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再会、そして

彼に、ブレイクに触れている背中が熱い。


お互い服越しの密着なのに不思議と生々しく感じ、肌が粟立つ。


なんというタイミングなのだろう。

転倒しそうになった私を咄嗟に救ってくれた。


ちょっと待って、これってどうしたらいいの?


逃げ場ナシとはこの事?


いやでも十年のブランク。


ブレイク(向こう)が私に気付くとは限らない。


身バレしないのなら、このまま何食わぬ顔でやり過ごせばいいんじゃない?


しめしめとそんな事を考え、顔が見えにくいように少し俯いた私に、ブレイクが言う。


「大丈夫か、アイシャ」


ハイ身バレしてるーーーっ!


私がアイシャだと分かってるーーっ!



どどどどどどうして……と滝のような汗を流す私を尻目に、転倒しそうになった原因を作ったホーリック氏がブレイクに言った。


「……ワード。助かったよ、彼女を助けてくれてありがとう」


「いや、貴方に礼を言われる必要はない。彼女は子どもの頃から知る大切な人なんだ」


その言葉を受け、次に口を開いたのはホーリック氏ではなくベスター氏だった。


「幼馴染という奴ですか?」


ベスター氏も私もブレイクとは同い年だけど、次長の肩書きを持つ相手に自然と敬語になっている。


「そうだね。オムツを穿いていた頃からの付き合いだ」


オムツを穿いていたのはあなただけね?

私はもうオムツは卒業していたからね?


とは、精神がいっぱいいっぱいの私の口からは出て来てくれない。


だって何故か後ろから腹部に手を回されて、ガッチリとホールドされているから……。


な、なぜ離してくれないの?


口をはくはくして明らかに挙動不審になっている私に視線を移し、ブレイクはホーリック氏とベスター氏に言った。


「彼女とは久しぶりの再会なんだ。少し話をしたいから、ちょっと席を外させて貰うよ。アイシャ、行こう」


話?行く?……行きたくない……。


とは言えない情けない私。


「う、うん……」


私はただ小さく頷いて、ブレイクに手を引かれるまま会場であるレストランのテラスへと連れて行かれた。



会場にいる時はそんなに感じなかったけど、テラスに出て心地よい夜風にあたるとクールダウン出来た。

思いの外蒸し暑さを感じていたようだ。


私は手摺りの方へ歩み寄り、レストランの中庭を眺めた。


ブレイクはそんな私を後ろから見つめている。


どうしよう。


思いがけず二人きりになってしまった。


今さら何を話せばいいのか。


久しぶり。

元気だった?

その年で魔法省の高官なんて凄いじゃない。

幼馴染として誇りに思うよ。

部署は違うけどこれからは上官と部下としてよろしくね。


うん、まぁこんなところだろう。


間違っても昔の約束の話なんてしてはいけない。


未練がましく待っていたなんて思われたくないし、既に他の人と幸せになっている事を告げられたり、ましてや謝られたくはないから。


私が努めて明るく無難な言葉を告げようと思って振り向くと、ブレイクの方から先に話し出した。


「アイシャ、久しぶり。会いたかった」


会いたかったとキタか……。


私もね、会いたかったよ、残酷な現実を知るまでは。


「うん……お久しぶり、です」


「随分探したんだ。以前住んでいた所には居なかったし、まさか苗字が変わってるなんて思わなかったから。この街に戻れば何か分かるんじゃないかと方々調べてみたけど、()()()()辿り着けなかったし」


「あぁうん。母が再婚したの」


「そうなんだってな。ギード=クレイル卿、魔法大臣次席補佐官。凄い人だ」


「うん……」


母が再婚した相手……つまり私にとっては義理の父になるはずの人なんだけど、

実は私の遺伝子上の父親だった事がわかってから、ちょっと複雑な間柄となってしまったのだ。

まぁ今は関係ない話なのでとくにそれについて触れるつもりはないけれど。


「アイシャ、話したい事が沢山あるんだ。歓迎会が終わった後、時間ある?」


「え……?でも……」


そんな事をしたら、要らぬ噂が立ってしまうかもしれない。


そんな事をしたらブレイクの大切な人が傷付く。


私は、そんな事はしたくない。


「近況報告なら、わざわざ今日でなくてもいいんじゃないかな。べつに敢えて話す必要もないと思うし」


「え?何故?」


何故とはなぜ?こちらが問いたい。


これまでブレイクがどれほど頑張ってきたのかは肩書き見れば分かるし、あの美女との馴れ初めなんて聞かされても仕方ない。


こちらは全てを忘れて、新しく踏み出そうとしているのに引き戻されても困るだけだ。


「私なんて改めてお話するような人生送ってきた訳でもないしね。平々凡々に暮らして来ただけなのよ。それに、ベスターさんに食事に誘われてるから」


「……でも別に彼に返事をした訳じゃなかっただろ」


「え?」


なんでそれを知ってるの?


「同期と食事に行くのなら、俺とだって二人で会ってもいいよな?ていうか、べつに近況報告をし合いたいわけじゃない」


「何言ってるの?ダメに決まっているでしょう?ブレイクと二人でなんか会えないわよ」


私のその言葉に、ブレイクの表情が一瞬強張る。


「何故会えないんだ」


「当たり前でしょっ?パートナーがい…「ワード次長!!」


その時、私の言葉を遮って、情報部の人の切羽詰まった声が辺りに響いた。


私たちの元に……というよりブレイクの元に入省してまだ日が浅い青年が駆け寄って来る。


「……どうした?」


ブレイクがその若い職員に訊ねると、彼は困惑した表情で訴えてきた。


情報部(ウチ)の職員二人が取っ組み合いの喧嘩を始めて大騒ぎになってますっ!次長、お願いですっ止めて下さいっ」


「っ……くそっ、何やってんだあいつらっ」


苛立ったように髪をかき上げ、ブレイクが私に向き直り言った。


「少しだけ待っててくれ。ちゃんと話がしたいんだ。いいね?アイシャ」


「次長っ早く!」


青年職員がブレイクの腕を引っ張って強引に連れて行こうとする。


レストランの中は騒然としていてグラスや食器が割れる音が聞こえてきた。


「っちょっと行ってくる……」


そう言ってブレイクは呼びに来た職員と共に会場へと戻って行った。



「…………」


呆然と立ち尽くす私。


会場入りしてから思いがけない事があり過ぎて、

私はもう既に限界を迎えていた。


普段、のんびりまったり暮らしている私に、今日の出来事は色々と刺激が強すぎる。



待っててくれと言われたけれど、話す事は何もない。


「……帰る」



私はこっそりアルマ先輩に断りを入れ、

ブレイクに捕まらないうちにレストランを後にした。



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