私は
「おかえりなさいませ。お嬢様」
「ただいま」
「すぐに夜会のご準備を」
「分かっているわ」
「こちらへ」
私は軽く身体を洗い、自室へと急ぐ。
「お嬢様、本日の衣装はどうなさいましょうか?」
「任せるわ」
「そんな、今日はお嬢様の記念すべき初めての夜会ですよ?しっかり決めていただきませんと」
「・・・じゃあ、これでいいわ」
私は飾られているドレスの中でも一番地味なものを選んだ。
必要以上に目立つつもりは全くない。
なんなら、誰にも声を掛けられず、壁と仲良くしていたいぐらいだ。
「畏まりました」
「先に髪を整えますね」
「えぇ」
どうして楽しくもない夜会にでなければいけないのか。
嘘の顔と噂話しかないあんな場所に行きたくない。
でも、行かなければいけないのだ。お父様のいう事は絶対なのだから。
「お父様はまだ帰ってきてらっしゃらないわね?」
「私が今帰ってくるとなにかまずいのか?」
「っ!」
私が声のする方を振り向くとお父様が立っていた。
いつもはもう少し遅い時間に帰ってくるはずなのに。
なんで今日に限って帰ってくるのが早いのよ。
「お帰りなさい。お父様」
「質問に答えなさい。なにかまずいことがあるのか?」
「いえ、ただお父様が帰ってくるまでに支度を済ませておいた方がいいかと思いましたので、確認しただけです」
「そうか」
「すぐに支度を済ませます。メリッサ、お願い」
「畏まりました」
「そんな地味なドレスを着る気か?」
「・・・私には派手なドレスは似合いませんもの」
「こんな地味なドレスで人前に立ってみろ。私の顔に泥を塗るだけだ。今すぐドレスを変えろ」
「畏まりました」
「今日もあの教会に行っていたのか?あの汚らしい者しかいない所にお前が直接行くことはないのだ」
汚らわしいなんて、なんでそんな酷いことが言えるのだろう。
あそこにいる人達だって私と同じ人間で、ただ産まれる場所が違っただけなのに。
「いいか?お前は」
「分かっております!」
「分かっているならいいんだ」
お父様は部屋を出て行った。
「・・・大丈夫ですか?お嬢様」
「大丈夫よ。ありがとう、メリッサ。急いで支度して頂戴」
「畏まりました」
それからしばらくして私は派手やかなドレスを身に纏いお父様と夜会へと向かった。
夜会に向かわなければよかったと会場に着いてすぐ思ったのは言うまでもない。
私とお父様のところにはすぐに人が集まり、媚を売る人ばかり。
どうせ皆、お金や権力、爵位。そんなものにしか興味がない。
「君はいつも人気者だね。ロベルト」
「陛下にそのようにおっしゃっていただけるとは光栄でございます」
「私と君の仲じゃないか。そんな畏まらないでくれたまえ」
「お元気そうでなによりです」
「君は相変わらずだね。今日は、我が息子と君の娘の夜会デビューだ。華々しい夜会になる事だろうね。ところで、その子が君の娘かな?」
「左様でございます」
お父様がそう言うのと同時に、私はニコリと笑ってスカートの端を少し持ち上げて頭を下げる。
「挨拶が遅れて申し訳ございません。陛下に声をかけていただき光栄にございます」
「やっぱり君の娘だね。しっかりしている。君の名前は?」
「私はマックフッド伯爵家の一人娘アリア。アリア・マックフッドでございます。」