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ムースラの泉

 


「ぜぇ……ぜぇ……」


 俺たちは先生が調査していたというムースラの泉まで逃げてきた。


「ここまで……くれば……大丈夫だろっ」

「ワンッワンッ」


 アンディ以外は息が上がるほど全速力で()()けてきたからヘトヘトだ。


「ねぇ、皆んな見てよっ。すっごいキレ〜だよっ」

「何が?」

「あっちあっち」


 無我夢中(むがむちゅう)で走って来た俺が、百華の指した方を見ると。

 そこには今まで見たことの無いくらい澄み切った水に、周囲に輝くように青々と(しげ)る植物の生えた泉があった。


「あ……」


 思わず声を失うほどの光景だった。


「これが、ムースラの泉か」

「この泉から魔素(まそ)が吹き出してるせいで、魔王が復活するなんて思えないわよね」


 俺も信じられないと思う。魔物達の凶暴化を(うなが)すとは思えないほどに澄み切った泉。

 高い木々に囲まれたその泉にだけ、木漏れ日が差し込んで輝き、魔素(まそ)の流れ出ている泉の中心から感じるのはまさに大自然のエネルギーのようだった。

 周囲に生えているどの植物の茎も太く、(たくま)しく天に伸びていて、神々(こうごう)しく輝いて見えた。

 アンディもぴょんぴょんと嬉しそうだ。

 泉の対岸には、一角うさぎやタイニーウルフ達が水を飲みにやってきていて、通常よりも少し体つきが大きいが、活性化による凶暴性があるようには見えない。

 穏やかな光景だ。


「なあ、この泉の水って俺たちが飲んでも大丈夫なのかな?」

「飲めるぞ! なんなら魔力値も少し回復する」


 一口手で(すく)って飲んでみる。

 美味い。


 若干甘い……かな、それにほんの少しだけど炭酸を飲んだ時のようなシュワッとした感じがする。さらに視界の左上にある、魔力値のバーが少しだけ回復した。


「美味いな、だけど気を付けろよ、高濃度の魔素(まそ)の水は飲みすぎると酔うぞ」


 同じく泉の水を飲んだ悠人がそう教えてくれた。アンディはかまわずガブガブと飲んでいる、魔物は大丈夫なのか?


「そういえば、その魔力操作ってのはどうやるんだ?」

「さっきも言ったでしょ、念力(ねんりき)みたいにやるのよ」


 説明になってねーんだよ……

 大体、魔法のある世界なのに念力ってなんだ



 ------



「サンダーボールッ……くっ……ダメだ。全然曲がらないっ」

「だーかーらぁ、狙ってピューんひょいって感じだってばっ!」

「だーかーらっ、ニュアンスで言われてもわかんねぇって言ってんだよっ!」


 電怪鳥(サンダーコンドル)を相手にするには、チームの火力である俺が魔力操作を覚えて確実に1匹ずつ倒す事が必須だ。という反省会の後、俺はムースラの泉周辺で訓練を始めた。

 2つ並ぶ岩の左にある岩にまずは魔法を飛ばして、右にある岩へと魔力操作をして曲げる。という練習だ。


「要するにだな、今コウキは放った魔法に込めた魔力全部をそのままぶつけているんだ。その魔力のほんの少しを、左右に噴射する形で方向を操作するんだよ」


 なぜ、魔法とは無縁(むえん)な戦士職の悠人の方が説明が上手いのか……いや、そもそも百華は説明になってないのだが……


 悠人の魔力操作についての説明によるとこれは魔法の威力を調節するのが本来の使い方で。魔力の方向によって魔法が曲がるのは副産物らしい。

 スキルというよりも身体能力や運動神経に近いらしく。例えば悠人のような物理的な攻撃が得意な人は、"力をどれだけ込めるか"と言った所だそうだ。

 この世界での一般市民達も魔力を持っているが、日常生活で使う事が少ない為、魔力操作には慣れが必要だそうだ。


 なんとしても習得したいこの魔力操作。これもアイリスの言っていた"レベル以外の強さ"になるはずだ。


 昨日の夜、ムサコスの街の宿で確認した"資質"のステータスは


 資質

 体力 24 △4 精神力 72 △22

 筋力 34 △4 知力 106 △24

 強度 62 △12 分析力 111 △35

 愛護 12 敏捷力 43 △1


 数値は現在値、△は前回アイリスと出会った時にみた数値から上がった分だと計算してわかった。

 ゴブリンとの戦闘で悠人と俺の受けたダメージについても、資質が関係しているのだとすればレベルとは違う強さが得られるという事になるし、どちらかと言えばRPGで見かけるステータスはこっちだ。

 つまり資質高い=ステータスが高い=強い。という事にならないだろうか?


