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失われた王冠  作者: 心晴
第一章
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日常①

こんにちは、心晴です。

ここまで辿り着いてくださりありがとうございます。ここから第一章になります。最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。

「ライの本名ってライアなの?」


 ティアナと話している時、不意にそんな質問を受けたことがある。蒼真が俺を叱るときなど、そう呼ぶことが時々あるからだろうか。


「ライアじゃない。ライアルト・ウルカトリアだ」


 俺は少しムッとして応える。ライアと呼ばれるのは昔から好きではない。


「疑ってるわけじゃないけど、本当に?」


 疑うのも無理はないだろう。このウルカトリア大陸で、大陸の名前をラストネームに持つということは、大陸の統括者であることの裏付けだ。そしてこの名前を知らない者はおそらくいない。


「信じなくても良い。王族は全員死んでいるはずだからな」


 屋敷の扉の開く音がした。闇市から蒼真が帰ってきたのだろう。


 ティアナが俺たちの仕事を手伝いたいと言ったあとも、俺たちは変わらず屋敷で生活していた。彼女の家業はこの前に見た魂の浄化だけではなく、傷ついた兵士たちの回復も担っていたため、四大貴族からも重宝されており、前当主は完全中立の立場を示していた。そのため屋敷を襲撃されることはない。


 何者かがティアナ一族を攫うか懐柔してしまえば、今の均衡を保っているこの情勢は一気に崩れるが、それは全領主を敵に回すことと同義だ。危ない賭けを行う貴族が出てこない限り、彼女の屋敷は盗賊などの侵入を除けば安全であった。


 ちなみに前当主夫妻が亡くなったことは公になっている。夫婦を殺したのは盗賊だったため、まだ均衡は、ギリギリ崩れていない。


「蒼真も知ってるのかしら?」


「元々俺らは同じ城で育っていたからな。蒼真は俺に仕える騎士だよ」


「なに!? 僕の話!?」


 蒼真が部屋に戻ってきた。彼が傍にいるだけでその場の空気が和やかで明るいものになる。


「ライアルト殿下の……」


 ティアナが急に改まって喋り出すのを見て蒼真が吹き出して笑う。


「ぶはっ! 殿下だって殿下!」


「茶化すな。いつでもおまえから武器を取り上げられるんだぞ」


 蒼真は慌てて畏まる。


「申し訳ありません殿下」


「気持ち悪い。畏まるのはやめろ」


「はーい。ごめんねライ」


 蒼真は軽く謝ると、闇市で手に入れた物を倉庫へと運びに行った。


 捕虜時代、俺の身分を隠すため蒼真は俺に対する丁寧な振る舞いをきっかりやめたのだ。


 はじめは俺を守る友人のように振る舞う蒼真に違和感を覚えたものの、敵地での過酷な環境はそんなことをすぐに忘れさせてくれた。


「ティアナも畏まらなくていい。王族だとバレると殺されそうで厄介だ」


 完全中立を謳っているティアナからしたら俺たちは厄介な存在だろう。王族の生き残りだと知っていればおそらく一緒に仕事をしたいだなんて言わなかったはずだ。


「ライは戦争を終わらせるつもりはないの?」


 突然ティアナは怪訝そうに俺を見て問う。


「どうやって終わらせるんだ? 嫌われ者の王族は二度と貴族たちの上には立てない」


「それは……」


 ティアナは悲しそうに言葉を失った。


 *


 ティアナとの戦争の話のあと、俺は考えていた。


 大昔、世の中は戦乱の時代だった。


 領土を求め、様々な部族が争いあっていた。その中、一人の魔法使いイヴァイロが立ち上がった。


 彼はウルカトリア大陸の不思議な力を受け継ぐ魔法使いたちや同志を集め、戦争を終わらせるために活躍していた。もう少しで戦争を終わらせることができるというそのとき、彼は忠臣の裏切りに合う。


 全部族を敵に回した魔法使いイヴァイロは、この戦争に勝ち目はないと、ひとつの海に囲まれた大陸へ強固な結界を張り、数少ない仲間を率いて戦争から離脱した。


 その後大陸は魔法使いであるイーゲル、エルンスト、クルニコヴァ、ブライトン、そしてイヴァイロが治める5つの領土に分けられ、600年ほど、結界に守られた大陸は平和を保っていたのだ。


 俺は歴史を学んでいたので知っている。この大陸には、結界を保つための礎があり、その礎にイヴァイロ・ウルカトリアの子孫である王族が魔力を注いでいるから、結界が保たれる。


 そして結界の魔力は浮力となり、この大陸は海の上に浮いていると。


 その中、大陸内では戦争が勃発。


 礎に魔力の供給がない今、この大陸はしばらくしたら沈むだろう。


 正直、戦争どころではない。


 結界を張ったイヴァイロの血が流れている王族が礎に魔力を注いで結界を維持するか、王族には及ばないがそこそこの魔力量がある四大貴族の誰かが新しく結界を張るかしなければならない。


 俺はこの大陸を捨て、蒼真と共に結界と海を越えて、外なる大陸で穏やかに暮らす予定だ。礎に魔力を供給するつもりはない。四大貴族の誰かが新しい結界を張れば良いと思っている。新しい結界を張られるのが先か、それとも大陸が沈むのが先かはわからない。


 ところでティアナはこの先についてどう考えているのだろうか?先程の話からすると、ティアナにはそれなりの愛国心がありそうだった。共に亡命となると少し難しいかもしれない。


 明日三人で話してみよう。俺は明日全員の意見を擦り合わせることにした。

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