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失われた王冠  作者: 心晴
第一章
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日常④

 金を盗まれた。最悪だった。王城に言ったのもニーアを治したのも無駄足だったのか。


「誰に取られたんだ?」


 俺は一応相手を尋ねる。取り返すどころか相手によっては追加で報酬を得られるかもしれないからである。なによりもタダ働きはごめんだった。


「黒豹のやつらだ……」


 黒豹とは巷では有名な盗賊集団だった。闇市では有名な俺たちも、金銭を狙われて何度か交戦したことがある。街を歩いていて一番注意するのは彼らだ。ティアナも確か黒豹に捕まったと言っていた。


 一人の盗賊にはない集団性を持つ盗賊団。厄介ではあるが、まだ近くにいるのであれば取り返すこともできるだろう。


「ライ、黒豹に報酬横取りされちゃうよ! 取り返しに行こう!」


 蒼真は慌てて剣を抜いて、今にも洞穴から飛び出しそうだった。


「どこで襲われた?」


「闇市の入口近くです……。盗んだ金で闇市に行くと言っていた。多分まだ闇市にいるはずだ……」


 薬草ひとつで銀貨三枚も手に入れるのだ。盗賊共の相手くらいしても良いだろうと考え、俺たちは闇市に向かうこととした。


「ティアナはここで待っていてくれ。討伐は慣れてる俺たちが行く」


「……わかったわ」


 *


 闇市まで来ると見覚えのある黒豹たちはすぐに見つけられた。銀貨をチラつかせて酒を飲んでいた。支払う気がないのは誰もがわかっているが、黒豹に逆らっても戦える者は闇市にも少ない。


「おいおまえら。さっき男から銀貨三枚奪っただろ。それは俺たちの金だ。さっさと返せ」


 俺は単刀直入に切り出す。変な駆け引きは無用だ。今日の黒豹は三人。交戦したことのある二人の盗賊は俺たちを見て心底嫌そうな顔をする。見ない顔の一人が俺の言葉に乗ってきた。


「なんだよてめぇら! これは俺の金だ。文句あるなら殺っちまうぞ!」


「おい、やめろって……。そいつらは……」


 恐喝に怯えることなく、蒼真が一歩前へと歩み出て剣を構える。


「へぇ……。戦闘希望なら受けて立つよ?」


 少しずつ俺たちの周りに人だかりが出来ていた。中には他の黒豹メンバーもいる。奇襲にも気をつけた方が良いだろう。


 蒼真が剣を手に入れてからは戦いは基本彼に任せている。俺の魔法は媒体なしでも発動できる。しかしそれは悪目立ちする。媒体なしで魔法を使える者は四大貴族以上ほどの強い魔力を持った者のみだからだ。闇市からどこかの貴族に情報が渡れば俺は貴族に見つかり、顔がバレて正体がバレれば殺される。


 交戦済みの二人は蒼真だけが剣を構えるのを見て焦りから余裕を取り戻していた。三対一なら勝てると思ったようだ。


「後ろの兄ちゃんは良いのか。大切なお友達が殺されるかもしれないぞ?」


 そのとき盗賊は俺を見てあることに気がつく。


「そこの兄ちゃん、武器が錆びてるじゃねえか! そんな剣じゃ戦えねえよなぁ!」


 黒豹三人は余裕を取り戻し笑いあっている。そんなことはお構いなしに蒼真が切りかかる。奇襲を受けた黒豹三人は慌てて蒼真の剣を後ろに飛んで避ける。それぞれ短剣や鉄球を構え、今度は怒りに満ちた表情をしていた。


「調子に乗りやがって!」


 黒豹三人は一斉に蒼真に襲いかかる。蒼真は軽々と盗賊共の攻撃を避け、圧倒し続ける。


「こいつ……! 強い!」


 蒼真と交戦中の一人と目が合ったように思えた。正確には盗賊の目は俺の後ろを見ていた。俺は後ろから敵意を感じ、仕方なく錆びた魔剣を抜く。魔法を使うよりも目立たないと考えたためだ。


