前日譚
初めましての方は初めまして。お久しぶりの方はお久しぶりです。初平野とまると申します。久方ぶりの投稿で緊張しておりますが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。リハビリも兼ねておりますし、自分の好きをまた書いていければと思います。何番煎じか分からないような題材に内容かもしれませんが、お付き合いいただければ幸せです。
「高校こそ僕は彼女作るんだ! 姉ちゃん達、引き続きアドバイスお願い」
高校の入学式も一週間後に迫った朝。僕の言葉に、リビングで思い思いくつろいでいた姉さん三人は悩まし気な表情を浮かべた。
「清潔感を保つ、人の話をちゃんと聞く、約束を守る。そう言う当たり前の事が出来るだけでも中学生としちゃ凄いと思ってたのになぁ」
「しかも、勉強や運動だってびっくりするくらい頑張っているし。私の時代なら引く手数多だよ。最近の中学生は分かんないわ」
「ぶっちゃけると年齢差と兄弟ってのさえ目をつぶれば、私は十分彼氏で不満はないよ」
アドバイザーでもある姉さん達の言葉に、思わずうなだれてしまう。
「それでも振られているんだけど」
絞り出すように口にする。
実際幼馴染のあの子にも、クラスメイトのあの子にも、生徒会長のあの人にも全員振られてしまった訳だし。
と、姉達は僕の言葉に対し、少し呆れたように口にした。
「やっぱり雄磨は理想が高すぎるんじゃないかな」
「うんうん、告白してくれる子は何人もいたんでしょ? 少しでも良いなって子いたら付き合ったら良かったじゃない」
「そうそう、実際付き合ったら本当に好きになっていくかもしれないしね」
姉さん達の言葉に、僕は何度も首を横に振った。
「そこはやっぱり譲れないよ。付き合うなら好きになった人と付き合いたいし。こう、上手く言えないけど少女漫画みたいな恋愛ってすっごく良いと思うんだ」
力強く言った僕の言葉に、今度は姉さん達が首を横に振る。
「うーん、それなら振られても諦めないってどうしてならないのかしら?」
「あっ、それは思った! それまですっごい執着しているのに。振られたとたん次だもん。そこは印象良くない。ってかかなり悪いよ!」
「そうそう、次から次へ……て訳でもないのは知っているけど。その切り替えの良さ見る限り恋に恋してるって気がする」
容赦ない姉さん達の言葉がグサグサっと僕の心をえぐっていく。
「それが一番の問題なのかな? でも、他に好きな人が居るって言われちゃうと。やっぱり幸せになって欲しいから、どうしてもそれを無理矢理変えて僕とって思えないんだよね」
その僕の言葉に対して、ぽんっと一番上の葵姉さんが手を叩いた。
「分かった。やっぱり雄磨は少女漫画の読みすぎよ。なんでそんなに諦めが良いのか疑問だったけど。特にあんたが好むジャンルだと負けヒーローって大抵潔く主人公達の仲を祝福しているの多かったもんね」
葵姉さんの言葉に、双子の茜姉さんと琴乃姉さんも納得した表情を浮かべた。
「あー。今凄い納得した。雄磨の行動原理って全部それだもんね」
「そうそう、幼稚園の頃からハマって私達の漫画読んでたし、少年誌も純愛物以外見向きもしてなかったもんね」
そして、三人の姉達からビシッと指をさされてしまう。
「それがダメなのよ。だから不特定多数にモテても彼女ができないの」
異口同音で言われてしまい、僕は絶句してしまった。
確かに僕は初めて姉さん達の愛読書を読んでから衝撃を受け、ああ言う恋愛をしたいって思ってたんだけど。
その気持ちがあまりにも強すぎたって事なんだろう。
いや、決して今まで好きになった子達に対して真剣じゃなかった事なんてないのだけど、少女漫画(僕のバイブル)の影響が全くなかったかと言われると。寧ろ凄く影響は受けていた気がする。
「じゃあ、少女漫画みたいな恋愛をしたいって言うのって、不誠実なのかな?」
ショックを受けながらも、何とか僕はそう口にしたのだけど。
その言葉に対して姉達はうんうんと何度も首を縦に振って口を開いた。
「まあ、好きになって付き合った結果そう言う恋愛になったのなら良いけど」
「最初からそう言う恋愛したいからって言うのは不純だと思うわ」
