エリザベスの憂い
◇◇◇エリザベス視点です
◇◇◇
今日は有力貴族達の子どもを集めた茶会。婚約者がいない者達って言うところが、既に臭い。どうせ、妾の王配を選定するのだろう。血を絶やさないためにも、王配が必要なのはわかっているが、王配候補なぞ、家のバランスを考えて、出しゃばらないやつにちゃっちゃと決めれば良い。
当たり前だが、誰も妾を放ってはくれない。次から次へと挨拶をして、面白くもないのに笑わねばならない。女は忠臣として、男は王配として、か。
ほんの少しの隙を見て、妾は蝶々に変幻し、茶会を抜け出す。この国の魔法属性は瞳に宿る。妾は七色。風火土雷水闇聖属性、その中でも得意不得意はあれど、全てを兼ね備えている。王配に期待せずとも妾は最強だ。
変幻はある商会に依頼した魔道具のおかげだ。今日の茶会に関係者がいたな。一つ上のソフィア・ダーンリー。平たく言って天才だ。どんな形にせよ、妾の世を支えてくれる臣下になるだろう。
フワフワと飛んでいると、一人の少年がついてきたことに気づいた。なんだあの者は。存在感が薄すぎて、けっこう飛んできてしまったぞ。
ブラウンの髪にブラウンの瞳か。凡庸だな。恐れるに足らない。大きな木に辿り着き、妾を見失ったようだ。立ち止まったと思ったら、大きな欠伸をして、木に寄りかかって眠り出した。
なんだこの者は。今日は有力貴族の子息女達しか来ていないから、どこかの家の者だろうが、なんというか、緩い。しばらく様子を見ていると、メガネが煩わしいのか、うーんと唸っている。
その時の妾は何故か、メガネを外してあげたくなったのだ。変幻を解いて、少年に近づきメガネを外す。その時、凡庸だった髪色が銀色に輝いた。
ふむ、認識阻害か。妾の茶会に姿を偽ったと思うと、腹立たしくもある。この失礼な者はどこの者だ。妾にしては珍しく感情のまま、起こしにかかる。
不届者かもしれないのに、この時の妾はどうかしていたのだ。身体に触れ、揺さぶり起こす。何度か揺さぶったらようやく起きた。のんびりしおって。
「このような格好で御前失礼致します。エリザベス王女殿下につきましては、ご機嫌麗しく…」
起きたと思えば、妾が王女であると認識したのか、かしこまった挨拶をしたくせに、立ち上がりもせず、目を擦っている。
……そうか、まだ眠いよな、起こしてすまぬ。
はっ? このような失礼な振る舞いに妾は何を思ったのだ!つい、庇護欲が湧いてしまった。
名を聞くと、ヴィクター・ダーンリーと名乗り、ようやくしっかりと目を開け、立ち上がり臣下の礼を取り、妾を見つめる。
心臓が……止まった、気がした。銀色の髪をたなびかせ、紫の瞳をたずさえ、真っ直ぐ妾を見据えたその顔は、王配に相応しい。可愛い。うん、可愛い。白い肌に長いまつ毛で縁取られた大きな瞳、ピンク色のふっくらとした唇って…この者は少女なのか? 年下なのだろう。妾より小さい。服装と名前から少年で間違いないのだが、美少女と見間違う程の可憐さを備えている。
可愛い・美しい物は好きだ。ただ、見目が全てではないと思っている。しかし、そんな言い訳が吹き飛ぶ程の愛らしさ。妾はどうやらヴィクターとか言う少年を気に入ったらしい。
エリザベスと呼べと、気づいたら口を突いていた。エリザベス様と呼ぶヴィクターのなんと可愛らしいことか。悪くない響きだ。
まだ愛でていたいが、ヴィクターによく似た魔力が近づいてくる。この魔力は知っているぞ。姉のソフィアであろう。妾はソフィアに何故か会いたくなかった。二人だけの秘密にしたかったんだ。