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失われた王冠  作者: 心晴
第一章
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平民軍③

「大陸を囲む結界の話は覚えているか?」


「ええ、もちろん。私たち平民軍の最大の難点でもあるもの」


 平民軍にとって、戦争で生き残り、勝ち抜くことはひとつ目の通過点に過ぎない。生き残ったところで結界がなくなればなんにせよ大陸は沈み、人間は生きることが出来ない。


「結界の話はどこまで知れ渡っているんだ?」


 大陸の礎の話は地位の高い研究者ですら知らないことも多い、いわゆるトップシークレットな話題である。王族や四大貴族は生まれた時から貴族としての義務や責任の話と混ぜ合わせ、大陸の歴史は叩き込まれるらしいが、平民は知らなくて良い話だ。


「誰にも話していないわ。戦争後に大陸が沈むなんて話してしまえば、今戦争を生き抜くために頑張っているみんなの士気を下げることになってしまうもの」


 ティアナの言う通りだ。たとえ戦争を平民軍が制したとしても、ウルカトリアは沈んでしまう大陸であり、未来がないことを知れば戦争に勝つ動機がない。ティアナは目に力を宿して話を続けた。


「それに、私は二人が協力してくれるって信じてる」


 ティアナの言葉は、まるで決まりきっている未来の話をするように確信に満ちていた。その意思の強い言葉を聞くだけで、俺はティアナに協力するのが当たり前と思ってしまうほどに。


 だが協力するとしてもそれは今ではない。敵地に捕虜として捉えられた時、蒼真が俺を王族だとバレないように振る舞い命を救ってくれた。その時から俺は自分の命と蒼真の命を大切にしている。戦争に自ら進んで駆り出すのは命を投げ捨てるのと同じ行為だ。そんなハイリスクなことを決断することはできない。


「俺の気持ちは変わらない。今ティアナに協力することはできない。それより、王城の書庫でとある記述を見つけたんだ。それについて話したい」


 俺はティアナに協力できないと明言する。ティアナが悲しむ顔を見たくないと思いすぐに話題を元に戻した。


「俺たちは以前結界の外に出ようとして失敗している。その結界を超えるためにどうしたら良いのかと調べていたんだが、わかったことが『橋渡し人は結界を破り外の大陸へと橋渡しができる』ということなんだ」


「橋渡し人って、私のことよね?」


「あぁ、おそらく。だからティアナの力を借りたい。結界の外に出たいんだ」


 ティアナは不安そうな顔を浮かべてこう話した。


「力を貸すのは構わないのだけれど、私は今たくさんの貴族から狙われているわ。結界のあるところまで無事にたどり着くのは難しいと思う……」


 俺は自分の命を重んじているが、戦争に進んで駆り出すのと、やりたいことのために命をかけるのとでは訳が違う。俺は再びこの大陸の頂点に王族として立つのは無理だと思っている。以前ティアナにも話した通り、嫌われ者だからだ。


 なので戦争には参加しない。したくない。だが、亡命はしたい。この大陸の外で王とは無縁の地で、生きていきたい。そのために命をかけることは必然だと思っている。


「俺たちがティアナを追手から守る。それは俺のやりたいことに命懸けで挑むために必須事項だ。覚悟は出来ている」


 それでもティアナは不安そうな顔をしたままだ。


「……帰りはどうするの?」


 ……帰り?


 俺は思わず反復し、重大なことに気がついた。ティアナを結界のところまで無事に連れ出せたとして、俺たちは結界の外に出る。そのメンバーは俺と、蒼真と、ティアナの三人であると俺は大前提として考えていたのだ。


 だが今のティアナは平民軍のトップ。そしてティアナ自身も結界の外には出ないと明言していたではないか。


 俺は自分の身勝手さに気がついた。


「……すまない、考えていなかった。身勝手な考えだったな。今の提案は忘れてほしい」


 俺は三人でこれからも一緒にいることができないことをここで改めて認識した。結界のことに関してはやはり別の方法を考えるしかないのだろう。


 俺は屋敷を去るために席を立とうとした。その時ティアナが口を開いた。


「本当は二人に早急に伝えないといけないことがあったの」


 深刻な顔をしてティアナはそう切り出す。俺は思わず話を聞く体制を取っていた。


「もうすぐ、ここは四大貴族全員からの襲撃を受けます……」


「え? ど、どういうこと?」


 驚く俺たちを他所に、ティアナは事情を話し始めた。


「最近またずっと同じ夢を見ているの。二人がここに来ること、私本当は知っていたの」


 しばらく同じ夢を見ていること、それはティアナの予知夢の特性だ。


「どうして二人がここに来るのかまではわからなかった。だから今までの話し合いはとても有意義なものだったわ。話してくれてありがとう」


 ティアナは苦笑を浮かべ、俺たちを見ながら話を続けた。


「二人が帰る時、ここは襲撃される。どうなるのかは、わからない。だから……っ」


 ティアナからの説明の途中、応接室の窓が割られた。そこからティアナに向かって魔法が飛んでくる。


「ティアナ! 危ない!」


 窓側に座っていた蒼真が反射的な動きよりも早くに剣を抜き、魔法を相殺した。思わずほっとできたのはほんの一瞬だった。魔法は次から次へと飛んでくる。ティアナを守るように、俺も蒼真に加勢する。だが、二人で捌ききれる量の魔法をはるかに超えている。ティアナに怪我はないが、応接室はあっという間に綺麗だった見た目を変え、戦場のようにあちこちから砂煙が上がっていた。


「ティアナ様!」


 先程外で雑談をしていた兵士たちが慌てて部屋に入ってくる。


「ライア! ティアナを連れて奥へ!」


 蒼真は一瞬で窓の外を確認し、俺たちを奥へと逃がそうとする。


「待って蒼真! 危ないから一緒に……!」


 その間も魔法は休みなく飛んでくる。後から合流した兵士たちも魔法を捌くのに加勢し始めたため、部屋の中を荒らすことは圧倒的に少ない。今なら窓に背を向けてティアナを奥へと逃がすことが出来るだろう。


「ティアナ様!」


 応接室にランディが到着した。


「ランディ、敵はどこに? 怪我人は!?」


「屋敷の東側の怪我人が多いです、敵は東側かと!」


「この部屋に飛んでくる魔法はティアナの兵士たちに任せるよ。東側だね、僕行ってくる」


 蒼真がランディからの情報を得て、窓から飛び出そうとしていた。


「蒼真! 待て! 一人じゃ……!」


 俺の忠告は間に合わなかった。蒼真は窓から敵軍へと向かって行ってしまった。


「ランディ、怪我人のところに私も連れて行って」


「敵軍はまだたくさんいます! 危険です、できません!」


 俺は蒼真を追いかけたい気持ちとティアナから離れたくない気持ちの間で葛藤していた。


 飛んできた魔法の量からして敵は決して少なくない。そんな中に蒼真が一人で行くのは彼がいくら手練だからといっても危険すぎる。


 だがここで兵士たちにティアナを任せて蒼真を追いかけるのはリスクが高い。敵の狙いはティアナだ。攻撃が集中するのはここで間違いない。それならば。


「ランディ! 俺とおまえを先頭に東側へ向かう! 後ろに兵士を付けろ! 背中は兵士たちに任せるしかない!」


「ライ、いくら強いきみでもそんな突然……!」


「ライに私は賛成よ。ランディお願い、案内して!」


 ティアナの口添えもあり、ランディはわかったと頷く。


「こっちです」


 俺たちはランディに連れられて敵軍の元へと走った。

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