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第12話 ピンク

 店の女に引っ張られ、我は狭い密室へと連れてこられる。


「な、なんなのだ!?」

「大丈夫ですよー、全部わたしに任せてくださいね」


 任せるって、何を任せるというのだ!?

 意味が全く分からない状況に、魔王である我をもってして謎の恐怖に包まれてしまう。


「では、服を脱いでください」

「ぬ、脱ぐだと!?」

「はい! 服の上からだと、よく分かりませんので」


 ここは下着の販売店……。

 つまりこの女は、これから我の胸のサイズを測ろうということか……。


 まぁ魔王城でも、使用人に全てやらせていたのだ。

 だからこの女も、自分の使用人だと思えばよい……。


 そう自分を納得させながら、我は言われた通り上着を脱ぐ。


「あら? 何も付けていなかったのですね」

「ああ、今洗濯中でな。だからここへ来たのだ」

「なるほどなるほどー、それじゃ早速サイズを測ってしまいますねー」


 付けていないことに少し驚くも、手際よくサイズを測ってくれる女。

 どうやらこの世界では、下着を付けているのが当たり前のようだ。


 こうしてトップとアンダーのサイズを計測した結果、どうやら我はジーらしい。

 何のことかよく分からないが、女がグーポーズを向けてくるから悪いものではないらしい。


 というわけで、女が持ってきた我のサイズに合った下着セットを全て手にすると、シンヤに確認することにした。


「シンヤ、どうやら我はジーらしい! これらが我のサイズに合うそうなのだが、どれを買えばよい?」

「そ、そうか」


 普段無表情なシンヤが、我がジーだと伝えると少しだけ頬を赤らめる。

 その反応から察するに、どうやらあの女の言う通りジーとは良いものなようだ。


「……お前は、どれがいいんだ?」

「ん? 我か? ……うーむ、この世界のデザインはよく分からんが……」


 真っ白なものから、花柄の鮮やかなものなど、本当に様々なデザインがあることに驚かされる。

 しかしこういうのは、昔から自分で選んだ経験がない。

 大体こういう時は、使用人やリリムに「どれがいいか選べ」と一言命令して済ませてきたのだ。


 だからここは、シンヤに判断を委ねることにしよう。


「よく分からんな。だからシンヤ、お前が好きなものを選んでくれ」


 元々我は、この世界の通貨を持っていない。

 だからここは、買ってくれるシンヤが選ぶというのが筋だろう。


 そう思い聞いたのだが、ここで一つ異変が起こる――。

 見る見るうちに、シンヤの顔が赤く染まっていくのである。

 相変わらず無表情なくせに、しっかりと顔だけ赤らめているシンヤの姿に、我は思わず吹き出してしまう。


「なんだ? 何故そう赤くなる? 買うのはお前だ、いいから好きなものを選べ」

「……まぁ、そうだな。ピンクのやつ、かな」

「ほう? これか。ならばこれを――」

「いや、全部買って行こう」

「なっ!? 良いのか!?」

「大丈夫だ、さっさとレジに行くぞ」


 耳まで真っ赤に染めたシンヤは、そう言って会計をしに向かってしまう。

 慌ててそのあとを追うと、本当にシンヤは手にしていた5つのもの全て購入してくれた。


「どうされます? お一つこのまま付けていかれます?」


 女の問いかけに対して、シンヤは黙って頷く。

 であればと、我は買ったものの中から、せっかくだし先程シンヤが選んでくれたピンクのものを付けていくことにした。

 ちょうど下も穿いていなくて、スースーして変な感じだったのだ。


「……なるほど、ここを後ろで掛け合わせるのだな」


 細部まで凝ったその精巧な作りに、つい感心してしまう。

 この世界では、本当に何から何まで驚かされてしまうな――。


 そんなことを考えつつも、無事に下着を着ることができた我は、備え付けの鏡で自分の全身姿を確認する。


 ピンク色の可愛らしい下着を身に付けた自分の姿――。

 向こうの物とは違い上質で、可愛くもどこかセクシーさも感じられる自分の姿を前に、途端に恥ずかしさが込み上げてくる。


 というか、これ――。

 さっき、シンヤが選んでくれたものなのだよ、な――。


 何の気にせず選んだが、今我が身に付けている下着はシンヤが選んでくれたもの。

 そう意識してしまうと、何だか物凄く恥ずかしくなってきてしまう……。


 しかし、このままここにいるわけにもいかないため、我は着てきた服を着ると平然を装いながらシンヤの元へと戻る。


「……ちゃんと着れたか?」

「あ、ああ……着れた……」

「そうか……じゃあ、次行くか」

「うん……」


 どことなく、素っ気ない様子のシンヤ。

 それは我も同じで、お互い恥ずかしさで上手く言葉を交わせないのであった――。



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