お茶会
新しく描きました。読んでいただければ幸いです。
よく晴れた麗らかな昼下がり。
名だたる家の御令息、御令嬢がお茶を嗜んでいる。皆一様に眉目秀麗。その中心では一際美しく、誇り高い、この国の未来の象徴であるエリザベス王女殿下が微笑んでいる。
ドルムートン国は代々女王を頂きとする国だ。僅か10歳ながら、この国の指導者としての貫禄が既に備わっている。
僕はヴィクター・ダーンリー、伯爵家の次男、7歳。今日は7歳から15歳の紳士淑女の卵達を集めた、未来の国の行く末を想像させる者達の顔合わせだ。もちろん婚約者探しも兼ねている。もちろん、エリザベス王女殿下の王配候補もだ。
僕の家は、魔法に明るく、王家の覚えが良い由緒正しき伯爵家。両親、四つ上の姉、僕といった家族構成なんだ。ドルムートンは女王国家だからか、爵位の継承は男女問わないし、何もなければ順当に姉様が伯爵家を継ぐ予定なんだ。
僕も例に漏れず、魔力量が多いわりにコントロールが上手だから、今から姉様に商売を手伝えと言われている。姉様って凄いんだよ! 僅か11歳にして魔道具を扱う商会を立ち上げ、成功しちゃったんだ。僕は水と火魔法が得意だから、姉様のお手伝いをして、魔道コンロや魔道シャワーを作ったんだ。姉様が爵位を継ぐタイミングで、僕に商会を継がせるつもりでいるってさ。
だからってわけじゃないけど、僕は王配になりたいとか考えたことがない。でも僕の家って、魔法に明るく王家の覚えが良い由緒正しき伯爵家。家格差はあれどダメなこともない。そして爵位を継ぐ予定のない次男で、姉様の教育が行き届いた従順な性格。女王を公私共々支えるには、王配は控えめな方がいいと言われている。魔力量も多く潜在価値は高いし、王配の条件に当てはまりまくっている。
そんな僕に姉様は一つのアイテムをプレゼント。
てってれー! 存在感薄々メガネーーー。
青いワンピースの、お腹らへんにある隠しポケットから、そのアイテムを出してきた。そんなところにメガネって入るんだなーと思っちゃった。
要は、僕に商会を手伝ってほしい姉様は、うっかり王女殿下の目に止まらぬように、存在感が薄々になる認識阻害メガネを掛けて、お茶会をやり過ごせってことを暗に言っているんだと思う。僕も王配には興味ないし、姉様に従ってメガネを掛けたら、貴族平民問わずありふれたブラウンの髪色にブラウンの瞳になった。
テーマは気軽なお茶会らしいから、ご挨拶周りもないし、姉様は次期伯爵として社交に忙しそうだけど、今の僕は存在感薄々だから、みんな僕がいることに気づいていなさそう。つまらないから、お菓子でも食べようっと!
お腹もいっぱいになって、散歩していたら蝶々がいた。虹色の蝶々で、僅かだけど魔力を纏っている。そんな蝶々に興味が湧かないわけないよね! てなわけで追いかけていたら、どこかわからなくなっちゃった。
でも別にいーんだ。そのうち姉様がこのメガネの魔力を辿って、見つけてくれるし! このメガネを掛けると存在感薄々になるのはいいんだけど、僕を目視で見つけるのが難しいんだって。
きっと、ヴィクターはのんびり屋さんねって言って抱きしめてくれるはず。姉様は特別優秀だし、とっても優しくて綺麗だし、我が家は将来安泰だよね!
姉様が見つけてくれるまで、虹色の蝶々が連れてきてくれた、大きな木の下で少し休憩! あー、暖かくて気持ち良いな。あー、眠くなってきちゃった。
・・・
ユサユサユサ
うーん、まだ眠たいよー。
ユサユサユサ
「おまえ! いい加減、起きろ!」
「……姉様? じゃない?」
うーん、眠たくて頭が働かないけど、目の前にいるのは、眩いくらいの美しい金髪にキラキラとした七色の瞳。女神? いや、違った、エリザベス王女殿下だ。
「このような格好で御前失礼致します。エリザベス王女殿下につきましては、ご機嫌麗しく…」
と、たくさん練習したご挨拶を、寝ぼけ頭でする。だって、まだ眠いんだもん。中途半端に体を起こして、目をこすりながらも、ご挨拶した僕は十分頑張った。
「おまえ! まだ半分寝ているぞ。見苦しい挨拶をしおって! どこの者だ?」
「僕…は、ヴィクター。ヴィクター・ダーンリーです」
ようやく目を開けて、しっかりと立ち上がり臣下の礼をする。そして、エリザベス王女殿下を見上げると、一瞬、王女殿下は固まり、コンマ1秒で我に返ったようで、次の質問をしてきた。
「ふむ。ダーンリーか……。姉のソフィアは会場にいたぞ。おまえはどうしてこのようなところにいる?」
「虹色の蝶々がいて、追いかけて来ましたら、ここに出ました。暖かくて気持ち良く…少し休憩していたのです。エリザベス王女殿下もこちらにいらしたのですね! 蝶々をご覧になりましたか? とても美しい蝶々でした!」
「っ! エリザベス、と呼べ。妾も休憩だ」
「??? エリザベス様…では、僕はヴィクターとお呼びください」
「ふむ、なんとも…悪くない。では、ヴィクター! ここで、妾と会ったことは二人だけの秘密だ。おまえの姉が迎えに来たようだ。また会おうぞ。あっ! 今後、妾が良いと言うまで、そのメガネを外すではないぞ。」
そう言い捨て、颯爽と踵を返し立ち去って行く。姉様の姿は見えないけど、確かに姉様の魔力が近づいて来たことがわかる。エリザベス様も姉様の魔力がわかるのかな?
「あー! もう! ヴィクター! 探したわよ!」
姉様の姿が見えたら、安心して嬉しくなって駆け寄ると、ギュっと抱きしめてくれる。姉様の匂いだ! 優しくていい匂い。
「姉様ー! 僕ね、虹色の蝶々を追いかけて来たら、ここに出ちゃって。でね! お菓子食べてお腹がいっぱいで! そしたら眠くなっちゃって、姉様が来るまでお休みしてたんです」
「もうっ! ヴィクターはのんびり屋さんなんだから」
と言って、もう一度抱きしめてくれる。ほらね。
「ヴィクターったら、お昼寝しているうちにメガネを外してしまったのね。ほら、しっかりメガネを掛けて帰りますよ」
あれ? いつのまにか外しちゃったんだな。慣れていないから、仕方ないよね。