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夜明けの光を待つ  作者: 池田 ヒロ
第六章
86/112

文明と災害

SHARE[G]ID:G-5478-582-4268

S/A>M>H[N] 4699.65

【世界最古の手紙】


 考古学者ヴィレイヌ氏が調査中の遺跡にある手の平サイズの石板が発見された。この遺跡ではあまり期待値のないような場所だったようだが、調査場所で偶然にも手紙が見つかったのだ。内容は現在のマキナ国から見て、東方に住んでいた者らしい。その東方に住んでいた者(東方人「カイン」と表記)が住まう地域ではあまり情勢がよろしくない状態だったとか。

 これより、石板に記載された内容について詳しく探っていくことだろう。一体、東方人「カイン」の身に何があったのだろうか。


 ※東方人「カイン」が送ってきた手紙の内容↓


>>親愛なるセイプレイシスへ


>>セイプレイシスが西方に移り住んで随分と年月が経ったよ。私も年を取った。どうだい、そっちの暮らしぶりは。そちらは土地が豊かだと聞くが、農作物は順調に育っているかい? 家畜はのびのびとしているかい? もし、そうならば、心配に越したことはないだろう。

>>だが、こちら東方は何もかもよろしくない。王が死んで情勢が不安定なんだよ。どうせならば、私もセイプレイシスのようにして、農業へ逃げるという選択肢を取ればよかったよ。こちらは食料も税も、それらを徴収(正確には強奪)してくる役人がひどいものでね。それなのに、私がここに留まっている理由が見当たらない。かと言って、西方に逃げるという理由もない。さっさと、君のようにして逃げ出せばよいものを。バカだね、私は。そこまでしてここを気に入っているのだろうか。そうとは思っていないが、本心はそうなのかもしれない。

>>さて、前置きはこれぐらいにしておいて、私はセイプレイシスに伝えなければならないことがあるんだ。東方の情勢が悪いとも書いたのだが、それだけではないんだよ。どのようにして説明をすればいいのかよくわからないが、存在自体と言えばいいのだろうか? 非常におかしな話だが、私の目に映る光景、耳に入る音はとても不安定なんだ。人々が消え掛かっていたり、目の前に誰もいないのに話し声が聞こえたり。最初は私の体に異常があるのだろうと思って、医者に相談したんだ。そうしたら、その症状は老若男女問わず多いと。それもここ最近の話だ。

>>それを聞いた私は苦笑いしながらも、一つの仮説を立ててみた。とてもくだらないかもしれないが、一人の友人としてのジョークとでも思っていてくれ。近い将来、この世界では何かしら大きな変動があるかもしれない。それが何かは全くわからない。もしかしたら、東方に途轍もない天災が襲ってきて、ほとんどの者が死に至るかもしれない。あるいは誰にも手の施しようがない奇病が流行るかもしれない。

>>とにかくだ、東方に未来はないということだけは断言できる。セイプレイシス、こちらに来ない方がいい。西方に何も問題がなければ、ずっとそこにいろ。しかし、そこも危険だと感じたら、極西の島国でもいい。そこへ逃げるんだ。そこが一番安全なのかもしれないのだから。

>>それじゃあ、最後の手紙となるかもしれないが、私は君の友人でいてとても嬉しかったよ。


>>1144.25

>>昔から君の友人であるカインより

 ルシオラ海領域にての防衛戦は一段落する。ずっと、浮遊術式魔法ばかりを扱っていたせいもあってか、体中疲れが取れそうにない。ザインもまた久々に地に足を着けた。地と言うより、建物の床であるのだが。

 現在、自分たちがいるのはルシオラ連合王国軍の防衛ラインの本拠点として機能している小島だった。そこで、現状を報告しに戻ってきたのである。この場には視察という名目で来ていたスンムスもいる。彼は「状況は?」と知りたそうにしていた。


「君たちがここにいる時点で、落ち着いてはいるのだろう?」


「はい、落ち着いてはいますが、操られている者たちの対処法を粗方発見致しました」


 ジョクラトルはSIPW-1と〈遺跡協会〉の者たちの出現と対処法を報告した。どうも、〈Suvi〉の返還を求めている彼らはインペリウム帝国軍と手を組んでいるように見える、と。


