04 星樹と令嬢
いつもありがとうございます。
皆様、ごきげんよう。
私はヴェルデ侯爵が娘、リリアーヌでございます。もう、何度目かしら…。そろそろ飽きていらしたのではなくて?けれどこうなったら、最期まで私たちは一蓮托生ですから。という訳で私、先ほどまでデルヴァンクール国で一二を争う、樫の大木でしたの。
…えぇ、お気付きの通り、過去形なのです。先程、樫の木生を生き抜こうと思ったばかりですのに。いい加減、落ち着きたいものですわ。
今度は何になったか、さっさと教えろですって?まぁまぁ、お楽しみは時間を掛けてと思ったのですが、仕方ありませんわね。なんと私、この国の星樹なのです!凄いでしょう?…星樹を、ご存じない?星樹とは、唯一無二の魔樹。周りの変化や気温に影響され、様々な花や実を付ける、幹も葉も青色の不思議な存在ですわ。国を守るとも、言われております。まさか自分が、聖なる存在になってしまうなんて。人間、生きていると色々ありますわね。あぁ、もう人でありませんけど。
このリリアーヌ、今度こそ星樹としての人生…いえ、樹生?を全うし、デルヴァンクール国を守護しようではありませんか!
そうそう、星樹になって分かった事がありますのよ。星樹になった時から、この国のあらゆる場所の色々な場面が、まるでそこに居るかのように映像として見えるのです。これは星樹の根から伝わってきていると、そう感じましたの。大地に芽吹く植物、その根は全て星樹に繋がっているなんて、誰も思わないでしょう?人として過ごしていたら、気付きもしない世の理。
あぁ、見なければ良かった。あんなに真実を知りたいと願っていたけど。だけど、受け止められるはずも無かった。ふふ、我ながら無様なものね。
そう、見えてしまったの。
エドモン様とソフィ様が一緒に居るのを。少し悲しそうなエドモン様に、ソフィ様が微笑み掛けていらしたわ。するとエドモン様の御顔にも、僅かながら笑みが戻っていて。本当に微々たる変化だったけれど、私は気付いてしまったの。だって、いつも彼を見ていたもの。
見ていたの。
見ていたのに。
けれど彼の心までは、見抜けなかった。ただ、それだけ。そう、それだけの事。
―それだけの事よ。
◇◇◇
「…何故、我が家なんだ」
半ば茫然としながら、エドモンが小さな声を漏らす。ソフィは呆れ顔で、エドモンの顔を見返す。
「貴方もヴェルデ嬢の魔力残滓を見えていたでしょう?それを追ってきたら、ブランシュ公爵邸だっただけじゃない」
「いや、それは分かっている、そうではなくてだな…」
グッと握った右手を見つめ、エドモンは頬を薄っすら赤く染める。
「私の事を想ってくれたから、と考えていいのか。嫌なら近づかない、だろう?」
「…はいはい、寝言は寝てから言って頂戴。そんな不確定かつ、今は判定不能な事に頭を使うより、ヴェルデ嬢を元に戻す方が先決ではないの?」
両手をパンパン叩いて、ソフィが仕切り直せば、弾かれたようにエドモンが頷く。
「…どうやら庭園の方に、続いているようだ」
「えぇ、急ぎましょう」
返事の代わりに、二人は同時に歩み始めた。
揺らめく若草色の靄。それが時間と共に薄くなり、百合の辺りに残された物は既に儚くなっていた。
次回も見て頂けると嬉しいです。




