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失われた王冠  作者: 心晴
第一章
9/17

平民軍①

こんにちは、心晴です。

本日もお付き合い頂きありがとうございます。本日も4話分、公開予定です。

最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。

 俺たち三人はティアナの屋敷で沈黙を貫いていた。ランディの受け入れをどう処理するかの話し合いを行おうと、夕食後にこうして集まっているわけだが、誰も話さない。こんな状況が十分ほど続いた頃、俺は重い口を開く。


「……ランディの話と俺たちに求められていることを整理しよう」


 俺は闇市から依頼人のいる洞穴へ戻る最中に聞いた話をティアナにも共有する。


 まずランディが平民軍の一人であることは間違いなさそうだ。そして以前ティアナがブライトンの使者から聞いた話の通り、平民軍は四大貴族と張り合っている。平民軍の目標は、四大貴族を滅ぼし、国を再建するということだそうだ。しかしブライトン使者の話をした時にも三人と共有した通り、平民だけではこの大陸の結界を貼り直せない。つまり平民軍が本当に四大貴族を滅ぼしてしまえばそれはこの大陸が沈むということになる。


 ここで俺は自分の考えを二人と共有する。俺は再びこの国を治めるつもりはないため、結界の外の大陸へ亡命希望である。外の大陸はウルカトリアよりも更に酷い戦乱の世界かもしれない。しかし俺の王族という立場からの離脱を考えると外の大陸に希望を感じている。もしも外の大陸がウルカトリアよりも酷い状態なら、その時はまたどうするか考える。


 これが今の俺の考えだ。


「蒼真、おまえはどうしたい?」


「僕はライに従うだけだよ。自分の考えがないと思われるかもしれないけど、僕はライアに忠誠を誓った身でもある。その決意は今も変わらない。ライアが思う幸せに向かって僕も協力したい。これが僕の気持ちだよ」


 蒼真の目に曇りはない。間違いなく本心だろう。誰が見てもそう言いそうな、そんな視線と口調だった。


「そうか……ありがとう」


 俺は小さな声で蒼真に礼を言う。彼はいつも俺に従っていたが、決して自分の気持ちを蔑ろにしている訳ではないということを聞いて安心した。


「ティアナ。おまえはどうしたい?」


「私は……」


 ティアナは迷っているようだった。少し黙り込んだ後に、ぽつぽつと話し始める。


「私は、この前話した通り。この大陸から出ていくつもりはない。だけど、お父様が宣言した通り、私は中立の立場でもあるから、平民軍に味方することは本当は出来ない。でもお父様の宣言は、私たちを危険にさらさないための宣言よ。中立を謳っていれば私たち一族の力を欲している四大貴族からは攻撃されることはない。でも、もう私は安全を享受するだけの立場でいたくない。今の一族の長は私」


 そこまで言うと、ティアナは深呼吸してさらに続ける。


「私の意思は、戦争を終わらせたい。それだけ。そのためには平民軍に味方するのが一番の近道だと思っている。でもそれは、ライ。あなたが平民軍に味方をすればの話よね。あなたの力がなければ例え平民軍が四大貴族を滅ぼしたとして、戦争が終わったとしても大陸は沈むだけ。それでは戦争が終わった意味もないわ。私の願いは、二人を説得して平民軍に味方してもらうこと。そして以前のような平和な大陸の世界を取り戻したい」


 ティアナの目は蒼真と同じくらい力が籠っている。この中で一番適当なことを言っているのは自分ではないかと思うくらいの力だった。


「……わかった。俺が平民軍に味方しなければ、ティアナはどうするつもりなんだ?」


「まだわからないけど、その時はきっと今の生活を続けると思うわ。でも、私は二人との出会いを、戦争を終わらせるための運命だと思ってる」


「つまりこれは、ライがティアナを連れて外に行くか、ティアナがライを巻き込んでここに残るかってことだね。僕にとっては、ライの案では外の大陸が平和とは限らないという不安が。ティアナの案では四大貴族を敵に回して自らを危険に晒すという不安があるってわけだ」


 蒼真が話をまとめる。この話はどちらかが折れない限り平行線を辿るだろう。


「ところでライ、結界の外にはどうやって出るの?」


 ティアナが尋ねてくる。


 俺は過去に蒼真と結界の外に出ようと大陸の果てまで行ったことがある。その時の話をティアナにする。


「結界は魔力の壁だ。簡単に出られると思って、敵地から逃げ出したすぐあと、蒼真と大陸の果てまで行った。だが、魔力の壁は俺たちを通さなかった。そのあと王城の書庫で、『結界は生物を通さない』という記述を見つけた。結界の外に出るとは言え、正直まだ具体的な作戦はない」


