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第6話 説明と登校

「ここがトイレだ」

「トイレ……」


 魔王を連れて、最初にトイレを教えることにした。

 いつトイレに行きたくなるかも分からないからな。

 向こうの世界でもトイレはあったから、トイレという概念は異世界でも共通。


 ちなみにうちのトイレだが、別に何の変哲もない普通のトイレだ。

 しかし向こうの世界と比べると、こっちのトイレは本当に清潔だし便利なことに気付かされる。

 それは当然魔王も同じようで、純白の汚れのないトイレを前に分かりやすく驚いている。


 それから風呂場やキッチンについても簡単に説明したが、魔王はその全てに驚いていた。

 それでも、さすがは異世界の魔王。

 一度説明をするだけで、困惑しつつもちゃんと全てを理解してくれたみたいだ。

 実はこいつ、物凄く頭が良いのかもしれない……。


 こうして、簡単ではあるが一通りの説明を終えた俺は、次に朝食の準備をすることにした。

 とは言っても、朝食にあまり時間をかけてもいられないため、作ったのはハムエッグにサラダ、あとはご飯にインスタントのお味噌汁という簡単なもの。

 たとえ魔王でも一応は客人。もうちょっと気を利かせた方が良かったかなとも思ったが、魔王はハムエッグを口へ含むと電撃が走ったように驚きの表情を浮かべる。


 どうやら口に合ったようで、一口一口よく味わいながら夢中になって食べている。

 そんな姿だけ見ていると、ただの同年代の女の子にしか見えなくて、少し微笑ましくもあった。

 まぁ実際は、誰もが慄く異世界の魔王なのだけれど……。


「な、なんだ……?」

「いや、何でもないよ」

「そうか。――と、ところで、これはもうないのか?」

「分かった。もう一回作ってやるよ」


 恥ずかしそうに、ハムエッグのお代わりを申し出る魔王。

 そんなところも微笑ましくて、仕方なく俺はもう一度ハムエッグを焼いてやることにした。

 まだまだ食べられそうだから、ここは特別に二人分。


 こうして朝食を食べ終えると、そろそろ学校へ行く支度を済まさなくてはならない。

 魔王には好きにテレビを観ておいて貰いつつ、軽くシャワーで汗を流してから制服へと着替える。


「それじゃ、俺はそろそろ行くが、あとで風呂も自由に使ってくれていいからな。タオルはさっき説明した場所にあるのを好きに使ってくれていいから」

「分かった」

「俺の服で悪いが、着替えはカゴに置いてあるからそれに着替えてくれ」

「ああ」

「昼は、さっき説明したそこにある菓子パンとか好きに食べてくれていいからな」

「……うむ」

「あと、喉が渇いたら冷蔵庫にある飲み物も自由に飲んでくれていいから遠慮はするなよ」

「大丈夫だ、それはさっきも聞いた。もう我は大丈夫だからとっとと行ってこい」


 最終確認する俺を若干鬱陶しそうにしながら、魔王に背中を押される。


「それじゃジョン。俺のいない間、魔王のことをよろしく頼むな」

「ワン!」

「ええい! ジョンの世話になどならぬわ! いいから、さっさと行け!」


 こうして俺は、最後は魔王から追い出される形で家を出ると、久々の学校へと向かうのであった。



 ◇



 今日も無遅刻無欠席を達成できた俺は、自席から外の景色をぼんやりと眺める。

 こっちの時間は流れていないが、それでも俺にとっては久しぶりの登校。

 何だか懐かしい気持ちになりつつも、いざ学校へ来るとやっぱり家のことが気になってきてしまう。


 ――普通に考えて、家に魔王を置いてくるとかどうかしてるよなぁ。


 かつて命をかけた戦いをした相手を、家で留守番させるなんて我ながらどうかしている。

 ただこの世界ではまともに魔法は扱えないし、さっきの魔王の様子から察するに問題ないとは思うけれど……。


 杞憂で終わればいいんだがと思いつつ、今日ばかりは早く授業が終わることを願うばかりだ。


「おっすー! おはよう信也ー!」

「ああ、おはよう勇作ゆうさく


 悩みの尽きない俺に声をかけてきたのは、同じクラスの三浦勇作みうらゆうさく

 この高校から仲良くなった、今では一番の友達だ。

 勇作と言えば、金髪がよく似合う王子様系男子。

 俺と違っていつも元気で明るい性格をしており、少しチャラついているがクラスの人気者だ。

 あまり口数の多い方ではない俺と何故友達になれたのかは分からないが、何となくお互い気楽なのだ。

 まぁそれも、俺がどうこうというよりも、勇作の気さくさに俺があやかっているだけなのかもしれない。


「どうした? 考え事か?」

「ん? ああ、まぁな」

「何だよ珍しいな」

「そうか?」

「そうだろ。世の中のほとんどのことに興味なさげだったお前が、一丁前に悩んでるんだから」


 随分な言いぐさだが、否定できない自分がいる。

 勇作の言う通り、俺は世の中のほとんどに多分そんなに興味がないんだろうなという自覚はあったから。


「なーに二人で楽しそうに話してんのよっ!」

「おう、桃花ももかおはようー」

「おはよう」


 勇作との会話に入ってきたのは、江口桃花えぐちももか

 彼女も同じクラスで、勇作が男子の中で一番の人気者なら、この桃花は女子の中で一番の人気者。

 桃色のミディアムヘアーが特徴的な美少女で、出るところはしっかり出ているとよく男子達の話題にも上がっている。

 そういうのはイマイチよく分からない俺だが、桃花が可愛いと言われればその通りだと答えるだろう。

 それぐらい桃花は、俺の目から見ても綺麗な子だと思う。

 魔王と比べると……よく分からんな。


 まぁそんな、クラスのある意味ツートップから日常的に挟まれている、基本無口で人付き合いも良くない俺。

 客観的に見れば、きっと俺だけが不釣り合いに見えていることだろう。


「で、どうしたのよ?」

「ああ、なんか信也が考え事をしているみたいなんだよ」

「え? あの信也がぁ!?」

「あのってなんだよ……」


 どうやら二人の中では、俺がちょっと悩んでいるだけでも異常事態のようだ。

 まぁそんな馬鹿を言い合える友達にも恵まれながらも、本当に日本に帰ってきたんだなという実感が湧いてくるのであった。



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