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消えた幼馴染② 〜ブレイクside〜

それはある日突然、自宅に届いた一通の手紙により知らされた。



手紙の送り主は王都の外れにある病院からで、

その内容に俺は驚愕した。


親父がお袋と結婚する前に恋人だった女性が、別れた後に子どもを産んで一人で育てていたというのだ。

(その親父の元恋人という女性は既に数年前に他界しているそうだ)


俺の三歳年上の異母姉。

名はジェシカというらしい。


そのジェシカが突然、魔力欠乏症という病を発症したというのだ。


魔力欠乏症とは、ある日突然自ら魔力を作る事が出来なくなり、生命に必要な魔力を補う為に体の至る所の機能を低下させ、そのエネルギーを魔力の代わりにし、なんとか生命を維持している状態になる病らしい。


多くは魔力のコントロールが上手く出来ない子どもが発症する病気らしいが、稀に大人の低魔力保持者も罹患するそうだ。


ジェシカは運悪くその大人の一人となったというわけだ。


魔力欠乏症の治療法はただ一つ、魔力を輸力する事。

ただ、どんな魔力でも良いというわけではない。


魔力にも性質があって、同じ魔力の性質の者からでしか輸力を受ける事が出来ないのだ。


多くは家族や親族の中の誰かが同じ性質の魔力を持っているのでその者から輸力を受けて完治するらしい。


が、これもまた運悪く、ジェシカには他に身寄りがないらしい。

しかし母親の遺品の日記の中に親父の事が書いてあった事を思いだし、もしかして母親が異なる“きょうだい”が生まれているかもしれないと思い至ったそうだ。


その一縷の望みに縋る思いで、ジェシカの周りの人間が親父の事を調べたらしい。


そして俺に辿り着いた訳だ。


手紙には当然謝礼は支払うし、輸力後も俺に迷惑を掛ける事は無いから協力して欲しいとあった。


勿論姉弟だからといって魔力の性質が同じとは限らない。

たけど一度魔力検査を受けにこちらの病院に来て欲しいと、切実な思いが伝わってくる文章で綴られていた。


親父がそのジェシカという姉の事を知っていたのか、知っていたのなら認知はしていたのか、なぜ俺には何も話さなかったのか、聞きたい事は山ほどあるが残念ながらそれを本人に聞く事はもう出来ない。


親父は息子の俺から見ても本当にどうしようもない人間だった。


かなりの高魔力保持者だという事を除けば、本当は王宮魔術師なんて務まらないほど、素行の悪い人だった。

……まぁ要するに女にだらしなく、なんとか身を滅ぼさない程度のギャンブルに生き甲斐を感じているような人だった。


親父はともかく、当然彼女に対して思うところは何一つないので、出来る限りの協力はさせて貰うと返事を送った。



そして仕事が休みの日に初めてジェシカに会いに行く。



「………!」「………!」


初めて相見える姉と弟。


俺達は互いを見て、思わず固まった。


血の繋がりを如実に感じ取るほど、俺たちはそっくりだったのだ。


まぁ二人とも父親似という事だ。



そして魔力適合検査の結果、100%ではないが、及第点とは言えるくらいには魔力の性質が一致したらしい。


しかしその為に数回に渡り、魔力を輸力しなくてはならないらしい。


100%の適合であれば一度か二度の輸力で済むのだそうだが。


ジェシカは何度も魔力提供させる事を申し訳なさそうにしていたが、

魔力を分けるだけで相手が健康になれるならラッキーじゃないかと俺は完治するまでの魔力提供を約束した。


ジェシカには結婚を約束した恋人がいて、

彼が謝礼金を支払うと言ったが、俺はそれを固辞した。


親父が生きていたら決して受け取らなかっただろうし、(いや、ギャンブルしたさに受け取ったか?)

未婚の母子家庭で苦労してきたであろう異母姉に、少しでも報いたかったからだ。


輸力はひと月毎に一度ずつ、一年ほど行う事となった。


………それまでは王都を離れられないな。



だけどその間ただぼんやり王都で過ごすつもりはない。


今のアイシャがどうしているか、魔法省が保有する魔力保有者データバンクから、表面的にだけでもアイシャの事が分かるかもしれない。


そのデータバンクを閲覧出来る権限。

それもまた高官候補者に与えられた特権でもある。

(死にもの狂いで勉強して良かった)



が、おかしい。

アイシャのデータが見つからない。


アイシャは低魔力だが、魔力保有者に変わりはない。

出生届と共にこのデータバンクに情報が記されているはずなのに、彼女のデータが見当たらないのだ。

いや、消されたといった方が正しいか?