 その後すぐにもう一人の盗賊が俺に襲いかかってきた。魔剣に魔力を通し、錆びている剣ではなく魔力で受け止める。周りから歓声が上がる。ほとんどの平民には魔力を感知する力がないため、錆びた剣で盗賊と戦っているように映っているのだろう。


 それにしてもさすがは宝魔剣だ。魔力の浸透率が高く、速い。これは錆びたままでも戦力になりそうだった。続いて弓矢が飛んでくる。これも剣で受け止めたように見せかけて魔力で防いでいく。敵は思ったより多い様子だった。


 弓士を探しながら襲いかかる盗賊と交戦する。剣の腕は蒼真に比べてしまえば大したことはないが、盗賊二人程度なら充分に相手できるだろう。


 蒼真はあっという間に黒豹三人を制圧していた。俺を狙っていた弓が蒼真に狙いを変えて飛んでいく。


「矢が……!」


 ギャラリーの一人が忠告をすると同時に、蒼真は矢を弾き落とす。弓士に動揺が走り、隙が生まれた。好機を逃さず俺は剣を持たない方の手で軽い攻撃魔法を放つ。魔法は弓士に命中し弓士は気絶する。残っていた一人の黒豹は慌てて逃げ出した。


 蒼真は人あたりの良い笑顔を浮かべながら再度三人の黒豹に尋ねていた。


「どうする? まだ続ける?」


 黒豹三人は銀貨三枚を懐から取り出した。


「ありがとう」


 蒼真は銀貨三枚を受け取ると剣を鞘に収めた。黒豹三人はそこを見逃さずに逃げ出した。周囲の野次馬から口笛が飛んでくる。


「蒼真、銀貨三枚で逃がすなんて甘すぎじゃないか?」


 俺は黒豹から追加で命乞いの賄賂を受け取るつもりだった。だが蒼真は銀貨三枚でやつらを逃がしてしまったのだ。


「そうかな? でも依頼料は取り戻したしもう充分じゃない? 無駄な恨みは買いたくないし。それより早く洞穴に戻ろうよ」


 戦いに勝った蒼真がそう言うのなら仕方ない。俺たちは洞穴に戻ることとしたが、そのとき野次馬の中から一人の青年が待ってくれと現れた。


 俺は依頼の気配を感じ眼鏡の青年に目を向ける。


「きみたち、黒豹を追い払うなんてとても強いんだね」


「そりゃどうも。おまえは?」


「俺はランディ。魔法使いだ」


 ランディと名乗る彼はおそらく平民の中でも魔法を使える者の一人だろう。貴族ならわざわざ自分を魔法使いだとは名乗らない。魔法使いと名乗るのは魔法が使える平民だけだ。


「俺はライ、こっちが蒼真だ」


 俺は身分を隠して自己紹介をした。


「ライというのか。さっききみが使っていたのは魔法だったよな?精度が高くて驚いたんだ。もし良かったら俺たち魔法使いに魔法を教えてくれないだろうか?」


 俺はその話を聞いて依頼ではないと割り切った。平民に魔法を教えたところで報酬は弾まないし、たとえ報酬がそこそこのものだとしても割に合わない。断ろうとした時、蒼真が先に発言した。


「良いですが、高いですよ?」


 ランディは蒼真の言葉を聞いてとても驚いていた。まさか承諾されるとは思っていなかったのだろう。その上お金を取られるとも思っていなかったようだ。目をまん丸にして言葉を発する。


「え? お金取るんですか?」


「……当たり前だ。魔法とは知識だ。知識は安くない」


 断るつもりだったが、お金を取るのなら話は別だ。しかし知識は安くない。


 ランディは面食らったようにその場で立ち尽くしていたが、そこをなんとかと俺たちに食い下がってきた。俺たちは彼を置いて依頼人の待つ洞穴に戻ろうと歩き出す。話だけでも、とランディは俺たちについてきた。洞穴に戻る途中、ランディはひたすら訴えかけていた。彼はどうやら平民軍の一人のようだった。


