四角い部屋
……聞き慣れた電子音がひどく遠くから聞こえてくる。それに意識を起こされて、彼女はほとんど反射の様に体を起こした。
「ーーー」
身体は重たく、熱を持つ。
暖かな空気に抑えられているようだ。一定のリズムを刻む電子機器からは感じられない、力を抜いて底なし沼にでも落ちていく様な、心地良い感覚。
ーー長いまつ毛が、逡巡する様にニ、三と揺れた。
「………ん……」
喉の奥から空気と共に声が漏れる。
片手をついて身体を起こせば、手が触れた所が存外冷たい事に気が付いた。それは温度を通さない、冷ややかで柔らかみのない硬い感触。
口内の粘つく感覚を鑑みるに、どうやら昨日から、床の上で寝てしまっていたらしい。
「……気持ちわる、」
家の地下にいつからかある、黒と青色の四角い空間。
汗をかいたまま寝落ちしてしまった事に気付いたのか、彼女は不快げに眉をひそめた。
口の開閉運動をしながらもぞもぞと目覚まし時計を止めたあとーー彼女はその場で作業着のチャックを一気に下ろして、恥じらいも無く薄鈍色の服を脱ぎ捨てた。
しばらく無音だった部屋に。するすると衣擦れの音が静かに響く。結局彼女はためらはず、最後に下に来ていたシャツと下着までも脱ぎ捨てれば、そこには一糸まとわぬ少女が一人。
……誰も見てはいないとはいえ。
それはあまりにためらいの無い。ある種男気すら感じるような脱ぎっぷりだった。
「はあ………だる」
目的地は一階のシャワー室。音を立てながら、フラフラと冷えた階段を登っていく。
つい先程までけたたましい音を鳴らしていた目覚まし時計が示すのは、平日火曜、午前の7時。
そんな平凡な流れから、彼女の一日は始まった。