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第5話 驚愕

 魔王を連れて、家へと向かう。

 家の近所を歩いているだけだが、それでも魔王にとってここは異世界。

 周囲の家々や自動販売機など、目に入る全てに驚いているご様子だ。


 見た目は同い年ぐらいに見えるが、実際は俺の何十倍も年上なのだろう。

 背は低めで、この世界ではまず見かけない銀髪のロングヘアー。

 若干の幼さもあるが、端正な顔立ち。

 露出の高い黒色のドレスは大人っぽくもあり、頭には赤黒い二本のツノまで生えている。

 そんな魔王の姿を一目見れば、きっとみんな口を揃えてこう言うことだろう。



 あ、コスプレの人だと――。



 そう、この世界には魔族も魔王も存在しないのだ。

 あるのはアニメや漫画の世界の中の話であり、現実ではコスプレ以外の何物でもない。

 まさかこれが、本物の異世界の魔王だなんて誰も思うまい……。


 そしてここは、閑静な住宅街。

 コスプレ会場ならまだしも、こんなところでコスプレ女がうろちょろしていれば、確実に目立ってしまうのは言うまでもない。

 とりあえず俺は、せめてもと思い着ているジャージの上着を魔王の肩へとかけてやる。


 いきなりのことで魔王は驚くも、理由を説明すると一応納得してくれた。

 ジャージでその身を隠しつつ、少しモジモジしている。

 この世界ではそのツノも不味いことを伝えると、魔王も人間にツノがないことは知っていたのだろう。

 なるほどなと納得すると、魔法でツノを不可視化させる。

 この世界でも魔法を扱えたことに一瞬喜ぶも、逆を言えばその程度しか扱えないことに落胆する魔王は見ていてちょっと面白いかもしれない。


「ところで、その一緒にいる生物は魔獣か何かか?」


 ジョンを見ながら、魔王が不思議そうに尋ねてくる。

 どうやら魔王は、犬を見たことがないみたいだ。

 たしかに思い返せば、向こうの世界で犬を見た記憶が無い。


 この世界ではポピュラーなペットの一種だが、異世界の住民からしてみれば不思議な生き物という、そんな世界を跨ったカルチャーショック。

 思えば俺も、最初は三メートルを超える巨大なカエルや、全身炎に覆われた鹿のような魔獣を見た時は驚いたものだ。


「家族のジョンだ。この国では犬と呼ばれている動物で、魔獣ではない」

「なるほど、家族なのか……ん、家族?」


 納得しかけるも、俺とジョンが家族ということに首を傾げる魔王。


「ああ、家族と言っても、もちろん血の繋がりがあるわけではないさ。それでもジョンは、もうずっと一緒に生活している俺の大切な家族なんだよ。な、ジョン?」

「ワン!」


 俺の言葉に、ジョンは楽しそうに吠えて応えてくれる。

 そんなお利巧なところも可愛くて、俺はまた顔が緩んできてしまう。


「……なるほどな。待っている存在とは、そういうことか」


 そんな緩んだ俺の姿に、魔王は少し呆れるように謎の納得をするのであった。



 ◇



「ここだ、あがってくれ」

「あ、ああ……」


 しばらく歩くと、家に到着した。

 この辺ではちょっとだけ大きい一戸建てだが、魔王城と比べれば月とスッポン。

 それでも魔王からしてみれば、見慣れない土地に見慣れない建物。

 日本の木造家屋や玄関に置かれた工芸品に、興味津々なご様子だ。


 魔王をリビングへ案内しソファーに座らせると、とりあえずこれからのことを話し合うことにした。

 時計を見れば朝の七時を回った頃。

 まだ時間に余裕はあるものの、俺はこのあと通っている高校へと向かわなければならない。

 だからまずは、ここで過ごすうえで最低限必要なことについて伝えることにした。


「よし。じゃあひとまず、最低限必要なことについて伝えようと思う」

「あ、ああ、頼む」

「まず魔王に知っておいて貰いたいのは、この国はお前達のいる世界とは全く異なる世界ということだ。魔法が存在しなければ、お前のような魔王もいない。一言で言うのは難しいのだが……そうだな」


 閃いた俺は、リビングのテレビをつける。

 映し出されたのは朝のワイドショーで、今日も朝の通勤ラッシュを背景に天気予報を伝えてくれる女子アナウンサーの姿。


「な、なんだこれはっ!? どんな魔法を使っている!?」


 いきなり映し出されたテレビの映像に、魔王は驚いて立ち上がる。


「この家の緻密ちみつさにも驚いたが、巨大な建築物に信じられない数の人間……すべての文明レベルが、まるで違うではないか……」


 そして、そのあまりの文明レベルの違いに驚愕する。

 それが何かは理解していないが、一目でその違いを本能的に理解したのだろう。


「まぁそういうことだ。だから覚悟して聞いて欲しい」


 俺はそう前置きして、改めて魔王と向き直る。

 そんな俺の言葉に、魔王は緊張の面持ちで生唾を飲み込む。


「魔王。この世界における、俺の地位はなんだと思う?」

「地位……? いや、地位も何も、貴様は異世界の勇者だろう?」

「いーや、違う。俺はこの世界では勇者などではなく、ただの一般市民だ」

「は、はぁ!? 嘘を言うでないっ!」

「嘘なんかじゃない。この世界には、俺と同等……いや、俺以上の猛者がそこら中にいるってことだ」


 俺の言葉に、信じられない様子で言葉を失う魔王――。


「……分かったな? だから魔王、俺はこのあと家を出なければならないが、俺のいない間はこの家から出ることを固く禁ずる。外の世界は、俺が同伴していないと危険すぎるからな。いくら魔王とは言えど、今の魔法が扱えない状態での無事は保証できない」

「さきほどの景色は平和そのものに見えたが……な、なるほどな。分かった、心得た……」


 再びテレビに映る光景を確認して、魔王は絶望の表情を浮かべる。

 自分が今、どんな世界へ来てしまったのかを理解したのだろう――。


 まぁ、もちろんそんなものは嘘も嘘。大嘘なのだけどな。

 異世界の魔王を日本で自由にさせては、何が起きるかなんて予測不能だからな……。

 だから一旦魔王には、この家で大人しくしていて貰わないと困るのだ。


 正直に言えば、魔王をおいて本当にこのまま学校へ行って良いのかという不安は残る。

 しかし、無遅刻無欠席こそが俺のモットー。

 親に学費を出してもらってもいるのだ、たかだか異世界の魔王がいるぐらいで学校は休めないのだ。うん。


 俺の言うことをすっかりと信じきって、プルプルと怯えてしまっている魔王。

 この世界に馴染むまでは、このぐらい怯えて貰うぐらいがちょうど良いだろう。

 というわけで俺は、次にこの家の設備について教えることにした。

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