プレゼント
ジュオカの街へ戻った俺たちはギルドへ依頼品を納品した。
「どうしたコウキ?」
「あ、いやなんでもない」
「まあ、正直あの数はキツかったな」
「そうだな、まだ気持ち悪いよ」
もちろん片付けた死骸の事だ。確かに気分のいいモノではないが俺には気になる事がもう1つあった。
先日のゴブリンと戦った時に見えた黒いオーラのようなモノの感覚だ。あのゴブリンが俺たちを見ていた……何の目的で? 再び俺たちを襲おうとしたけど、高レベルの先生達がいたから手を出してこなかったのか?
そんな思考にふけって、難しい顔をしていたみたいだ。
「さーて! 今日も一杯やろう!」
百華の一声で、更にげんなりした。
「……また飲むのかよ、今日はやめないか? なんかどっと疲れた」
正直、俺はまだ子供舌なんだろう。
この前飲んだエールは苦くてあまり好きじゃない、それに魔物の死骸をあんだけ片付けた後に肉なんて見たくない。
「なーに言ってんのよ! レベル21になったのよ」
「いや、レベルが上がる度に祝杯なんてしてたら俺らのレベルだと毎回飲む羽目になるじゃんか」
「あったり前でしょ〜が、先生からも報酬貰ったんだし」
飲兵衛かよ。
死骸を片付けた報酬を先生から貰い、クエストの報酬も受け取ったばかりだから気持ちはわかるが……げんなりする俺を見た悠人がやれやれと切り出した。
「百華、この調子ならレベル30もすぐだ。今は余裕があるけど今後装備を買う資金にしないか? レベルが上がっても装備品が安物だったら格好が付かなくなるぞ?」
「うっ……うーん」
そうだよなぁ、俺なんて今着てるものしかないし。
「それにコウキはナナミの所行きたいだろうしな」
「……は!?」
「はっはーん、なるほどぉ、こーんな可愛い百華ちゃんが目の前にいるのに、ナナちゃんがお好みなのねぇ〜」
「ち、違っ」
「ナナちゃんもコーキの事いい感じに思ってるようだし…うふふっ」
え? 今なんて?
「ささっ、参ろう参ろう!」
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「ホントに来るとは……」
今は最初のクエストを受注した時に出会い、ホワイトランクになったばかりの時にも会った"あの"村本の両親がやっている店に来た。
場所は俺の家から歩いて10分もかからない別の通りの商店街だ。
中学2年の頃の記憶だが、元の世界では村本はここに建っていたマンションに住んでいた。この世界ではそのマンションの敷地だった所に一軒家が建っていて、その横に四角い建物で店が開かれている。百華と悠人の話だと、村本は横の一軒家に住んでいるんだと。
「ナナちゃーんっ!」
「こんばんは〜」
「こ、こんばんは」
ズカズカと百華を先頭に店に入って行く。
店の中は入って右側に食料やポーション、左側階段があり正面のカウンターの方から上へ昇れる。木造の建物だが、掃除が行き届いていて綺麗だ。俺たち以外に客はいなくて店は静かだっただろうに、百華のせいでやかましい。
「ももちゃん?」
とっとっとっとっ
と階段を駆け下りてきた村本。
「ヤッホー」
「いらっしゃいませ、ゆうとくんもこうきくんも来てくれたんだね、ありがとう」
俺の記憶の村本は中2の夏で止まっているが、目の前にいる村本は少し大人になっていて落ち着いた雰囲気を醸し出している。
「通常品質のポーションを10本と魔力ポーションを15本くださいな〜」
「はーい! 用意してくるね〜」
そう言って、カウンターの奥へと戻っていく村本の家族は、父親が鍛治師で母親が薬師。
父親の昌也さんは、このジュオカの街、いやトウキ領でも指折りの鍛治師らしい。元の世界ではなんの仕事をしていたかわからないが……母親の涼子さんは、薬師だそうだ。元の世界では近所の薬局で働いていたのを覚えている。
「よかったわね、ナナちゃんと会えて」
「うるさいっ……ん?」
百華の口を塞ぎたかったが、カウンターの横に並んだ宝石のようなモノが気になった。
「悠人ー、これってなんだ?」
「なんで私に聞かないわけ?」
「……これってなんだ?」
「宝石よ」
「ただの宝石?」
「タダなわけないでしょ、金貨2枚って書いてあるじゃない」
「……悠人ー」
悠人の説明によると、これは魔宝石というらしい。元の世界で言うとダイヤモンドとかサファイアとかと同等に高価で貴重な物だそうだ。
石の色と同系統の魔法の威力が上がり、同系統の魔法に対する耐性も少し上がるという代物だ。
どの程度アップするのかはよくわからないが、民間人の間でアクセサリーとしても結構人気があるらしく。品質が高い物になるとかなりの高級品だという。
魔宝石略して"魔石"と呼ぶのが一般的なんだそうだ。