「〈遺跡協会〉がか?」


 事の事実にスンムスは険しい表情を見せた。だが、ジョクラトルは「正確には」と否定する。


「ルーメン民族だけがあやしい行動を取っているように思われます」


「むう……好転になってきているようだというのに、あまり好ましい話ではないな」


 そう言うスンムスはアークとジョクラトルに「詳しい話がしたい」と別室へと案内する。その一方でザインとパティ、サックスはジョクラトルとSIPW-1の因縁について知りたそうにしていた。提供された情報をもとにつなぎ合わせれば、答えは見えるのであるが――その答えは果たして合っているのかが気になるのだ。ジョクラトルに話を聞きたい。そう思っていても、彼らはスンムスに案内されていなくなってしまっていた。

 その場に残された一人と二機。サックスは《ザイン殿はまだここで戦われるのですか?》とザインに訊くことにした。


《ある程度の落ち着きは見せてきていますが》


「まあ、そりゃあな。俺がいてもいなくてもどちらでも変わりないだろうけど、みんなのために何かしらしたい気持ちはあるさ」


 窓の方に目を向けてみれば、そこには血みどろの海はなく、真っ青で綺麗な海が見えていた。そのキラキラと輝く光景を眺めながらも「死にたいってわけじゃないんだけどな」とアークたちが助太刀に来る前までのことを思い出す。

 本当につらかった前線。常に浮遊術式魔法を展開し、必要に応じて魔術を相手に繰り出さなくてはならない。休憩という言葉は一切ないあの戦場にもう一度戻るということは、死に逝ってくるというようなものである。ザインはそこまで自殺願望を持ち合わせた人間ではない。普通に死と隣り合わせの戦を好むほどでもない。ただ、こうしてジョクラトルたちのようにして元インペリウム帝国軍であった自分を受け入れてくれた者たちに、自身ができることをやりたいのだ。(だとしても、嫌悪感を抱いているような連中には建前としてそう思ってはいる。優先順位としてはジョクラトルたちの依頼が先)


「ゲヌスが、スンムス将軍がこの戦線に俺が必要だって思っているなら、受け入れるし」


《では、別の指示が動いたとして、ここの将校殿たちからの指示もあったら?》


「ゲヌスたちの指示が優先だな。だとしても、あいつらはここでまだ耐えて欲しいと言うだろうから――」


 もう少しの辛抱だ。そう言うザインは建物から出ると、浮遊術式魔法で上昇し始めた。


「SIPW-1がいなくなっても安泰したわけでもないからな。あと、久しぶりにクオンの声も聴けたから、まだ頑張れそうだ」


 ゆっくりと戦艦から離れていくザイン。そんな彼は「じゃあ、そっちもそっちで」と軽く手を上げる。


「あいつの記憶が戻るといいな」


《はい、ザイン殿もお気を付けて》


 再び、前線へと戻っていくザイン。手には術式魔法変換仗砲を強く握りしめて。そんな彼を見送ったパティとサックスはアークたちが向かった部屋の方角を気にするのだった。


     ◆


 スンムスに案内された部屋。そこにアークとジョクラトルは二人並んで座っていた。妙に重々しい空気を物ともしないスンムスは「ケチュータの制圧作戦の予定日は七日後だ」とはっきり告げた。彼は懐から花タバコを取り出して、吸い始める。これに倣い、二人もタバコを嗜み始めた。周囲には煙が充満している。その煙たい空気へと変えてしまったスンムスは時間が掛かり過ぎたな、と皮肉そうにしていた。


「一つの国が滅ぼせそうなほどの魔法エネルギーの塊を集めるのに、二年半。途中、君を魔法エネルギーの結晶から救い出すのに一年分を使用してしまったこともあるから、実質は一年半だ」


 アークはちらり、とジョクラトルを見る。説明が欲しいと言わんばかりの顔だからこそ、こちらが横やりを入れて説明をするより、視線を合わせた。どうやら、〈Suvi〉の言うことには、魔法エネルギーの結晶から助けるには同じ質量の魔法エネルギーをぶつけなければならなかったらしい。つまり、一年間で集まった魔法エネルギーを自分のために使ってくれたとのこと。


