人生山あり谷あり
僕の覚悟も虚しく、学園生活は散々だった。陰口、物がなくなる、教科書を破かれる、足を引っ掛けられる、あ、池にも落とされたなぁ。火魔法ですぐに乾かしたけど。
さすがに階段から突き落とされた時は、ヤバいかも? と思ったけど、サイラス君の風魔法を感じたと思ったら、ふんわり包まれて、ゆっくりと安全なところに降ろしてくれた。僕の友達って凄いや!
階段から落ちた日は、どこから聞いたのかエリザベス様が、僕を訪ねてきて、会うや否や痛いくらいに抱きしめて、怪我がないかしつこいぐらい全身を確認していった。
全身を触ったり、服を捲ったりするから、僕はくすぐったいし、色々頑張らなきゃいけないから、安心してもらうために、エリザベス様の両手を優しく握って、その手にキスをしたんだ。僕は大丈夫だから、落ち着いて欲しかったんだ。
エリザベス様はようやく落ち着いてくれて、顔を赤くしながらも僕を見つめる。今までは僕が見上げてきたけど、やっとエリザベス様に身長が追いついたから、目線は一緒。
綺麗な七色の瞳。僕のこと見つめる時はピンク色が多い。僕は知ってるんだ。僕のことを想ってくれている時、ピンク色になるって。
エリザベス様は僕が握っていた手を解いたと思ったら、僕の両頬を強く掴んだ。ちょっと痛いな、と思ったら、唇に柔らかいものが当たった。あ、これはキスだ。姉様とするような頬や額にするものではない。恋しい者同士がするキス。
ようやく気づいた。僕、エリザベス様が好きだ。アーノルド様やサイラス君の方が王配に相応しいかもしれないけど、二人とエリザベス様が並んでいることが嫌だ。嫌だったんだ。
キスされて、ぼーっとしていると、唇が離れそうな気配を感じた。嫌だ。僕は慌てて、エリザベス様の腰を引き寄せ、右手で頭を支える。離れたくないと思って唇を押し付ける。歯が当たっちゃったけど、そんなこと気にしない。
ふふっとエリザベス様が笑った気がした。僕の息が続かなくて、惜しくも唇を離したら、エリザベス様は頬を赤らめながらも、微笑んでくれた。
「僕! エリザベス様が好きです!!」
そう言うと、大きな瞳をより大きくして
「ようやくか。鈍い奴め。妾もヴィクターが好きだ」
と言って、またキスしてくれた。嬉しくて泣きそう。
「まだまだヴィクターを愛でていたいが、妾にはやらねばならないことがある。階段から突き落とされたこと、それ以前に池に落とされたことなど、余すことなく詳しく話を聞かせろ」
そう言って美しく微笑んだエリザベス様に寒気がした。
階段から突き落とされた後、クラスメートの入れ替えがあって、ちょうど僕に嫌がらせをしていた子達がいなくなったから、僕は安全に学園生活を送れるようになった。
ただ、クラスメートの入れ替えは時期的におかしかったから、なんでだろうと思ってサイラス君に聞いたら、僕は知らなくていいんいいんだよって言われた。うーん。
そして半年が経ち、迎えたアーノルド様の卒業式。これでアーノルド様が直接手を下してくることもなくなるはず。卒業式後の夜会では、エリザベス様はアーノルド様にエスコートされる。思いが通じたとは言え、僕は候補に過ぎないし、今日の主役はアーノルド様だから、胸の痛みを抑えて僕も王配候補として参加する。
僕は婚約者のいない姉様をエスコート。サイラス君は一人で入場だ。ただ今回の夜会は、いつもと違うんだ。エリザベス様がメガネを外して来るようにとおっしゃった。いいのかな?