金貨2枚の時点でかなりの高級品だが……この店には赤、青、緑、黄、茶の5種類があり、火、水、風、雷、土、といった系統の能力向上だ。品質は普通と書かれている。
今回の電怪鳥討伐の報酬は3人で金貨1枚と銀貨20枚。金貨1枚は銀貨100枚の価値なので1人当たり銀貨40枚。クエストに関係のない素材を売ったりして+銀貨36枚。1人あたり12枚。
……かなり高い。これが品質最高級となれば価格は数百倍あるいは……
実の所この世界の物価の価値は難しい。
俺たちのランクにしては今回の依頼は決して安い報酬ではなかったはずだけど。おみくじ1回銀貨1枚だったからかなり高いおみくじだし。ポーションの通常品質のものは1本銅貨25枚、銀貨だと0.25銀貨。
戦闘でどのくらいポーションを使うかはその時によって違うが、こういった消耗品には金を割かなければならない。
もちろんランクが上がれば莫大な金が手に入る国家からの依頼もあるが、駆け出しの俺たちは今はそんなものだ。
「なになに? 欲しいの?」
「いや、まあ、いずれね」
「という事は、お金貯まったら買うつもりなんでしょ? なら今欲しいって事じゃん」
「いや、"いずれ"欲しいと"今"欲しいは全然意味が違うからなっ」
「"いずれ"なんて言ってると、もう手に入れられないかも知れないわよ?」
「……」
昔と同じような事言うなよ……
「おまたせしました」
奥から戻ってきた村本は俺たちに気を使ってくれたようで、それぞれのポーションを3つに分けて運んでくれた、更に。
「ポーション3本オマケしといたよ」
「もぉ〜ありがとう、チュッチュッ」
「いつも悪いな」
「それと……じゃーんっ」
カウンターの下からゴトッと箱小さな箱と袋と封筒が俺たちの前に置かれた。
「え!? なになに!?」
「みんなにホワイトランクになったお祝い!」
「えっ!? うそ〜ありがと〜」
「急だったから……凄く良いものではないけど……サプライズッ」
「もぉ〜ホントに好きっ、チュー」
「あぶねぇ、ポーションが割れるっ」
カウンター越しに抱きつこうとする百華を引っ張る悠人
「ナナミ、ありがとう」
「あ、ありがとう」
自分の前に置かれた箱を開くと、銀色のバングルに青い魔石が付いていた。
これって……
「うぉっ、これ、アーマーリザードのグローブじゃねぇか!!」
「あっ召喚符だっ!しかも2枚もっありがと〜……って、めちゃめちゃいいモノじゃんっ!」
アーマーリザードは岩石地帯などに生息するレベル60相当の魔物だ。その素材を使ったグローブ、かなり高級なモノなのが見ただけでもわかる。
それと百華には、アンディを召喚するのに使っている召喚符だ。アンディ用の召喚符は親に買ってもらったと百華は言っていた、自分じゃそう簡単に手が出せるような値段じゃないと……
俺が手に持った魔石付きのバングル。
2人の貰った物を見ても、俺のもかなり高い物なんだろう。不思議と吸い込まれるような青々とした宝石に目を奪われる。
きっと凄くいい値段するんだろうな……
「綺麗だよね、"蒼の魔石"」
ーッ!
突然横から村本に声をかけられて、ビクッと反応してしまった。
「あ、ああ、うん。いいの? かなり高いモノなんじゃない?」
そう聞くと村本はにっこり笑って
「皆んなへのお守りだよ」
天使だ……どっかの本物天使に文句を言いたいね。
「ありがとう」
「こうき君は魔術師だし、水耐性の装備持ってなさそうだったし」
確かにそうだ。俺のズボンもマントも最弱ではあるが火と風の耐性が付与されているが水耐性はない。
「それに、蒼が似合うかな? って思って」
「そ、そうなのかな?」
「うん、私のイメージだけどね」
「ありがとう……」
「うん、大事にしてね」
蒼の魔石は、水魔法への耐性アップと、水魔法の威力が上がる効果がある。これを機に水魔法を覚えてみようかな……なんて単純な思考が働いたとは言いたくない。
「それでナナミ、親父さんにはもう通達が来たのか?」
「うん、明日出発するみたい」
有名な鍛治師で村本の父親。
魔流泉の活性化に伴い、騎士団の戦力強化として各地の職人達に召集令がでる事があるらしいのだ。
武器や防具などを作るにもメンテナンスにも時間はかかる。優秀な職人である村本の父親は騎士団からの招集の依頼が来る可能性を悠人が聴いたのだ。
村本は少し不安そうだ……
「そっかぁ、寂しくなるね」
「うん……でも、お母さんもいるし大丈夫だよ。戦いに行くわけじゃないんだし」
「それもそうね、近々装備品も買いに来るね! お父さんの装備、いいお値段するから沢山買えないけど」
「うんっ!また来てね」
小さく手を振った村本は、俺たちが見えなくなるまで手を振ってくれた。貰ったバングルを早速付けて、ニコニコ(ニヤニヤ)したのは内緒だ。