「そりゃあ、俺が油断して悪かったな」


「何も君を責めてはいない。どの道、これからも君に助けてもらわなければ、我々は何もできないからな」


 そう言うスンムスは二人にいくつかの紙媒体の資料を差し出す。それを手にするアークなのだが、基本的に読むということは頭にないからなのか――すぐにジョクラトルへと回してしまう。これにジョクラトルは咎めようかと思ったが、この性格だ。どうすることもできないとはわかっていた。

 資料には『インペリウム帝国帝都ケチュータ制圧作戦について』とある。スンムスの表情を見れば、この計画は上手くいくと思っているようだ。彼は言っていた。カリクルスブンの真似だけはしない、彼の二の舞にはならないようにする、と。つまり、今回の作戦は隙のないものだと見てもいいのだろう。


「一応、それが本作戦だ。七日後までに、詳細を記した作戦内容についての物を渡すつもりだからな。それまでは……イニティウム諸島共和国へ向かうのだろう? 船の手配はしたからな。二日後にマキナ国のピレイジ港からイニティウム諸島共和国行きの船に乗りなさい」


「と、なると……それまではマキナで観光旅行か」


「お前、能天気な考えだな」


「なんだよ。だったら、俺が案内してやろうか? どうせ、〈Suvi〉もあるからな」


「いや、行く時間がないから遠慮する。というか、それはサックスから報告は受けているが……本当に〈Suvi〉の遺跡があるのか?」


 にわかに信じがたいこと。これにはスンムスも興味があるらしい。〈Suvi〉と聞いて、〈遺跡協会〉の者たちのことを気にし出したのだ。いくら、こちらを邪魔してきたから始末したとは言え、残党はいるはずだろう。きっと、アークたちの後を着けるに決まっている。その背後を取って、〈Suvi〉を奪うということもありえそうだ。だからこそ、行く時間がないという理由もあるが、行くべきではないという案件であるのだろう。


「あった。廃鉱山の坑道の奥にな。そいつは人の名前と国の名前を知っていただけだった」


 人の名前と聞いて、スンムスは身を乗り出すようにして「誰のことだった?」と知りたげ。その様子にジョクラトルが「カルディア博士という方です」とサックスの情報をもとに、カルディア博士について伝えた。彼は〈Suvi〉や〈Meisxu〉を造った人物であること。その人物はとても気が遠くなりそうなほどの大昔に存在していたということ。その〈Suvi〉は千三十三年に造られたロストテクノロジーであるということを。


「わたくしには当事者でもないから、又聞きなので。きっと、〈ニンギョウの目〉であるサックスなら、アークと共に行動をしていたから知っているはずですよ」


「なるほど。太古の昔に存在していた技術者、か。そうとなると、〈オプファー〉をもとにした魔術工学機器があるのも頷ける」


「あくまでも、おとぎ話の時代ではあるんですけれどもね」


「しかしながら、〈Suvi〉の情報なのだろう? それが正解で当たり前ではないか。〈SHARE〉の前身ともなったネットワークだぞ」


「……その正解というものは、誰が定義をされたのでしょうか」


 あまりにも〈Suvi〉や〈SHARE〉に関して信頼を寄せているスンムスに疑問を抱くジョクラトル。アークは話に語る気がないのか、美味しそうに花タバコを満喫しているようだ。


「確かに〈SHARE〉はフェイクニュースすらも弾いてくれる優れ物であります。ですが、そのフェイクをどう見分けているのか、疑問に思うのですが」


「そう言われると、何も反論も答えも出せないな……」


 何も言えないスンムスは無言で花タバコを吸う。煙を吐いて「だが、誰もが〈SHARE〉の情報データに信頼を寄せているのは事実だ」ともっともなことを言っていた。それはジョクラトルでも知っているからだ。この時代で何かの調べ物に関しては、〈SHARE〉で確認しろと言われているような状況なのだ。それはもちろん、ルシオラに滞在中、アークが調べ物をしたというときだって。どんなときでも、誰もが〈SHARE〉を頼りにする世の中。異質であると言えば、異質であるが――。


