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2-6.スカウトされがちベルベット

「御前試合は御前試合ですよ」

「いやそんな当たり前、みたいに言われても」

「他にどう説明しろというのです。王の御前にて己が得意とする武器を用いて、実力を示すから御前試合なのですとも言ってほしいのですか」

「そういうのじゃなくてぇ」


 ベルベットが困り果てるとセノフォンテは眼鏡をくいっと動かす。

 

「ええ、わかってますよ。貴女のことですから、なんでそんなしち面倒くさいものがあるのだと言いたいのでしょう」

「この眼鏡野郎」


 副隊長は彼女の疑問などお見通しだ、と言わんばかりに指を鳴らすが、この行為に深い意味はない。


「ことの始まりは若かりし頃の陛下だと、わたくしは聞いています」

「昔の陛下?」

「暇で暇でしょーがないから騎士達を競わせて賭けようぜとご学友とお決めになったそうで」

「……まあ、若かりし頃ならしょーがないけどさぁ」


 ベルベット的に王子達はともかく、その父である国王は敬愛の対象だ。しょうがない、と頬杖をつく彼女に、セノフォンテはある話を披露する。

 

「というのは半分冗談で、当時分裂気味だった騎士達のストレスを和らげるべく、一計を講じたそうですよ。ついでに貴族の方々が面白おかしく儲けを始めたのがきっかけだそうです」


 これが見事に当たって、騎士達の鬱憤のはけ口になったらしい。御前試合は見映えするのもあって、いまでは城内の名物になっているそうだ。

 試合は単純な勝ち上がり方式。騎士の中でも特に近衛は全員強制参加だが、予選は内々で行い決勝近くの数試合のみが盛り上がる。

 これを聞いてベルベットはこの世の終わりとばかりに嘆いた。


「なんて趣味が悪い試合なの」

「安心なさい。強制参加といっても、いまは形式的な参加だけで終わります」

「あ、じゃあ、辞退可なんだ」

「関係ない者にはとことん縁のない試合ですが、強制参加なので告知だけはしておかないと」


 ベルベットだと「面倒くさい」の一言だが、セノフォンテの意見は違うらしい。


「しかしわたくしはこの試合が嫌いではありません。なにせ今の時世は先人の努力で裏方も重宝されるようになったとはいえ、いまだ騎士とは脳筋共の集合体」

「言い方」


 思わず突っ込むも、セノフォンテはそれはそれは嬉しそうに教えた。

 

「すなわち相手を負かしさえすれば、近衛だけでなく、普段からああだこうだと口を挟んでくる騎士団の脳筋バカもわたくしに強く言えなくなるのです」

「…………いや、それも結構力尽くなんじゃ?」

「普段居丈高だった連中が負かした次の日から見せる、悔しくても言い返せないと悔しがる表情は堪らなくそそります」

「前々から思ってたけど、わりと悪趣味だよね」


 セノフォンテは他にも御前試合で勝つメリットを挙げる。


「それに良い勝負に持ち込めば名前が売れます。貴女も叶えたい望みがあるなら、余程難しい内容で無ければ叶えていただけますよ」

「そういうの、特にないからなぁ」


 呑気に雑談に興じていたのだが、彼らの間に割り込む者がいた。


「…………お前ら」


 青筋を立てるギディオンと、頭痛を堪える面持ちのコルラードだ。


「ここは俺の執務室だぞ、何を勝手に入り込んでいる」

「わたくしは書類を渡しに来たのです」

「私は寝てました。ここのソファは寝心地がいいんで」


 隊長の部屋で雑談していた部下を叱ろうとしたギディオンだが、言って反省する二人ではない。ぐっと声を呑み込んで椅子に座る。

 乱雑に頭を掻く姿は苛ついており、ベルベットがコルラードへ顔を向けた。


「会議はどうでした。相変わらず各隊長同士は仲がお悪い?」

「それはいつものことだ。隊長の活躍が妬ましいのだろう」

「コルラード殿も、たまにさりげなく隊長にアレだよね」


 セノフォンテが「では」と眼鏡を煌めかせた。 


「エドヴァルド殿下のいとこからの求婚にとうとう応えねばならなくなったとか」

「あ、すごい。玉の輿じゃないですか」


 ジロリと睨んでくるギディオンに、ベルベットは素知らぬ顔だ。ギディオンは深く長い息を吐くと、ゆっくり首を振った。


「あの御方の戯れはどうでもいい。それよりベルベット、呼ぶ手間が省けた。行ってこい」

 引き出しから書類を取り出すと持っていくよう言い渡す。その行き先を聞いたセノフォンテがなにかを思い出した。


「サウル隊長ですか。そういえばベルベットは、あの方にスカウトを受けたのでは?」


 サウルは街の治安維持と緊急時の外回りを行う部隊の隊長だ。この人の部隊に限った話ではないが、治安維持に努める部隊は基本的にたたき上げの連中が集まっているせいか、エリートと呼ばれる近衛と、互いに目の敵にしている節がある。しかしギディオンは貴族でもたたき上げのせいか、サウルとも仲が良く、度々協力体制を取っている。

 スカウトの話はどこから漏れたのだろう。

 重い腰を持ち上げるベルベットは疑惑を晴らすべく上官達に肩をすくめる。


「熱心なお誘いは受けてますが、ちゃんとお断りしてますから安心してください」

「もとより疑っていない。それと、それを届けたら今日は上がっていい」

「あら、よろしいのです?」

「その代わり明日は遠くへ行ってもらいたい。体力勝負だから休んでおけ」


 近衛入りする前に比べたら体力は有り余っているが、そう言ってくれるのなら断る理由はない。これから始まるであろう会議に背を向けたのだった。

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