騎士
次の日の夜、修二さんのお知り合いの騎士団の鈴木さんと会う事になったのだが……
「頼みってそんな事。いいよ、すぐに部下に許可証を持って来させるから」
「ありがとな、さっちゃん」
「すぐその書類書いて、これは手間賃としてもらっとくわー」
「は、はい……」
店主の修二さんが例の騎士団の鈴木さんに話すと、俺の食べていたフィッシュアンドチップスを手間賃代わりにあっさりと許可をくれたのだ……
思いの外あっさりと。
騎士団というから、お堅いおっさんをイメージしていたのに、来たのはちょっと不良っぽい女性だ。
言葉は荒いが百華は何故かすぐに可愛がられ、俺たちの話をすんなり聞いてくれた。
ご夫婦のご好意でこのレストランの二階に泊めてもらった俺たちが、朝一番でカクラマのギルドへ行きランクアップの筆記試験を受けて、難なく合格。
グリーンランクのプレートをもらった後、騎士団詰所から申請書だけをもらってきたのだ。
もちろん修二さんが、直接鈴木さんに渡した方がいいと言うので、その通りにした。そして、俺を置き去りに悠人と百華と修二さんは雑談をはじめた。
「まさか鈴木さんって、あの鈴木さんだなんてこれっぽっちも思わなかったよ〜」
「ホントだな!まさか鈴木さんと知り合いだなんて」
「鈴木さんはお暇があるといつも顔出して下さるの」
「さっちゃんは昔から食いしん坊だからなぁ」
この鈴木紗希さんは修二さんの幼馴染らしく、騎士団のハマヨコ支部の第3大隊の隊長なのだそうだ。
騎士団の大隊はおよそ200人、元の世界の自衛隊やら軍隊やらと比べると少ない数だが、そもそも戦闘力と言う意味で冒険者もいるわけだから充分大きな戦力なのだ。
カナガ地方沿岸部の各街の詰所やエノトウの警備も彼女の大隊の隊員達が務めている。つまり、俺達がエノトウに入れるか否かはこの最高責任者様にかかっていたわけだが、魚と芋であっさりと許可が出てしまった。
そして、さっきから鈴木さん鈴木さんと2人が盛り上がっている理由は彼女が数少ない女性の騎士団だからと言う訳ではない。
彼女は、12年前の魔物の討伐に若干18歳で参加し勝利を収めた英雄の一員なのだ。
密かにと戦闘狂と呼ばれているらしい……
騎士団の制服を裂いたような服装にオレンジの髪、まさに戦闘向き……なのか?
「か、書けましたがこれでいいですかね?」
「うんうん、問題ないな、綿貫っ」
「はいっ」
そう言って鈴木さんは連れて来た部下らしき男に書類をポンっと渡した。
「今から戻って、なるべく早く許可証を持って来い、アタシの許可は下りてると伝えとけっ」
「了解しましたっ」
今から!?
嘘だろ……今からカクラマに戻される事にも文句を言わずに従う騎士、あなたは凄いよ。
申し訳なさ半分に俺も頭を下げた。
俺にも敬礼して足早に店を出て行く部下の男を見送って一息つくと、鈴木さんが俺に話を振ってきた。
「しっかし、アンタらその歳でエノトウの石碑に興味があるなんて変わってるわね」
「えっ? そう、そうなんですか? 騎士団の警備している場所で、入場規制されている所なら興味が湧きませんか? それに古代の文字が書かれている石碑なんて、歴史的な発見物じゃないですか!」
「そーゆーもんかねぇ、アタシはこれしか興味が無いけど冒険者からの申請なんて稀さ」
コンコンと立て掛けてある2本の剣を指して言う鈴木さんは続けた。
「アンタらも下調べくらいはしたと思うけど、エノトウは謎だらけでね。天候も荒れてるし、中は魔物が大量にいるし石碑の文字の解読も未だに進んでいないんだ」
「騎士団が調査しているんですか?」
「政府の研究機関の学者が担当してる。騎士団は民間人の立ち入りを制限するための守衛のようなもんさ、もっとも誰も近づこうとはしないけどな」
「エノトウ周りの天気が荒れているのは、何か関係があるんでしょうか?」
「さあね、それを含めた調査なんじゃないか? ただ最近はめっきり出入りしてないみたいだ、上からは"不法な侵入を妨げろ"としか言われてないけどな」
「そうなんですね、エノトウにはどんな魔物が出るんですか?」
「ブラッドクラブやシーサーペント、マーマン、クリアタートル。それに鳥や虫、植物系の魔物と種類は色々だ」
俺たちのレベルで問題なさそうだな。
ブラッドクラブはレベル22、シーサーペントとクリアタートルは24遭遇したことはないがマーマンは26くらいだったはずだ。
このカタセの街の海岸付近で遭遇する魔物と大して変わらない。
「ただ、そこらへんの魔物よりも強い」
「え? それは、強化種と言う事ですか?」
「強さで言うなら強化種のそれと同じくらいだ、だけどな、全ての魔物が強化種だ」
「そんな事があるんですか?」
「アタシが嘘を付いてるとでも?」
ギロッと睨まれたので、高速で横に首を振った。
「エノトウだけじゃない、トツトリの砂漠に出る魔物も強化種だらけだ、各地にいくつかそんな場所があって、だからこその規制だ」
「な、なるほど、ちなみにその原因はなんなんですか?」
「知るかっ、それこそ調査してる研究者共に聞けっ」
そんな怒らなくても……
「エノトウは、レベル30以上の制限になっているが、正直アタシは30でもどうかと思うけど。とにかく注意して行くんだね」
「わかりました」
「ん」
そう言って、自分の空になったグラスを指差す鈴木さん。
「ん」
「あ、はい、おかわりですね」
「情報料だ」
「……ですよね」
俺は修二さんにおかわりを貰いに行きながら考えた。
強化種との戦闘経験は厳密に言うと無いが、前のゴブリンのような個体が出てきたらと思うとゾッとする話だ。
ただこの前、気配を感じられたからそこに同じようなのがいるのなら、危険察知も可能かもしれない。
どうせすぐに許可証が来るわけじゃないから、明日はレベル上げをしておいた方がいいな。
既に店の閉店時間は過ぎて、片付けをしている修二さんからボトルも貰って席に戻ると何故か悠人と百華が鈴木さんを"サキねえさん"と呼んでいた。
「サキねーさん、私にも剣術教えて下さいっ」
「ズリいぞモモカ、俺にも指導をお願いします、サキねえさんっ」
「あっはっはっ、いいね〜見所あるねえ〜、アタシの稽古はキツイけど……覚悟はあるかい?」
キリッとした目で"覚悟はあるかい?" をキメた鈴木さん。
それに目を輝かせた体力バカとバカ
「「はいっ」」
「よぉ〜し、じゃあ今から庭で稽古をつけてやるっ付いてこいっ」
「「はいっ」」
「おいっこうきっ」
「え? あ、はいっ」
「お前も来いっ」
……えっ