「そうね、今までの努力を否定したい訳じゃないし、私達もアドバイスしてきた手前強くは言えないけど。健全じゃなかったね」
再び姉さん達の言葉がグサリと心を傷つけるが、アドバイスを頼んでいるのは僕だ。
ここは傷つくだけじゃなく、しっかりと受け止めなければ。
「分かった。それじゃあ結果的にそう言う恋愛が出来るようもっと頑張るよ!」
決意も新たに、僕は力強くそう宣言する。
そんな僕を姉さん達はジト目で見た後、はあっと深いため息を吐いたのだった。
「仕方ないわね。まあ可愛い弟の頼みですもの、力になってあげるわ」
「乗り掛かった舟ですもの、私も協力するわ」
「まっ、本当に好きになれば問題ないでしょ。そもそも中高生の恋愛なんて簡単に付き合ったり別れたりするのが普通だし。そう言う動機でも良いんじゃないかしら。まあ私達に任せなさい!」
姉さん達の心強い言葉に僕は感激する。
いや、本当に良い姉を持ったものだ。
「ありがとう姉さん。僕高校ではもっと頑張るよ!」
僕の言葉に姉さん達はにこやかに頷いてくれる。
実際姉さん達のアドバイスのおかげで女子に良い印象も持ってもらえる事は多かったし、それは男子相手でも変わらなかった。
勿論全員と仲良しこよしってのは無理だったけど、努力した結果を感じられる事は多かったんだ。
中学の間で叶う事はなかったけど、このまま努力したらきっと恋愛漫画のような恋愛が出来ると確信できる。
僕は胸を高鳴らせて、高校生活に期待を寄せるのだった。
「いや、雄磨それ気持ち悪いぞ」
いよいよ明日が入学式と言う日、親友でもある田中誠に姉さん達とのやり取りを話したらそんな事を言われてしまう。
親友でもあり同じ学校にも進学したから、これからもよろしくって意味で誠の家でゲームをして遊んでいるまでは良かったのだけど。一息ついて僕が話し出した姉さん達とのやり取りを聞いている途中から、誠は嫌そうな表情は浮かべていたな。
「ええええ。いや、どこが?」
ただ、僕は訳が分からなくてそう口にした。
「いや、まあ高宮家の事情には口出ししないけどよ。少女漫画みたいな恋愛ってあれだろ、なんかキラキラしていてツッコミどころ満載って言うか、そんな男居ねぇよって言うか。そんな感じのだろ? お前の影響で多少は知ってるけど、読み物として楽しむならともかく現実でやるのって俺はどうかと思うぞ」
「ええっ。好きな女の子を大事にして幸せにしてあげたいって言うの。そんなに変?」
「それは変じゃないけど、『恋愛漫画』みたいにってのが変って言ってんだ。なんて言うか、現実じゃありえねぇだろ、あんなの」
冷めた親友の口調と態度に、僕はショックを受けて固まってしまう。
そんな僕に対し、ふと表情を緩めた誠は、再び口を開いた。
「まっいいや。別にお前は良い奴だし、それに俺はごめんだと思うけどお前がそれで良いって言うならそれでいいか。寧ろ悪かったな。気持ち悪いとか言って」
言い終えて、誠は苦笑を浮かべた。
そう言えば、誠って本気じゃないだろうけど、出来る事ならラノベみたいにハーレム作ってみてぇとか美女美少女を侍らせたいとか言ってた事があったな。
それなら、確かにお互いに恋愛に対するスタンスが違い過ぎて、ともすれば気持ち悪いって感じちゃうかもと納得する。
実際、僕はハーレムなんて考えられない。
やっぱり愛する人は一人で十分だし、何より複数の人を同じ熱量で愛するって事がピンと来ない。
美女や美少女ってのも、周りの人のそう言う評価より僕が愛しいと思えるかが重要だしね。
「まあ、流石に気持ち悪いってのはショックだったけど。恋愛に対する考え方なんて人それぞれだもんね。悪かったね変な話しちゃって」
「いや、気にすんな。ともかく、恋愛の話はこれで終わりって事で次何して遊ぶ?」
何とか気まずくなりかけていた空気を払拭し、休憩前とは別のゲームへと僕たちは向かった。
親友の協力も得られれば嬉しいし、僕も誠が何かあれば手助けしたいって思ってたけど。
まっ、恋愛の事も何もかも話さなきゃ親友じゃないって訳でもないし。何より今はこうして楽しく遊ぶので十分だと思うのだった。
書き溜めがありませんので、不定期更新になるかと思います。
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