「カルディア博士という人物は偉大ですよね」


 そう反応するしかないジョクラトルであった。


     ◆


 今は五千七百二十九年。世界的に見て、それほどの年数が経っているのだ。だが、元年とやらは誰が定めたのだろうか。〈Suvi〉をもってしてもわからないことだった。その〈Suvi〉を利用しようとして、何かしらの目的がある〈遺跡協会〉は空白の時代を現代につなげる――すなわち、記録が不明な時代を確かなものにしようとしていた。しかしながら、こちらとしては、インペリウム帝国を倒国するために必要な情報があると見込んでこちらの手中にありたい。というよりも、そもそもがリーキタス家のものであるということが大きいから彼らの声にわざと知らないふりをしているのだが。

 シーフェの家にあるはずの〈Suvi〉の前にはシーフェとアクア、そしてアドがいた。彼らはこの時代で発見したフィデスたち古代魔術機器と光ってしゃべる石像が本来存在した時代が判明しようとしていることを知り、様々な文献や資料を部屋中にとっ散らかしていた。


「それで? ゲヌスの旦那は何だって?」


 アドが大量の紙に呆れながらも、ジョクラトルに連絡を入れていたアクアに訊ねた。彼女は資料を整理しながらも「驚いてはいました」と彼とのやり取りを思い出す。


「でも、ゲヌスさんたちはやることがあるそうなので、解明などはこちらに任せると」


「任せるねぇ……フィデスとフォードって、今はあの丸っこい機械との同期はしていない状態なんでしょ?」


「そうですけど、なぜ?」


「彼らがいた方が、資料の整理に役立つと思ってさ」


 そう言うアド。これにシーフェはどことなく察したのか「面倒臭いの? 先生」と肩を竦めた。


「そりゃ、パティさんたちがいたら、仕事は早いだろうけど……アークさんが目覚めたって言っていたじゃないですか」


「言っても、あたしその人知らないし」


 さらりと発言をする彼女にアクアは苦笑い。なんと言うか、そういう部分はアークに似ているなと思う。


「えっと、そのインペリウム人が目覚めたし、その人のために大まかな状況の整理をするためなんだっけ? 同期してたらできないの?」


「解除している時点でそうじゃないですか」


 なんてグチグチ言っても、何も進展しないのも事実であることをアドは十分に理解していた。だからこそ、まだ不満はあるようだが、〈Suvi〉に記録保存されている情報データ、〈SHARE〉に登録されている情報データを見比べてみた。

 〈Suvi〉にある最古の情報記録データは自身が作られたという年数――千三十三年。そして、〈SHARE〉にある最古のデータは不確定ではあるが、千百四十四年のもの。それを詳しく見てみれば、マキナ国で発見された手紙であるとか。その手紙の内容を見てみれば――。


「この手紙の差出人、どうなったんだろ?」


 気掛かりなのはそれ。国の名前がないから、特定は不可能。だが、この手紙自体がマキナ国で見つかっているとするならば――。


「だからと言って、この手紙を受け取った人が移動していないとは限らないしね」


「でも、この手紙があるおかげで〈壁〉や〈滝〉について、大まかにはわかっていらっしゃるんですよね?」


 現在、アクアが手にしているのは〈SHARE〉内に存在している地学や火山学、地震学に関わる論文である。これらの学者たちが提唱する〈壁〉や〈滝〉ができた理由として二つ存在するとか。一つは非現実的なおとぎ話でリヒト王が闇(=地下)に閉じ込められたが、彼の怒りで土地の変形があった(地下には「世界の力」=「魔力」そのものがあるため)。もう一つは現実的ではある地震や火山の噴火によって生まれた断層が大きくずれたということ。

 しかしながら、双方とも誰もが納得していない学説であることは確かだ。リヒト王の怒りで地形が変わるなんて、それこそおとぎ話。それに、断層の大きなずれもにわかに信じがたい。〈壁〉や〈滝〉は予想以上に高い存在なのだ。群発したとしても、ありえるかと問われるならば――。

 だったら、リヒト王の怒りで自身や火山の噴火の多発による断層の大きなずれと組み合わせる方がよっぽど納得がいくと鼻で笑う学者も少なからずいるのだ。

 もちろん、シーフェたちは鼻で笑っている学者の考えに賛同ではある。すべて辻褄があるからだ。三千七百二年まで〈Suvi〉が発見されなかった理由としても上手く話が合う。


