表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失われた王冠  作者: 心晴
第一章
6/17

日常②

 翌日早朝からティアナは家業に勤しんでいた。


 昨日今後について話すと決めたが、なかなかタイミングがない。俺と蒼真はティアナの客に見つからないように別室で待機していた。


 時々裏口から二人で外に出て買い物や困っている人の依頼をこなしている。ティアナが一緒に仕事をしたいと言ったは良いものの、なかなかタイミングが合わず、この数週間俺たちは二人で変わらずに依頼をこなしていた。


 ティアナの仕事が終わったのは夕方過ぎだった。


 俺が想像していたよりもティアナの仕事は忙しかった。朝は特に忙しそうだ。深夜の奇襲の結果生まれた怪我人を癒すことが多い。だが、怪我人を癒している間は宝のような情報がたくさんもたらされる。なにせ相手は領主四大貴族だ。戦況を戦場に赴かず、安全な場所で聞けるのはとても大きな収穫だった。


「ライ、蒼真、お待たせ。もうお客様はいないわ」


「そっか。お疲れ様、ティアナ。さっきキッチン借りて軽食を作ったんだ。良かったら食べない? お腹すいたでしょう?」


 蒼真は先程作ったサンドイッチをティアナに差し出す。ティアナはそれを受け取り嬉しそうに微笑んだ。


「蒼真、ありがとう。ちょうどお腹がすいていたのよね」


 蒼真に亡命の話はしてある。俺はサンドイッチを食べているティアナを見て頃合を見計らう。


「どうしたの、ライ?」


 俺の視線に気づいたティアナが話を振ってくる。ちょうど良いだろう。


「ティアナ、俺たち三人の今後のことなんだが……」


 ティアナはサンドイッチを食べていた手を止め、真面目な顔つきになった。そして俺はこの大陸の話と亡命の話をティアナにした。


 *


 ティアナはどうしたらいいのか分からないような顔をしていた。


「亡命ね。この国は、もういいの?」


「こんな混沌とした大陸、捨てるしかないだろう。時期に沈むだろうし」


「僕はライに従うよ」


 ティアナは少し悩んでから答えを出した。


「わかったわ。二人はそれでいいと思う。でも私はこの国を捨てられない」


 ティアナは言葉を続ける。


「私はこの大陸と浄土を繋ぐ橋渡人よ。もし私がいなくなったら、魂は道に迷って永遠とこの地の狭間をさまようわ。そんなの私の血が譲れない」


 ティアナははっきりそう言った。この数ヶ月、ティアナと過ごしてきて感じたのは、彼女の魅力的な部分ばかりだった。俺は間違いなく彼女を気に入っていたため、共に亡命しないというのはやはり残念だった。


「でも二人と離れ離れになるのはやっぱり寂しいわね。何か良い考えがあるといいのだけれど…」


 そのときティアナは思い出したように手を叩く。


「そういえば今日いらしたブライトンの使者の方が、こんなことを言っていたの」


 ティアナは現在の戦況を聞いた限り話してくれた。


 現在四大貴族は誰が大陸の礎に魔力を供給するか、つまり結界を張り直すかで争っている。単純に一番強い貴族がそれをすることになるだろう。しかし四大貴族が争う中で平民軍は負けずと猛威を振るっていた。それが四大貴族にとっては厄介なようだ。


 平民の多くは魔法を使えない。しかし平民軍は領主からの厳しい課税や徴兵に不平不満を漏らし、日に日に四大貴族領土を離れ、平民軍として王都に集まってきており数が多い。一度平民軍を叩こうと、貴族間で同盟が結ばれようとしているらしい。


 四大貴族と平民軍の実力が均衡しているのも驚いたが、もしも平民軍が四大貴族を滅ぼすようなことが起これば、大陸は結界を維持できなくなりすぐに沈むだろう。俺は気づいた。もしも平民軍に俺たちが加担すれば。


 平民軍に足りないものは大陸を支える魔力だ。王族や四大貴族はその膨大な魔力で大陸の結界を支えることができる。俺が平民軍に加担すれば、この大陸の覇権を握るための条件が、平民軍にも四大貴族と同じように揃うのだ。王権が失墜したのは四大貴族からの反乱であり、平民の中には王権の復権を渇望する者も少なくないという。平民の中に王族の血を引くものが居ないか平民軍は探しているらしい。


「ねぇ、私たちが平民軍に加担すれば戦争を終わらせることができると思わない?」


 ティアナは冗談を言うように笑いながら話す。


 俺はあまり気が進まない。四大貴族に親族を殺された恨みはあるが、進んで戦争に参加したいとは思わない。しかし、ティアナがこの大陸に残るというのなら、彼女を守るため平民軍に加担するのは悪くないかもしれない。彼女だけではない。蒼真は立場上俺に従う姿勢でいるが、本当は国を捨てて外国へ行くことに好意的なのかわからない。俺の亡命への決意は揺らいでいた。


 *


 ある日俺と蒼真は軽く変装して闇市に依頼と品物を探しに来ていた。貴族や平民の中には俺たちの顔を知っているものもいるかもしれないため、念の為の変装だ。


 闇市に溢れるのは品物だけではない。生活に困った平民も溢れかえっている。そこから依頼を見つけるのが今の俺たちの生業だ。


 しかし、ここまで苦しむ平民を見るのは堪えるものがある。仮にも王族として民の平和と国の繁栄を学んできた身だ。闇市に広がるのはその真反対。略奪と暴力。市場にはピリピリとした空気がいつも纏われていた。


 顔なじみの八百屋では鮮度の良さげな野菜を見つけた。俺は盗られないように財布を強く握りしめ、野菜を購入する。


「兄ちゃんたちはいつもまともな取引ができるから信頼してるよ」


 まともな取引ができず、盗み盗まれを繰り返すのがこの闇市だ。その中で俺たちは盗むことなく、また蒼真の護衛のおかげで盗まれることもなく過ごしている。闇市の中では良し悪しともに有名人だ。


「そりゃどうも」


 俺は買った野菜をカバンにしまい込む。


「帰り道には気をつけなー。おまえさんたちは羽振りが良いからな。今もそこらからおまえの財布を狙う盗賊どもが目を光らせてる」


「お互い様だな。おまえも俺がやった金を取られないようにな」


「もちろんさ」


 八百屋の店主はここで声をひそめて俺たちに問うてきた。


「ところで、おまえさんたち、湯水のようにお金が湧いてくるな。一体どこで何をしているんだ?本当はどこかの坊ちゃんってことは」


 その時だった。俺たちに向かって盗賊が剣を振り下ろしてきた。


「ひえええー!」


 店主は情けない声を上げてお金と上物の商品を集め店の奥へと逃げていく。蒼真は盗賊の剣を余裕な顔で打ち返す。護衛として十二分な働きだ。蒼真の剣が盗賊の首をとらえる。


「待ってくれ!」


 盗賊は命乞いを始めた。


「妹がいるんだ。病気で、薬を買うには金が必要なんだ!」


 この盗賊は金を欲しているらしい。


「俺がいなければ妹は死んじまう! 頼む、見逃してくれ!」


 蒼真は盗賊の首に剣をあてたままニコリと微笑んで俺を見た。依頼を見つけた顔だ。


「妹の様子を見せろ」


 俺は盗賊に向かって言う。盗賊は驚いたような顔を一瞬見せるがすぐに願いが聞き入れられたことを察し泣き出した。


「ありがとう……ありがとう!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