それならアイシャの母親の線から探って……と思っても、こちらもまたデータが一切見つからない。


そして別ルートで調べ、アイシャが既に住んでいた家に居ない事が判明した。


まるでアイシャの全てが消えたように感じた。



どういう事だ?


消える、なんて事はあり得ない。

死亡したとしてもデータが消される事はないのだ。


誰かが簡単には閲覧出来ないようにしている?

ブロックとガードをされているという事か?


だけど一体何の為に。


王族や上位貴族や高官や要人などのデータなら、そう簡単に閲覧出来ない仕組みになっている事は知っている。

何重にもガードしてブロックされているのだ。


なのに一庶民であるアイシャとその母親のデータが守られているというのはどういう訳なのか……。


この事と手紙が届かなくなったのが何か関係しているのだろうか。


位の高い者からの作為を感じる。


もっと情報が欲しい。


俺の専門は法務。

これ以上の事を省内で突っ込んで調べるとなると、それなりの立場と権限がいる。


ーー情報部か特務課か……。


この場合は情報部だろう。


そして王都の本省よりもアイシャが生まれ育った街の地方局のデータバンクを調べる方が何か出て来そうだ。


データバンクのロックが掛かっているデータすらも見れる立場となると……

少なくとも課長クラス以上。


望む情報を閲覧する為には部長に次ぐ次長クラスの立場は得ておきたいな……。


ジェシカに輸力を続けるこの一年の間に、まずは今いる法務で実績を上げ、地方局情報部への転属を希望する。


アイシャの身辺で何が起きているのか知らねば……。



そして時は過ぎ、ようやくジェシカへの魔力提供も終わり、異母姉は見事完治した。


ジェシカもその婚約者も本当に喜んでいた。

俺も今では唯一となってしまった肉親が元気になってくれて嬉しい。


そして奇縁とはこの事を言うのだろう。

ジェシカの婚約者は俺とアイシャが生まれ育った街の人間で、ジェシカもあの街に嫁ぐ事が決まっているらしい。


俺も既に地方局への移動が決まっていたので、どうせなら三人であの街へ戻ろうという事になった。


新婚のような異母姉と婚約者にくっ付いて行動して良いものかと思案したが、二人が是非にというのだから断るのもなんだろう。


二人は式を挙げず、街に移り住んですぐに入籍するらしい。

それまでの日々、せめて姉と弟として僅かな時でも家族として暮らしてみたいとジェシカは言った。


なので地方局へ移り住んで少しの間だけ、異母姉夫婦の新居で居候させて貰う事になった。


本人に希望されたとはいえ図々しいとは思うのだが、

丁度購入したい物件があったのでそれが決まるまで居候させて貰えるのは正直有難かった。


購入したいのは、今は空き家になっているというかつてアイシャが住んでいた家。


彼女と結婚出来るか分からないが、あの家が他人に渡るのは嫌だった。

だから他に売却される前に手に入れておく事にしたのだ。



そしてそのアイシャだが、地方局のデータバンクのコアを調べる事が出来、ようやく、ようやく彼女のデータに辿り着く事が出来た。


かなり複雑にブロックされていたが解読魔術により、なんとかデータの中枢にアクセスできた。


アイシャの母親が魔法省の高官と再婚していたのだ。


しかもただの高官ではない。

魔法大臣次席補佐官、組織のNo.3だ。


道理で何も掴めないはずだ……。


組織のトップに位置する人間の、そしてその家族の個人情報は全て機密となる。


消えたと懸念したアイシャの全ては消されたのではなくやはり隠されていたのだった。


だけど再婚相手の娘にまでこの徹底ぶり。

それだけではない何かがありそうだが、今俺がするべきはそれではない。


アイシャの母親は再婚後は王都に移り住んだらしいが、

アイシャの住民票は王都へは移っていなかった。

彼女は今も一人でこの街に住み続けている。


しかもこの地方局の経理の職員というではないかっ!!


まさか地方局の同じ屋根の下で働いていたとはっ!!



直ぐ側に居るとなると、会いたいという衝動が止められそうにない。


だけど手紙が来なくなった経緯から、再会は慎重に機を見て果たしたい。



だけど……どうしても彼女に会いたかった。


十年の時を経て、大人の女性へと変貌を遂げたであろう今のアイシャに会いたかった。


なので、



俺はまず、



こっそりと彼女の様子を探りに行った。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




陰からこっそり相手の姿を見る、


アイシャもブレイクも同じ事をしていたのねー。


ブレイクside次回で最後。


アイシャとの物理的再会とその後までを語って頂きます。


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― 新着の感想 ―
[一言] 魔力欠乏症流行ってますね~⭐
[一言] なるほど。るちあんとクレバスの騎士様は、バッチリ合ったから一度で全回復出来たんですね(╹◡╹)♡ ヨカッタヨカッタ
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