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第17話 女神

 水色がかったブロンドのロングヘアー。

 陶器のように白い肌に、白色の豪華なドレスを身に纏う長身の女性。


 今目の前に立つ彼女こそが、俺を勇者として異世界へ転移させた女神――。


「……今度はなんだ」

「あら、久々に会ったというのに、何ですその態度は?」


 俺の態度に、不満そうに膨れる女神。

 こいつは見た目の大人っぽさに反して、中身はちょっと子供っぽいところがある。

 だからこの前だって、俺が異世界へ行く行かないで随分と言い合いになってしまったのだ……。


「分かったから、用件を言え」

「そんな態度じゃ、言いたくありません」

「おい、呼んでおいてそれはないだろ……」

「わたしは女神ですよ? もう少し敬ってください」

「……分かった。それで女神様、何のご用件でしょうか?」

「うん、よろしい。――もちろん、今回はイビアちゃんのことで呼んだのです」


 まぁ、十中八九それが用件だとは思っていた。

 しかしこの女神だ、イビア以上に何をするか分かったものじゃない。


「今、変なこと考えましたよね?」

「いや、考えてない。いいから、続きを聞かせてくれ」


 変なところで察しの良い女神。

 顔に出てしまっていただろうか、すぐに話が逸れてしまうから気を付けよう……。


「まぁ、いいでしょう。結論から伝えますと、イビアちゃんをこの世界へ連れてきたのは、他でもないこのわたしなのです」

「はぁ?」

「はぁ? じゃないですよ。いいですか? 連れてきたのは、わたしだって言ったのです」


 そう言って、何故か誇らしげに胸を張る女神。

 何をそんなに胸を張っているのか意味不明だし、それが真実なら真実で迷惑極まりない話だ。

 マジでこの女神は、何を考えているのだ……。


「……とりあえず、理由を聞こうか」

「理由ですか? それはあれですよ、あれ」

「あれじゃ分からん」

「せっかちさんは、女の子から嫌われますよ?」

「いいから教えろ」

「もう、仕方ないですね。――理由は、イビアちゃんが頑張っていたからです」

「はぁ?」


 まさかの女神の返答に、またしても変な声が出てしまう。

 無理もないだろう。頑張っていたからという理由で、異世界の魔王を転移させてくる女神なんてどこにいるというのだ?


「ここにいますよ」

「やっぱ聞こえてるんじゃねーか」

「顔に書いてあるだけですよ」


 相手は女神だ、人の心ぐらい読めるのだろう。

 しかしこの女神にだけは、心底読まれたくはなかった……。


「で、頑張っていたってのは何だ」

「何だって、そのままの意味ですよ?」

「はぐらかすな。イビアは何を頑張っていたんだ?」

「それはもちろん、異世界転移ですよ」


 ――異世界転移を頑張っていたから、魔王を異世界転移させた?


 つまりイビアは、この世界へ自力でやってきたわけではなく、女神に背中を押される形で転移してきたということだろうか?

 たしかにおかしいと思ったのだ。

 この世界ではろくに魔法は扱えないというのに、どうして転移してこれたのかと。


「大正解! その通りですよ」

「だから、勝手に心を読むな」

「顔に書いてあるんです」

「……で、異世界転移を頑張っていたって、そんなにイビアは必死だったのか?」

「ええ、それはもう、何度も何度も試みては、失敗を繰り返してましたからね」


 ……なるほど、そうだったのか。

 てっきりイビアの口ぶりからして、ふらっとこちらへ来てしまっただけかと思っていた。


「いくらイビアちゃんでも、世界を跨る転移なんて無理ですからね。世界を渡るには、わたし達神々の領域に達していないと不可能なんです」

「まぁ、そうだろうな。もしそれが出来るなら、俺はすぐにこっちへ帰ってきていただろうしな」

「あはは、そうなりますね。オマケに地球には、マナがほとんど存在しませんからね。無理ゲーですよ無理ゲー」


 おかしそうに、コロコロと笑う女神。

 こうして転移してこれた理由は判明したのだが、俺の中で新たな疑問が生まれる。


 それは、どうしてイビアはそうまでしてこちらの世界へ来ようとしたのかについてだ――。


 どうせこの疑問も、女神には筒抜けなのだろう。

 そう思い女神に目を向けると、そこには何か物知り顔で笑みを浮かべる女神の姿があった。


「……なんだ?」

「いいえ、別に何も」

「分かってて、言うつもりはないんだな」

「ふふ、そうなりますね」


 勝手にイビアを転移させておいて、随分勝手なものだ。

 まぁこの女神が勝手なのは、今に始まった話ではないのだが。


「――まぁいい、一旦話を戻そう。イビアについて、話があるんだったな」

「ええ、そうです。わたしは、今回イビアちゃんを日本へと連れてきてしまった神様です。なので、この件に関しての責任があるわけですね」

「まぁ、そうだろうな」

「ですから、イビアちゃんのことを女神なりのアプローチでサポートしてあげようと思いまして」

「元の世界に帰すのではなく?」

「それじゃ、イビアちゃんがかわいそうですよ」

「かわいそう?」

「ええ、だってイビアちゃんは、自ら希望して転移したわけですから」


 なるほど、だからかわいそうってことか……。

 理由は理解したが、やっぱり意味が分からない。


「ということで、シンヤ。あなたに一つお願いがあるのです」

「お願い?」

「はい。明日、イビアちゃんも連れて学校へ行ってください」

「はぁ!?」


 女神からのお願いに、俺は本日三度目の驚きの声を上げてしまう。

 それも無理はなく、この女神はいきなり何を言っているのだろうか……。


 まだ日本のこともよく分かっていないイビアを、何故よりにもよって学校なんかに連れて行かなければならないというのだ。


「大丈夫です。明日は編入手続きだけで、学校へ通うのは来週からですから」

「いやいやいや、編入!? どういうことだ!?」

「そのままの意味です。イビアちゃんには、日本の女子高生になってもらいます」

「待て! 意味が分からんぞ!?」

「これも全て、イビアちゃんが望んだことなのです。――はい、というわけで今回のお話はこれでおしまいです。いいですね? 朝イビアちゃんと一緒に、学校の職員室へ行くのですよ?」


 慌てる俺を無視して、一方的に話を終わらせる女神。

 そして視界はまた眩い光へ覆われると、俺の意識はまた深く沈んでいくのであった――。


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