無色のこい
三年前の夏
袖をおさえながら手をさしのべてくれた時から、ぼくの恋は始まりました。
それからの幸せな毎日。
朝、僕のとなりの鍵をとりぎわの「いってきます!」のやさしい笑顔。
昼の誰もいない部屋、君は何をしてるんだろう。
考えながら一日を過ごす時間。
「パチッ」
覗きこんで、「ただいま。」少し疲れた感じの笑顔。
夜は明るい部屋で、あなたと二人でいる時間。
物陰から気づかれないよう、そっとあなたを見る、目があったとき、あなたをすごく近く感じる。
あなたの指が近づいてくる、、、二人だけの合図。
ぼくは、とびっきりのマーメイドターンでおかえし。
休みの日は、陽なたで読書。
あなたを横から覗きこむ。
ページをめくる度に、変わる表情がいとおしい。
少しでも、あなたの温もりを感じたい。
ずっと、この時間が続きますように、、。
何度かの春と秋がすぎ、
逆さの泡が降ったある日。
ぼくの世界が斜めになりました。
ぼくは一生懸命からだを起こそうとしましたが、何度頑張っても左に倒れていく。
「どおしよう、あの子が心配してしまう!」
左に回るからだをどうにか起こそうと、何度も何度も回り続けました。
そしてようやく、見えない壁の力をかりてまっすぐに立っていられるようになりました。
よかった、あの子に変なところ見せなくてすみそうだ。
何度も何度もうまくまっすぐに立っていられるように練習をしました。
それから、何時間が経ったのだろう、、。
あのこが帰ってきました。
いつものように、覗きこんで
「ただいま、、!」
彼女は、ビックリした顔でぼくに顔を近づけてきた。
その目には、ガラスに体を押し付けている、鱗がボロボロになり息絶え絶えの赤い魚が映っていました。
それから何日も、看病をしてくれました。
初めて出会った時のように、ぼくのことをじっと見つめて、何時間もそばにいてくれました。
ほんとうに幸せな時間でした。
ある夜のこと。
大好きなあなたが、そこにいるのに体が動かなくなりました、体の半分も徐々に乾いてまわりも曇ってみえません、、。
意識も遠くなってきました、、。
そのとき下から優しく持ち上げられる感覚がしました。
ほとんど何も感じなくなっていましたが、最後にあなたの温もりを身体すべてで感じることができました。
乾いた赤い魚、目もとだけ無色の水滴が溜まっていました。
おわり