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感知と操作

 


 再びの電怪鳥(サンダーコンドル)討伐はつつがなく進んだ。何度も使っているうちに魔力操作にも慣れて、急な操作はまだ出来ないようだが、命中率は悪くない。

 "慣れた"といっても、スキルのおかげで魔力の感覚がわかりやすくなったから、間接的に魔力操作が出来るようになったわけで。苦労して練習した成果という達成感はあまりないのが寂しいのが本音だ。

 だが、最大火力の俺の攻撃が、当たるか当たらないかでは戦闘時間がまるで違ってくるからこの魔力感知のスキルのおかげだ。それに練習の時に感じた熱のようなものの感覚も、違和感がなくなった。


「感謝してよねぇ、私が魔力操作を教えなかったら今日のクエスト達成できなかったのよ?」

「きっかけを作ってくれた事には感謝する」

「なによ? その含みのある言い方は」

「含んでるわけじゃない、事実だ。説明下手にも程があんだろ!」

「でも言った通りだったでしょうがっ」


 確かに、ピューンとか、念じるとかその通りだけど……


「お前のは頭と結論だけなんだよ、中身がねぇ!」

「まあまあ、モモカがきっかけで魔力操作が出来るようになったんだ。結果オーライだろ?」

「まあ……一応ありがとう……」

「ん〜?? なぁにぃ? よく聞こえなーい」


 めんどくせえ。

 けどこれで機嫌が良くなるなんて簡単なやつだな……そんな事を考えながら森の出口に向かう途中、悠人が人影に気付いた。


「誰だろうな……」


 そう言って俺たちは姿勢を低くして目を凝らした。


「あれ? グッチ先生じゃない?」


 横顔から谷口(たにぐち)先生である事はすぐにわかった。他に2人、ナックルダスターを腰に下げている太った男性と、ローブ姿の初老(しょろう)の女性がいた。


「おーいっグッチせんせーっ!」


 振り向いた3人の顔が見えて驚いた。

 太った男は、元の世界の高校で国語の先生だった西崎(にしざき)先生。横の女性は教頭の山下(やました)先生だった。

 この2人の事はこちらの日記に書かれていなかったはずだ。一体ここではどんな立場なのか……


「おう、依頼(クエスト)の帰りか?」

「はいっ先生は何を?」

「ああ、これだ」


 俺たちが先生の指し示す方を向くと


「なんだこれ……」


 そこには、タイニーウルフやリトルボアに毒ガエルなど、この森でよく見かける魔物達の死骸が大量に転がっていた。


「冒険者がやった……って事ではなさそうですね」


 呟く悠人の横で俺もそう思った。

 この死骸は内臓やら肉やら所々喰われているのだ。冒険者の使う鈍器とも刃物とも魔法とも違う損傷が至るところに見られる。つまり……


「ああ、魔物同士でやり合ってる」


 さらに横からそう答えた西崎先生。


「おっとすまねぇ、紹介が遅れたな。こっちが西崎、俺の同期でパーティメンバーだ。そんでこちらが山下さん、この調査のチームリーダーだ」


 谷口先生の紹介に、百華も悠人もはじめましてと自己紹介をした。俺もそれに合わせて挨拶を交わした。

 先程俺たちが立ち寄ったムースラの泉と、その周辺環境の変化を先生達は今日も調査していたようだ。なんでも、魔王の復活が近くなればなるほど一日で周辺の植物などに影響が出るらしく、今日は昨日とあまり変わっていないという事だった。


「それにしても、これも魔王の復活と関係があるんですか?」


 悠人の質問に西崎先生が答えてくれた。


「今までそんな報告は無かったはずだ。だがこれをやったのは恐らくゴブリンだ」

「ゴブリンッ!?」


 俺たちの脳裏に浮かんだのは、先日この森の出口で戦った1匹のゴブリンだ。


「ああ、この足跡はゴブリンのモノだ。おそらく4匹……ここに死骸が無いって事はそーゆー事だろう」

「で、でも、ゴブリン4匹でこんなにたくさんの魔物を倒せるんですか? それに、死んだ魔物を後から食べに来たんじゃ……」

「後から食べに来た可能性は低い」


 百華の疑問に、これを見てみろと指を指す。そこにはくっきり残ったゴブリンの足跡があり、足跡を綺麗に囲んだリトルボアの血が垂れていた。


「後から来たなら足跡の中にも血が残ってるはずだ、こんなに綺麗に残るのは血が流れた時にゴブリンの足の上から血がかかった証拠だ」


 それを聴いて黙る百華。


「それでだな、お前達の戦ったっていうゴブリンなんだが、それが複数体いる可能性が出てきたわけだ」

「で、でも強化種のゴブリンなんてそんなに出現するんですか?それも強化種同士が群れるなんて……」


 焦る悠人を遮るように、山下先生が言葉を発した。


「魔物についてはわかっていない事も多いのですよ、絶対にない……とは言い切れません」

「……」

「魔物達は弱肉強食、強い個体が現れれば数種類の魔物が徒党(ととう)を組む事もあるのですから」

「そう……ですよね」

「この件は上に報告します、魔流泉(まりゅうせん)絡みともわかりませんが、初級の冒険者のクエストポイントでもあるこの場所なので、注意喚起(ちゅういかんき)はします」

「はい……」


 ーパンパンッ

 と手を叩いた谷口先生が


「さっ、ついでだ。お前らこれ片付けるのを手伝え」


 え……まさか


 これというのは転がっている魔物の死骸だ。1匹や2匹なら放置しても問題ないが、30以上の死骸は流石に放置できないと。

 先生達が既に掘った穴へと次々に魔物を運んで気持ち悪くなったのは言うまでもない。


 最後の死骸を片付け終わった後、俺は妙な感覚に襲われた。


 ー!?


  前にも感じたが、これはなんだ……


 ハッと顔を上げ、森の奥をじっと見つめた。

 そうだ、この感じ昨日の黒いオーラを発していたゴブリンと同じだ。

 魔力感知によるものか、周囲への感度が少し増していた。電怪鳥(サンダーコンドル)と戦う時も少しだけ魔物の魔力を感じれていたからこそ、狙いを定めるのに苦労しなかったのだが、その時の感覚とは少し違う……


 かなり遠い……けど、こっちを見てる? なんでだ? その奇妙な感覚は次第に遠のいていった事に気付いたのは恐らく俺だけだった。




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