 結界を張ったイヴァイロは、結界外から自身の敵が入ってきて再び戦乱を巻き起こすことを恐れ、結界は生物を通さないよう作られていた。


「それじゃあ、やっぱり平民軍と協力して……」


 ティアナが脱線した話題を立て直す。


「俺も、俺たちは三人でひとつだと思っている。出来ればここで意見を割って、離れ離れになりたくない」


「それは私も同じよ。今更二人がいない生活なんて嫌だけど、私は二人とこの大陸で暮らしたい」


 やはり話はまとまらない。明日にはランディが答えを聞きに闇市へやって来る。


「……とりあえずもう遅い。今日は色々あって全員疲れていると思う。あとはどうするか、個人で決めよう。」


 俺は話を無理やり終わらせる。この話題は頭が痛くなりそうだ。蒼真は俺に着いてくると言ってくれているが、ティアナはそうじゃない。ティアナと離れるのははっきり嫌だと俺は感じていた。


 *


 翌日の正午、俺たち三人は闇市にやって来ていた。ランディは既に到着しており、期待に満ちた目を俺たちに向けていた。


「やっと来たか!待ちくたびれたぞ」


「僕たちは時間ピッタリなはずなんだけどなぁ。約束の時間は正午だったよね?」


「そうだったな。つい早く来てしまったのは俺の方だ。すまない。それで……」


 横でティアナが緊張しているのを感じた。


「それで、話し合いはどうなったんだ?」


 俺は二人より早くに口を開く。意見は早い者勝ちだ。


「俺はやはりおまえたちに協力する気はない。魔法について教えるのもだ。深い事情があるんだ。悪いがわかってくれ」


 ランディは驚いたような、ガッカリしたような顔で俺を見てから蒼真を見る。


「僕はライに合わせるから、ごめんね」


 二人に断られたランディは絶望したような表情を浮かべ、縋るような顔をしながら最後にティアナを見た。


「……私は、やっぱり、この大陸を守りたい。だから、あなたたちに、協力します」


 俺はその言葉を聞いてどんな顔をしただろうか。


「本当に!?」


 ランディの希望に溢れた声が耳障りだった。


「はい。私は平民軍に全面的に協力して、力を貸します」


 その後はティアナとランディで話がどんどん進んでいき、俺はすっかり置き去りにされてしまった。そして話は進み、ティアナの屋敷は平民軍の陣地となることが決まり、そこに俺たち二人は滞在することが出来なくなった。


 *


「ライ、忘れ物はないよね?」


 翌日、俺と蒼真はティアナの屋敷を出ていくための準備をしていた。


「忘れるものがあるほど俺たちに荷物はない」


 俺は少し気だるく思いながら答える。ここでの生活は快適だった。ずっと三人で笑いながら過ごせると思い込んでいた。まさかティアナが平民軍に参加することを選ぶとは思っていなかった。


 思えば、今まで自分の思い通りに事が進んできたことが大半だ。蒼真も俺に従っているし、戦争前も俺に反論する者は基本的にいなかった。そんな中で、いつの間にかティアナも俺に従ってくると勝手に思い込んでいたのだろう。だから昨日、このことが決まってからこんなにも苦しく、寂しく、そして悲しいのだろう。


「そうだね。じゃあ行こっか。どこ行く?」


「……とりあえず王城の書庫に行って、結界に穴がないか調べてみることにする」


 俺はモヤがかかったような頭を動かし行き先を決める。ティアナとは、平民軍の受け入れが忙しいようで、昨日協力が決まってから一度も話していない。俺は裏口を開けて立ち止まる。もしかしたらティアナが止めに来るかもしれない。


「どうしたの?ライ」


 蒼真が立ち止まった俺を不思議に思い声をかけると俺は正気に戻った。彼女が送り出しに来ることはないだろう。平民軍の受け入れや、四大貴族への対応など忙しくしているに違いない。それがとても不快に感じた。俺は力強く歩き出し屋敷を後にした。


 その後俺たち二人は以前と変わらない生活をしていた。困っていそうな依頼人を見つけては依頼をこなして賃金を得る。時々王城の書庫で結界を破る方法を探しながら過ごしていた。


 そういえば、以前王城で拾った宝魔剣は、錆がどうしても落ちないとのことで闇市では鍛え直せなかった。見た目は悪いが、以前も感じた通り魔力の浸透率が高く、愛用している。蒼真にも試してもらったが、蒼真の魔力とは相性が悪いのか彼には理解してもらえなかった。

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