはずっとこちらを見つめてきている。

 よく見ればこいつ、結構可愛いのかもしれないな……。


「……分かった、起きる。えっと、たしかあそこに置かれているものを食べろと言っていたな」

「ワン!」


 お、ジョンはちゃんと返事もできるのか。中々賢いではないか。

 起き上がった我は、とりあえずシンヤに言われた通りカシパン……? とやらを手に取り、ついでにレイゾーコ……? の中にあるミルクをコップへ注いだ。


 このカシパンとやらは、シンヤいわくこの世界ではありふれたパンらしい。

 元いた世界のものとは、形状も質感も結構違うように見えるが……。


 まぁパンとあれば、一緒に合わせるのはミルクと相場が決まっている。

 元の世界でも、この組み合わせが我の大好物なのだ。

 というわけで我は、言われた通りパンとミルクを用意して昼食を済ませることにした。


「……しかし、少々侘しいものだな」


 魔王城では、日ごろもっと豪勢な食事を取っていた。

 それがここでは、パンとミルクのみ。

 まぁ贅沢を言える立場ではないのだ、ここはこれで我慢するとしよう……。


 パンの袋を開けると、小麦の香ばしい香りと、何やら甘い香りが部屋に広がる。

 中には黒いペースト状のものが詰まっているようだが、これは一体なんだ……?

 見知らぬ食材に訝しみつつも、空腹には抗えない我は恐る恐る口へと運んでみる――。



「んんっ! あまぁーい! 美味しいー!!」



 うわぁ、なんだこれはっ!?

 フワフワで、クリーミーで、甘くって、すっごく美味しいではないかっ!?


 間違いない! これは絶対にミルクに合うっ!!


 そう確信した我は、急いでミルクを口に含む。


 ――うおおおおおお!?


 全然乳臭くなく、未だ飲んだことのないフレッシュなミルク。

 口の中で、パンとミルクの織り成す極上のハーモニーが生まれる。


 元々最高の組み合わせだが、こんな美味しいのは生まれて初めてだ!

 今朝の卵を焼いた料理もそうだが、どうやらこの世界は食の水準まで段違いなようだ。

 一体何をどうすれば、こんなにも美味い食べ物を考え付くというのだ――!

 先程は少々侘しく思えたが、そんなことはない!


 これは、至高の昼食だっ!!


「全く、むぐむぐ、この世界の水準は信じられんな、むぐむぐ」


 美味いパン、フレッシュなミルク、それにフカフカのソファー。

 窓の外には雲一つない快晴が広がる、最高の昼下がり。

 もしかしてここは、魔王城にいた時より快適空間なのではないだろうか……。


『わぁー! 美味しそうですねー!』


 するとテレビから、そんな女性の声が聞こえてくる。

 ちょうど美味しいものを食していた我は、その言葉に引き寄せられるようにテレビへと目を向けると、何やら人間の女性が美味そうな食べ物の紹介をしているようだ。

 パンの割れ目に、葉物野菜と何やら細長い肉らしきものをたっぷり挟み込んだ料理が映し出されている。


「なんだあれは!? 気になるではないかっ!!」


 よく分からなかったテレビも、食べ物の話題となれば話は別だ。

 紹介される美味しそうな食べ物の数々に、我は完全に興味を奪われてしまう。

 なるほど、テレビとはこのように様々な情報を発信してくれる便利なアイテムだったのだな。


 ――テレビ、しゅごいっ!!


 その高い有用性に気付かされた我は、それからテレビにくぎ付けとなる。

 まずはこの世界をよく知るためにも、このテレビからの情報収集に努めることにしたのであった。


 

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