 *


 洞穴では顔を真っ青にした依頼人と、顔色がすっかりよくなっていた妹、二人を安心させるように振る舞うティアナが待っていた。ティアナは俺たちを見ると花のような笑顔を向けてきた。彼女なりに不安だったのだろう。


「ライ、蒼真。おかえりなさい! 無事でよかったわ」


「帰ってきたか……! その、黒豹は……」


「大丈夫です、僕たちが勝ちました」


 蒼真は銀貨三枚を依頼人に見せる。


「ああ、よかった……。その銀貨三枚はどうぞ持っていってください。妹から聞きました。薬草を持ってきてくれたのだと。それにさっきの俺の怪我も直してもらって、色々とありがとう」


 依頼人は頭を下げてお礼を言う。そこでランディが口を挟む。


「銀貨三枚? 黒豹の討伐でか?」


 答えたのはニーアだった。


「違うよ。このお兄さんたちはニーアの病気を治すために薬草を取ってきてくれたの」


 ニーアに続いて依頼人も話を続ける。


「それだけじゃない。そこのお嬢さんは怪我を負った俺に魔法で治療を施してくれた。話によると黒豹を追い払ってくれたのも事実のようだ。銀貨三枚じゃ足りないくらいのことをしてくれた」


 俺は依頼人がティアナの魔法について言及したことでまずいと思った。ランディは革命軍として魔法使いを探し集めている。治療のできる魔法使いは貴重な戦力になるだろう。


「魔法だって!? お嬢さん、治療の魔法が使えるのかい? それはぜひ話を聞いてほしい! 俺たちは……」


「もういい。わかった。俺たちは平民軍に参加するつもりはないし、おまえたちに力を貸すつもりもない」


 俺はランディの言葉に割って入る。しかし反応を示したのはティアナだった。


「平民軍って、四大貴族と張り合っているっていうあの……?」


 ランディはここぞとばかりに話し始める。


「そうだ! 俺たちは戦争を終わらせるために魔法使いや、強い剣士を探している。俺はランディ。お嬢さん名前はなんていうんだ?」


「私はティアナ。よろしくお願いします、ランディさん」


「ティアナか、良い名前だ。ライ、蒼真、ティアナ。三人はまさに俺たちが欲している戦力で間違いない。危険な道ではあるが、この戦争を終わらせるためにどうか力を貸してほしい!」


「さっきも言ったはずだ。俺たちはおまえたちに力を貸すつもりはない」


「待ってライ。もう少し話し合いたいわ。蒼真はどう?」


 ティアナは先日冗談とは言っていたが平民軍に力を貸すことに積極的なようだ。ここで話を続けても俺たち三人で話が割れてしまう。


「僕はライの決定に合わせるよ。でも、ランディが欲しがってるのは僕ら三人の力でしょ?それならこの話は一旦持ち帰って、僕ら三人でもよく話し合うべきじゃないかな」


 蒼真は俺を見ながらそう答える。ここで話していても話が平行線になるのは蒼真も感じていたことのようだ。


「それもそうね……。ランディさん、一度この話は持ち帰らせてもらってもいい?」


 ランディは期待に満ち溢れた目をしている。俺たちが前向きに検討すると思っているのだろう。


「わかった。では明日の正午、闇市で待っている。良い答えを期待しているよ」


 そう言うとランディは洞穴を去っていった。俺たちも依頼人に別れを告げ、ティアナの屋敷へと帰っていくことになった。

心晴です。ここまでお読み頂き、本当にありがとうございました。本日の公開はここまでといたします。


未だタイトルが決まらないため、素敵なタイトル案がございましたらぜひとも教えてください。

また、簡単な感想でも良いので、皆様のお声をお聞かせください。初めての投稿、執筆なので、たくさんのご意見と向き合いたいと思っております。


それでは、ありがとうございました。

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