それぞれの唯一
聞いてないよ!! でも僕だって、王配教育をめちゃくちゃ頑張ったから、動揺している素振りは見せないよ。
さっきまで静まり返っていたのに、急にザワザワし出す。あれがヴィクター・ダーンリー? 姿違くない? やば、めちゃくちゃ格好いい! 今までなんで? アーノルド様は? あれ? みたいなね。
「エリザベス! この者が王配に決まったなど、何を血迷ったことを!! 騙されておられるんだ! この者は姿を偽っている! ヴィクターは、ヴィクターはこのような姿ではないぞ!」
「真の姿はこの姿だ。妾の命で姿を偽っていたのだ。妾の愛しいヴィクターに虫がつかぬようにな。おかげで王配に決定するまで、羽虫がつかずにすんだ」
「お、俺はっ! 俺はどうなるんです!! あなた様に相応しいのは俺です!」
「ふっ、何をもって妾に相応しいと言っているのだ? そもそもエリザベス呼びなど、妾は許しておらぬ。身を弁えろ!!」
やだ、格好いい……叱責するエリザベス様って絶対王者って感じで堪らない!!
「っ、しっ、しかしっ!!」
「黙りゃあ!! ヴィクターは姉のソフィアと共に、平民にも使えるような魔道具を次々開発した。そのおかげで民達の暮らしが安定したことは、周知の事実だ。おまえは何をやったと言うのだ。妾の唯一を敵とし、いじめていたこと、妾が知らぬと思ったのか!」
すっとエリザベス様が手を上げると、侍女が前に出てエリザベス様に何やら手渡した。
「◯月◯日取り巻きを使い教科書を破く、×月×日取り巻きを使い池に突き落とす、△月△日自らの手で階段から突き落とす! おまえがやったことは全てマルッとお見通しだ!」
と言うと、魔道映写機で、アーノルド様が僕のこと階段から突き落とす映像が流れた。僕、誰に突き落とされたかわからなかったけど、アーノルド様だったんだ…。
「おまえが妾の王配候補を笠にきて、行った所業、許されるものではない! 沙汰が出るまで顔を見せるな! 連れてけ!!」
アーノルド様は膝から崩れ落ちたのも束の間、騎士達に肩を固められ、連れ去られていった。
僕はこの現実味のないやり取りを、ぼーっと見ていた。というか、頭が混乱して、何もわからなくなっていた。そんな時、
「恐れながら! エリザベス様! 王配候補であった私に情けをいただけないでしょうか?」
と言って、サイラス君がエリザベス様の前に出て、ひざまづいた。
え、え、サイラス君のこと忘れてた! サイラス君もエリザベス様の王配候補だったんだから、僕に決まったなんて許されないことだよね。僕、友達なくしちゃうのかな……。
「ふむ、発言を許そう」
「はっ! 恐れながら、私めを王配候補として側に置かせていただき、光栄でございました! しかし、私は選ばれず、ただの男と成り果てました。その境遇に情けをいただけるならば、私の願いを叶えていただけないでしょうか!」
「ふむ、言ってみるがいい」
「そこにおります、ソフィア・ダーンリー嬢に婚約を申し込みたいと思います!」
周囲がさらに騒つく。えーーーー! サイラス君と姉様!? でも姉様には婚約者がいないし、サイラス君は家を継がないし、あれ? いいことじゃない? 何より、姉様とサイラス君、仲良しなんだよ。
「くくく、面白い! おまえが妾の側で尽くしてくれた報いをやろう。ソフィアの心を掴めるならば、婚約できるよう、妾から陛下に申し立てよう」
「はっ! ありがたき幸せ!」
そう言って、サイラス君は立ち上がり、今度は姉様の前に跪いた。姉様も混乱しているのか、赤くなったり青くなったり忙しそうだ。
「ソフィア様。あなたを愛しております。どうか、この哀れな男の手を取り、私の婚約者になってはいただけないでしょうか」
と言って姉様の手を取り、手の平にキスを落とす。姉様、真っ赤じゃん。
「……お、お受けいたします」
と消え入るような声で、姉様はサイラス君の求婚を受け入れた。やったー!! サイラス君がお義兄ちゃんだ! あ! 僕も喜んでいる場合じゃない。エリザベス様に愛をお返ししないと。
周りが姉様とサイラス君に拍手する中、僕は腰を掴むエリザベス様の手を離して、跪く。僕だって、エリザベス様に応えたい。
「エリザベス様。エリザベス様は私の唯一です。お慕いしております。私と結婚してください。愛しております」
僕もエリザベス様の手を取り、手の平にキスをする。
エリザベス様は目を見開き、極上の笑顔で僕に応えてくれる。
「おまえは妾のだ。妾の側を離れるなど許さない。一生側におり、妾を支えよ。妾の唯一」
僕を立たせて、僕にだけ聞こえるように囁く。愛してる、と。
気高いエリザベス様。僕の前では可愛いエリザベス様。それ以上に格好いいエリザベス様。この愛すべき方のためなら、どんなに大変でも王配になってやる。
僕からきつく抱き締めると、エリザベス様は慌てふためいた。ふふふ、可愛い。愛しています、エリザベス様。