「今の〈SHARE〉で最も古い情報としては、千百四十四年に書かれたであろう手紙だけ。しかも、妙に保存状態がいいっていう。そのせいかはわからないけど、この資料が見つかってからは、ほとんどの国が暦を変えたって言うぐらいだし」


「と、なると、その年までは〈Suvi〉たちが造られるほどの高度な文明があったんですね。保存状態がいいって……マキナの気候にしてはちょっと難しいですし」


「うん。そんで、その後となると……おとぎ話が入り混じってくるね。そもそも〈Suvi〉がデアについてのことを詳しく知っている時点で、勇者は存在していたということになる。それならば、リヒト王だっていた。だから、彼は閉じ込められた怒りが魔力に大きく反応し、特定の地域の断層が大きくせり上がってしまった。もちろん、地震や火山もたくさん噴火させた。これって、天災であるから……これらによって、為す術がない人間は死に至り、文明は終わりを告げたんだろうね」


 アドの推測にシーフェとアクアは大きく頷く。妙に信憑性が高い話だとも思えた。


「だから、あの光ってしゃべる石像も、フィデスたちも文明が衰退して、再び盛り返そうとする人間が足掻く時代に生まれたんじゃないの? ほら、リーキタス二号君の家にあったとされる〈Suvi〉とは違うやつ。名前何だっけ?」


「〈Meisxu〉のことですか?」


「うん、そいつ。〈Meisxu〉、〈Suvi〉は情報データを記録する情報記録キーみたいな役割があるなら。きっと、〈Meisxu〉が存在しなくなる前に、フィデスたちを造った。でも、〈Suvi〉にバックアップを取る前につながりが消えた。そう考えるなら、おかしな話じゃないよね」


 それが、自分たちが出した結論。こちらとしては、歴史の専門家でも何でもないから、断定はできない。しかし、〈遺跡協会〉の彼らはどうなのだろうか。自分たちが導き出した答えに一度は辿り着いていてもおかしな話ではない。

 空白の時代を現在へつなげる。

 意図がわからない。これにアドが頭を悩ませていると、シーフェが「もしかして」と一つの仮説を立てた。


「空白の時代というのは、〈壁〉とか〈滝〉の向こう側に存在するかもしれないもう一つの世界のことを差すのでは?」


「ああ……伝説のお話ですよね」


「おとぎ話として知られているデアという勇者が実在したという可能性が高い。もう一つの世界についての話が事実であっても、驚きはしないですよね」


「んー、つまり、リーキタス二号君は〈遺跡協会〉の連中は〈壁〉や〈滝〉の向こう側にある世界を、 〈Suvi〉を利用してこちらの世界とつなげようとしているってことを言いたいのかな?」


 これにシーフェは「そうです」と頷く。


「だって、空白の時代を今の時代につなげるんですよ? 意味深的な言葉を言い換えれば、そうなりますよね?」


「確かにねぇ。でも、まだ謎はある。連中は〈Suvi〉の利用について極秘に動いているんでしょ? なんで、それを公にできないかってことだよね」


「カーリーさんと同じルーメン民族の方でしたよね。それならば、彼らの地域で伝わるお話に何かしらあるとか?」


 ルーメン民族に関りのあることであるならば。三人は彼らのことについて挙げてみた。


「ルーメン民族の方と言えば、他の民族の方と違って、身体的な特徴が大きいですよね」


「ルーメンって聞くと、やっぱり〈光の論争〉ぐらいしか思い当たらないや」


「確か、ルーメン自治区はカエルム教を信仰していましたよね。神話系とかに何かしらありますかね」


 一人一つずつ挙げてみて、アクアが「あの人たち、感覚が鋭い方ばかりだから私たちには計り知れない何かに気付いているのかもですね」とちょっとしたジョークを言う。確かに、彼女の発言はありえなくもないはなしだ。自分たちが気付かない何かに気付く。もしも、そうだとするならば、彼らは何に気付いているのだろうか。

