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家族と経験値

 


 村本の店を後にして百華と悠人と別れた俺は、隣に住んでる婆ちゃんの家に来ていた。

 元の世界では古本屋をやっていた店内はこじんまりとしていて、年末に行ったばかりだというのになんだか懐かしい。

 この世界では魔法書を扱ってる店になっていて、色んな種類の魔法書があった。

 規模はそこまで大きくないけど、後で婆ちゃんにどんな魔法書があるのか聞いてみよう。そんな事を思っていたのだが……


「はい、お年玉」

「え?」

「まだ扱えないかも知れないけど、珍しい魔法だから大事にしなさい」


 まさしく"ちゃぶ台"の上に一冊の魔法書が、トンッと置かれた。

 実は年明け初日の依頼(クエスト)に行く前に婆ちゃんとは新年の挨拶をした時に、"仲間を待たせるな"と見送ってもらって以来だ。

 身内がいるってだけで少し気が楽になったんだけど……お年玉って。もう18、この世界では成人だけど、何歳になっても嬉しいものだ。


少し変わった魔法書だ。

 魔法書の表紙には水系統上級魔法と書かれていて、魔法名は読めなかったが、金の塗料が使われて、女性の絵が表紙の左上に描かれていた。

通常の魔法書は色は様々だが、基本的には文字と魔法名の部分がルーン文字になっているだけで、そう言った装飾のある魔法書をみるのは初めてだった。

 水系統という事は、村本にもらった蒼の魔石との相性はいいが、やっぱりレベルが足りないようだ。


 1ページ目を開いてみると


 レベル90or 知力790分析力900


 か、かなり数値がお高い……

 という事は、お値段も絶対にお高い……


「あ、ありがとう。こんないい物」

「いいのよ、実は貴方のお父さんが結婚する前に私のお店にくれた物なの」

「……え?」

「形見というわけじゃないけど、いつか渡そうと思っていた物だから。その魔法の名前はアクアプリズン、水の防御魔法よ、貴方のお父さんとお母さん。2人がよく使っていた魔法だから大事にしてね」


 つまり、すくなくとも親父と母さんはレベルは90以上だったって事か、冒険者だったのだろうか?


 そのあと少しだけ婆ちゃんに聞いた両親について、親父は剣士、母親は魔術師。

 父親は冒険者で母親は騎士団の魔法師団に所属していたんだと。

 父親の冒険者としてのランクは上から2番目のプラチナランク。現騎士団長の藤田浩二(ふじたこうじ)の友人だったらしい。藤田は騎士学校へ、親父は冒険者の訓練所に。それぞれ道は違ったが親友同士、切磋琢磨(せっさたくま)していたそうだ。

 父親のランクが上がるにつれて、政府や騎士団から依頼(クエスト)も受けるようになって、魔王の次点とも言われる災害級の魔物の出現時など、騎士団と共闘する事が多かったそうだ。


 そして、藤田の紹介で母と知り合い結婚した。

 当時、母は藤田の部隊の諜報解析班に所属していた。頭脳明晰で戦術の提案をも行なっていたんだとか。結婚を機に騎士団を辞めてからは、両親は戦闘に参加する事は少なくなったそうで、2人は森の魔物や植物の調査や魔法の仕組みの更なる研究を進めていたそうだ。


 俺が生まれてから、親父は頻繁に他国へと渡っていたそうだ。母はそれを手伝うはずだったが、幼い俺の面倒を見る為に親父をよく見送っていたそうで、

 ある日、騎士団の要請により他国での特殊任務へ向かう為に乗っていた船が難破し、2人とも行方不明になったのだという。


 それも元の世界と同じ時期だ。


 "水の魔法を得意とする2人が、船の難破で死ぬとは思わなかった"婆ちゃんがポツリと言った言葉には悲壮感が込められていた。


 元の世界で婆ちゃんが話していた事とよく似ている。

 もちろん、魔物なんて出ないから戦闘してたわけじゃないし、剣も魔法もない。

 でも親父はよく海外出張していたし。

 母さんも気象学に詳しく、よく難しそうな論文や図形を読んでいて、フィールドワークによく出かけていた。


 世界が魔王によって改変されたとはいえ、ここまで過去の話を作りあげられるだなんてな……一体なんの目的で。

 ますます謎は深まるばかりだ。


 話を聞いてて、難しい顔をしてた俺を見た婆ちゃんは"ご飯食べてないんでしょ?"と晩御飯をご馳走になった。


 帰りに婆ちゃんの店の中の本を借りる事も出来た。昔、売り物の古本を図書館代わりに居座って怒られたっけ……


 相変わらず、高い値段のする貴重な本の本棚には南京錠(なんきんじょう)がかかっていて、それは見せてもらえなかったが、今のレベルじゃとても読めないような本、だとさ。気にはなるけど"いずれ"見せてくれそうな雰囲気だったから、よしとしよう。


 村本がくれた(あお)魔石(ませき)といい婆ちゃんがくれた上級の魔法書といい、何かと水に縁があるようなので。婆ちゃんに頼んで借りた魔法書は2冊とも水魔法を選んだ。中級魔法ハイドロプレッシャーと中級+魔法アクアスラッシャーという魔法書だ。

 家に戻ってからも、必要レベル40程度の魔法を覚える為、本を読み漁った。全部で5冊、全て途中までしか読めないから読み終わるまでにそんなに時間はかからなかった。


 そして新しい発見もあった。

 覚えた魔法をステータス画面で確認したあと、おもむろに資質の画面に切り替えてみると


「成長してる……」


 資質

 体力 36 精神力 112△1

 筋力 49 知力 207△7

 強度 82 分析力 224△5

 愛護 15 敏捷力 50


 前にも言ったが、この△の上昇値は前回確認した値から上がった分が示される。俺が前回確認したのは村本のお店から帰る道中だ、(あお)魔石(ませき)のバングルの効果を確かめるついでに確認した。つまり婆ちゃんの家に行って、さっきの魔法書を読み終えるまでの間に上がった数値ということになる。


 俺はてっきり戦闘で魔法を使った分、資質に経験値が入るのかと思っていたが、どうやら日常生活でも資質の経験値が入るようだ。

 その事がわかった俺は調子に乗って、朝まで魔法書を読み漁ったのは言うまでもない……


 朝まで本棚にある色んな本を読んだが、魔法書や図鑑などは少しながら資質の経験値が入るが、日記や小説のようなモノは本当に微々たる経験値しか入らなかった。後半は睡魔との闘いで集中できなかったせいか、ほぼ無意味だった。

 この一晩で魔物5匹の群と戦った経験値、そんな程度だ。


 百聞は一見に()かず。

やはり実戦の経験値とは比べられないな。朝食を済ませた俺は2人と合流してギルドへと向かった。



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