後戻りはできない
もうどうすることもできないだろう。カリクルスブンは歯噛みをしながら、IDSHAREの画面に目を落としていた。そこからわかるのは、インペリウム帝国が自分たちパクス同盟軍の宣戦布告を受け取ったとされる文書だ。彼らは久々に〈SHARE〉内のインペリウムの項目を更新した。〈黒い壁〉発動宣言以来か。
「…………」
何も言葉が思い浮かばない。やれるだけのことはやっているだけだから。あのインペリウム人の生命エネルギーが本物だったならば、こうして悩んでいないというのに。
作戦変更箇所が発覚し、隠蔽するのは不可能だとわかっていたから、上層に報告はした。もちろん、嫌な予感はすると思って。
【それならば、結果が楽しみだな】
上に報告をしたら、そう嗤われた。
結局、裏切り者たちはあのインペリウム人の居場所を吐かなかった。だからこそ、処罰を与えた。それぐらいの権限が自分にあるはずだから。
インペリウムの土地で死ね。生まれたときからあの国で過ごし、〈黒い壁〉からの脱却をずっと待ち侘びていた連中にとっては酷な話だが、同情はしない。絶対にだ。彼らはあの土地で死ぬことが宿命づけられている。その運命を変えることなんてできやしない。そうさせるわけにはならない。それがもし、やろうとするか、できるとするならば――。
「この事案で、私は失脚するかもしれないだろうが、奴らが向こうの土地で仮に生き延びるとするならば」
それは流石にあり得ないだろう、と笑ってしまいそうだ。口元がニヤニヤしている。しかし、彼にとっておかしな話として捉えるならば、嗤っても誰も文句は言うまい。この執務室には自分一人しかいないのだから。だったら、大いに嗤ってやろう。こうなれば、やけなのだから。
「あいつらは死ぬ! 死を恐れながら、私を騙したことを後悔しながら! 私もあいつらも後戻りはできないのだ!」
――今からやけ酒だ! やつらの苦しみを酒の肴にして、最後にこの部屋で将官であったことを楽しんでやる!
なんて、強気の表情は見せるのだが――インペリウム帝国と戦い終わった後の時間は絶対に来て欲しくない。カリクルスブンは自分自身の将来に不安を感じるばかりである。