 アクアの考えを聞いていたアド。彼女は〈光の論争〉について挙げていたのだが、すぐさま「関係ないかもなぁ」とすぐにその例を消そうとした。


「〈光の論争〉って言ってもな、二つの宗教の違いから生まれた口ゲンカだし」


「いや、関係はあるんじゃないですか? だって、ルーメンの人が信じているカエルム教とグローリアの人が信じているアウルム教のことでしょ?」


 それは教えにヒントがあるとでも? 片眉を上げるアドはシーフェが挙げたカエルム教とアウルム教を比べた。あまり宗教に関しては詳しいわけではないのだが、この二つの教え――似て異なる教えである。


「闇を光で照らした神様……」


 妙に勇者デアの話と酷似しているようだが? まさかとは思う。


――あれらが元はデアの話じゃないと言うなら、起源はどこから?


 カエルム教を〈SHARE〉で調べてみれば、三十もの神話としての小話が存在する。そして、クラルス地方での言い伝えによれば、カエルム神は一人。しかし、その地域以外での言い伝えでは双子の神様なのだ。それでも、内容はほとんど一緒。しかしながら、カエルム教を始めとする世界各国で語り継がれている神話物語に〈壁〉や〈滝〉に関する記述はなし。おまけに――。


《カエルム教という教えについての情報データは存在しません》


 〈Suvi〉は知らないと言う。だったら、もっとおかしい。こいつは〈壁〉や〈滝〉の存在を知らなかったのだぞ。それだからこそ、カエルム教の情報データがないならば、後の話だと言える――。


――もしも、デアの物語が語り継がれていく内に、別の神話に改変されていたら?


 カエルム教、アウルム教は基本的に闇から光を照らすとかの記述が存在する神話物語だ。そして、これらを信仰している者たちは――ルーメンとグローリア。二つの地域は隣同士。


――似た内容にはなるよね。


 似た内容であるならば、元は勇者デアの話が分岐したのかもしれない。もしも、〈遺跡協会〉の者たちが神話を基にして動いていると言うならば――。

 カエルム神話には『世界の光』という話がある。カエルム神が一人としているときと、双子のときとは内容が少し異なるが、これは暗闇しかなかった世界に光をもたらすという――まさに勇者デアと同等の話。

 しかしながら、この世界は暗闇に覆われた世界ではない。ならば、カエルム神話としての動きを見せてはいない。であるならば――シーフェの憶測である〈壁〉や〈滝〉の向こう側にあるもう一つの世界とこの世界をつなげるというものが信憑性は高い。


「仮にだけど、リーキタス二号君が言っていた二つの世界をつなげるって話。それを実行するなら、それなりのリスクを伴うよね?」


 そう言うアドは〈SHARE〉に残された世界最古の手紙を差した。彼女の言うそれなりのリスクとは? 手紙の内容によれば、それを受け取った人物が住むところから東方にある場所では奇妙な現象が起きている。傍から見れば、ただのジョークの手紙に見えるが――これが本当の出来事であるならば、一大事な事柄なのである。そして、〈Suvi〉は〈壁〉や〈滝〉の存在を知らなかった。


「それじゃあ、連中は〈壁〉や〈滝〉を失くすためのことをしようとしている。もしも、それを実行したとしたら?」


 彼女の言い分にシーフェとアクアはお互いに顔を見合わせると、段々と青ざめてきた。


「あの手紙と同じような現象が起きるどころか、地震とか火山噴火が起きてしまう……」


「世界の文明の発展のためにも、悪い話ではなさそうなのにですね……」


「そうだね、実はとても危険極まりないことだろうね。現実的に考えて、あれらを失くすなら、断層をずらさない限りは無理な話だし。というか、どうやってずらすんだって話だろうかね?」


 もう一度、思考を回していると、アクアが一つの事実を忘れていた。そう言えば、ジョクラトルとの連絡を取ったときに――。


「あの、もしかしてなんですけど……」


 これならば、納得がいくかもしれない。そう思って。


「〈遺跡協会〉の方、実は今ルシオラ海領域で目撃されたとゲヌスさんが言っていました。だから、あの人たちはインペリウム帝国に何かしら情報があると知っていらしたのでは?」


 〈遺跡協会〉の者たちはこちらが計り知れないことを知っている? それもインペリウム帝国が〈顰蹙の空〉を展開した理由にもつながる何かをだ。

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