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ネロの旅

 

 一緒に月面宙返りする時も、海底怪獣から逃げる時も、地獄の温泉で卵と一緒に浸かってる時も、キノコを齧って森で眠ってる時でさえ、ダメだった。



 チィ、ずっと付いて回ったが、アイツは一度もアレを離しはしない。



 でも、森で良いキノコを手に入れたのだ。一口食べれば絶対即死効果。さすがに息が無くては、アノお宝を手から離すことだろう。


 ここはチクショォォォォォォォオ界。四面皆〝食う〟OR〝食われるか〟弱肉ッ!強食ッ!イヱーな世界。武器キバを持つ自分達に、仲良しごっこ(むれ)なぞ不要。



 なのに、アイツは一体何を考えているんだか。


 イッカク丸が育てた玉ねぎと、集めた食材をぶち込んで……何のためにコイツ集めてやがったんだ?まぁ、そんなんだから、特に怪しまれずに、オレは毒キノコを仕込めた訳だが………。


 あァ?何が〝じゃーんっ!みんなズットモうまうま鍋っ、完成~!!ネロもイッカク丸も大好き~〟だッ!そんな、お気楽っぷり見せられたら堪らない。オレは鍋の中身をひっくり返し、アイツの目の前で台無しにしてやった。



 そしてオレは、イッカク丸を人質に捕り、アイツを脅してやったのさ!

 ところがイッカク丸ときたら、〝きゅ~、これが噂のバックハグぅ~!?〟って意味不明なことほざいて、意識を失うもんだから、支えてられなくなっちまった。


 けれど、オレは直ぐに別の手段に出た。アイツは甘いヤツだって知っていたから。〝頼む。オレの妹が病気なんだッ〟って演技で土下座してやったら、躊躇いもせず〝火麟罩かりんとう〟をオレに渡しやがった。


 なんだ、簡単な事だったじゃないか。それで済むなら、最初からそう言いやがれ。



 結局オレは、多くの時間を無駄にしただけだった。


 本当に、今まで徒労だったよ。味もねェ空気みたいな箱を、積み上げてた感じだ。

 まぁ色んなトコ行って、色んなことやったから、高さだけはすごくあると思う。でも、そんな透明な箱のタワー、何になるっていうんだ?



 今頃、アイツは丸腰で〝ブツリュー独占系ズーチューバー〟クラーケン・ゴールドに挑んで、消されている事だろう。はッ、せっかく鍋の時に命拾いしたのに、自ら捨てに行くなんて………。



 独り歩くオレの傍を、獅子舞列車が横切る。思わずオレは、空虚の手を引いた。ボケたな、誰も身を乗り出して覗いてなんか、無いだろうが……。



 〝ところでね、キミは何故クイナちゃんを殺さなかったのかな?〟



 過ぎ行く列車の狭間から、いつかの従業員が問いかける。


 そんなの、知らねェ。オレは、積まれた無色の箱を蹴飛ばした。

 アイツはバカだった。なぜいつも、あんなにも警戒せずに背にもたれてくる?



 〝それでね、キミは人質をやめて、クイナちゃんに嘘をついただろ?

  それってね、嫌われたく無かったんじゃないかい?〟


 どの箱を蹴っても、アイツの姿はアホだ。

 なんで、オレと一緒にいて、あんなに嬉しそうに笑う?



 本当に、アイツは何を考えてんだか分からない。



 そんなヤツといたもんだから、オレもオレが分からなくなってしまった。




 オレは、一体、何で走っているんだろう?


 〝当然、キミの脚でだよ〟


 くだらないトンチなんて、既に耳に入ってなかった。ただ、ただ必死に、泣いてしまうくらいに、体中から力を搾り取って走った。自分がどこに向かっているかなんて、分かりたくもない。


 〝当然…〟



 クイナッ!



 オレは、何度もその名を繰り返していた。




 頭から離れぬ、あの笑い顔。





 けれど、



 懸命に辿り着いたその先に、



 あの眩しかった思い出は無かった。





 クラーケンが住む海賊船。


 

 それが目の前で、オゾマシキ黒い炎に包まれたかと思うと、一片の痕跡すら残さず消滅したのだ。

 

 本能から、禁忌の悲鳴をあげたくなる凶々しき黒竜。

 その揺らめく鱗は、罪禍の炎。



 その中心に、海の波も、空の光も余さず焼失させる渦中に、クイナがいるのだ。



 この世のモノとは思えぬ漆黒。オレの頭は一瞬で冷めて、体力も気力もとうに尽いていたが、一切構わずその場から転がるように逃げ出した。



 あぁ、恐ろしい。アレは怖ろしい。あんな神だか悪魔だか、そんな光景なんて二度と頭に思い浮かべたくは無い。今すぐにでも、この二つの目を潰してしまいたかった。




 だけど、……聞こえた。




 振り返りたくも無い、背後から。




 それは、神の預言でも無く、悪魔の囁きでも無い。




 ただただ、迷子の子供が泣いている。




 そんな声が。






 オレは、持っていた中華鍋の柄を、決死の覚悟で握っていた。




ありがとうございました。

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