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第2話 帰還

 ジリリリリリ――。


 目覚ましの音で、目を覚ます。

 ここは自室で、相変わらず物の少ない殺風景な部屋。

 現在両親は海外赴任で不在にしているため、この一戸建ての無駄に広い家には俺一人で住んでいる。


 俺も一緒に海外へ行っても良かったのだが、当時はまだ高校受験を終えたばかり。

 それに新築で家を建てたばかりということもあり、さすがに建ててすぐ放置するのもという話になり、俺だけ日本に残ることとなった。

 母さんが日本に残っても良かったのだが、いくつになっても甘々ベタベタな両親には一緒に居て欲しいから、俺は一人で大丈夫だと伝えた。


 それにここには、もう一人大切な家族だっているのだから――。



「ワンワンワン!」



 部屋を出ると、待っていましたとばかりに駆け寄ってくる愛犬のジョン。

 俺は現在、このジョンと二人でこの家で暮らしているのだ。


 ジョンがいてくれるだけで、俺は寂しくないし毎日が楽しい。

 それぐらい俺にとって、ジョンは掛け替えのない存在なのである。


 しかし俺は、ある日の夜この世界からいなくなってしまった。

 ちょっと近所のコンビニへ行こうと夜道を歩いていたところ、気が付くと知らない空間にいたのだ。


 そして、まばゆい光の中から現れた女神により、俺は異世界へ転移させられることとなる。


 転移した先の世界では、俺は勇者という称号を与えられていた。

 最初は何のファンタジーだよと思ったが、全てが夢ではなく現実だった。

 俺はその世界に召喚された勇者として、王国の危機を救う役目を与えられたのである。


 それでも、俺が女神より与えられた力は絶大で、一言で言えばチートそのもの。

 女神曰く、本当はこんなに強い力を与える予定はなかったのだそうだ。

 しかしあの時、俺がごねにごねまくった結果、困った女神はすぐに役目を終えられるようにと特別に力を与えてくれた。


 何故ごねたのかと言えば、それは他でもない。

 家に一人で俺の帰りを待っている、ジョンのことだ。


 女神は何度も、元の世界の時間には干渉せず、役目を終えればさっきいた時に戻れると説明してはくれたが、こっちもそんな言葉だけでは信じられない。


 それに何より、俺自身が耐えられないのだ。

 ジョンが傍にいない生活なんて……。


 犬種はコリーで、とても利口で活発なジョン。

 辛い時も、寂しい時も、それから楽しい時もジョンはいつも傍に居てくれた。

 そんなジョンが傍にいないということが、俺にとって何よりもの気がかりだったのだ。


 水はあるが、餌のない状態で何日持つ……?

 そんな状態のジョンをおいて、全く見ず知らずの世界のために勇者をやれだなんて、正直やってられないし一刻も早く帰りたいというのが本音である。


 しかし、女神は言うのだ。

 数ある魂の中から、最も勇者適性が高かったのが俺なのだと。

 そしてこの世界は、人と魔族の争いが激化しており、現在とても深刻な状態にあるのだという。

 だからこそ、勇者の俺に与えられたミッション。


 それは、世界平和――。


 女神は魔族の殲滅せんめつではなく、敢えて世界平和という言葉を用いた。

 このまま行けば、人か魔族のいずれかが滅ぶ未来が待っている中で、女神が望んだのは世界平和。


 きっと女神にとって、人も魔族も等しく守るべきものなのだろう。

 だからこそ女神は、ただ魔王を討伐するのではなく、争いのない平和な世界にしてほしいと頼んでいるのだと分かった――。


 それからの俺は、とにかく急いだ。

 元々薄い感情を更に無くし、ただ目的に向かって進み続けた。


 転移した先の世界の世界平和のため。

 そして何より、愛すべきジョンと一刻も早く再会するため、俺は魔王の待つ魔王城へと急ぐのであった――。



 ……まぁそんなこんながあり、今はまた元の世界。

 気が付くと俺は、またコンビニへ向かって歩いていた場所に立っていたのだ。

 女神の言う通り、本当にこっちの世界の時間は元通りで安心した。


 というわけで、俺はまた普通の日本人。

 ただの高校生、大滝信也に戻ることができるのだと安心したのだが、どうやらそう上手くはいかなかったようだ。

 その理由は、大きく二つある。


 一つ。何故かまだ、魔法が使えること。

 そう、俺はこの世界へ帰ってきてからも、何故か魔法が使えるのである。


 そしてもう一つ。女神と思念で連絡が取り合えること。

 どうやら俺は、女神と魂の結びつきとやらがされてしまったようで、綺麗さっぱり元通りというわけにはいかなかった。

 女神いわく、予定よりも強い加護を与えてしまったことで能力が残ってしまったのだそうだ。


 とは言っても、こっちの世界には魔力の素となるマナが極端に薄い。

 ほぼゼロに近いと言ってもいいだろう。

 だからあっちの世界で使っていたような、強大な魔法を扱うことはもうできないと体感で理解した。

 まぁこの世界は、元々魔法なんて存在しない世界なのだ。

 こんなファンタジーな力の存在は、このまま忘れてしまった方がいいだろう。


「よし、ジョン。朝の散歩に行くか!」

「ワンワーン!」


 というわけで異世界へ転移していた俺は、また元の世界『日本』へと戻ってきたのであった。



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