 未だに資質が上がる条件はわからないが。少なくとも戦闘で魔法を使ったり、森を歩きまわったり、ダメージを受けたりと。その時の"経験"が経験値となるのではないか? と考えている。

 例えば、魔法をドカドカ撃っていたから精神や知力とかが上がったのではないか……と言うことだ。


 そして今朝。一度自宅に戻った時にラピッドファイアの魔法書の"読めなかった部分"が読めるようになっていたのだ。本来、ラピッドファイアの魔法書の続きを読めるレベルは32。"叡智(えいち)の魔眼"のスキル補正でもレベル16、と足りなかった条件だったが、その横の赤い文字の資質の"知力90分析力95"の値までに俺の資質が上がっていた為、続きを読むことができた。


 ラピッドファイアⅡ

 消費魔力値32 CT(クールタイム)90秒


 消費魔力値は増えたが、CT(クールタイム)は変わらない。消費魔力値が多い分、威力が上がっている魔法を覚えられた。


 だけど……


「いくら威力が高くても、当たらなければ意味ないわ」


 なんだか、当たらなければどうという事はない……ってセリフ何処かで聞いた事があるぞ……


 いや、百華の言う通りだ。

 そして、魔力操作によって。上書きされてしまったラピッドファイアⅡの消費魔力値や威力をラピッドファイアⅠ程に調節。なんて事も出来る。


 何かと便利な技術は増やしておきたいし、何より電怪鳥(サンダーコンドル)も倒せない。


「ぜぇぜぇ……」


 練習をはじめて1時間くらいたっただろうか……そもそも1日そこらで習得出来るもんなのか?


「イメージが大事なの、見てなさい、光の障壁」


 すると、さっきの戦闘では1辺3メートルの正方形だった光の壁が、1辺2メートルくらいの大きさになった。

 …なんだよ、そのドヤ顔はっ

 スッと光の壁が消えると、"やってみなさい"とばかりに百華がこっちを見てくる。


「くっ……アクアカッターッ…………ダメだ」

「ププッ」


 笑いやがったなこの野郎……


「ファイアボールッッッ…………あっ!」


 ムキになって、ファイアボールを放つが

 曲げる事を意識し過ぎて、狙っていた岩よりも更に右にあるボロボロになった案内板に直撃してしまった。


「やっちまった……」

「あーあ」

「まあ、(こけ)もいっぱいだし誰も見ないもんだから大丈夫だろ」


 そう言いながら燃えた案内板に水を掛けてる悠人。

 近づき手伝おうとすると


 ーフッ


「え?」

「ん? どうした?」

「いや、なんか誰かいたような……」

「そうか? 魔物かじゃなくて?」


 ほんの(わず)か、本当に小さな声が聴こえた筈だ。大晦日のアイリスの最初の一声よりももっと小さな……


「ちょっと、早く消しなさいよ……どうしたの?」

「コウキが、誰かいたかもって言うんだ」

「えー? なんもいないわよ、アンディもおとなしいし。もしかして〜……魔法使い過ぎて頭おかしくなっちゃったのかしら?」


 確かに、魔力値もほとんど残ってない。

 いやいやいやいやっだとしても頭おかしいってのは失礼なっ。火を消し終わって、魔力ポーションを飲んで元の位置に戻り杖を構えた。


 ……おや!?

 何故だかわからないが、魔法を発動させようとすると少し手に熱を感じる。

 その熱が杖を伝わり、魔法の発動点に移動していくのがわかる。

 今までもなんとなくわかっていたが、ここまではっきりと感じたのは、初めてだ。


「アクアカッターッ」


 岩の隣にある木に進む水の刃を右へと引っ張るように、身体に伝わる熱の糸を引っ張るように……


 シュバッ


 と、目標である岩を少し削った。


「出来た……」

「おおっ! やったな!!」

「なーんだっ! やればできるじゃんっ!!」

「ワンワンッ」


 練習の成果……だと思う。

 コツが必要というが、そのコツが未だに掴めていないからまだ練習しないとダメだろうな……

 ただ、マグレだとは思ってない。その証拠に、スキルのアイコンが光った。


 :新しいスキルを獲得しました:

 魔力感知Ⅱ

 自身の魔力を強く感じる事が出来る

 周囲の魔力感知微弱


 なんともザックリとした説明のスキルだ……ってあれ!? 魔力感知だって!?

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