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先生

 


 突然、俺たちに声をかけて来たのは谷口(たにぐち)先生だ。元の世界では俺達の高校の担任だ。いつもジャージを着ていて、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)で豪快で暑苦しい……

 こっちの世界では、冒険者の訓練場の講師という事になっていて、例の写真にも先生のポジションで写ってた。相変わらずの威勢の良い声なのだが


「――ブッ」


 俺が思わず吹き出してしまったのは、先生の装備だ。筋骨隆々な先生の体格はそのままなのだが、何故かRPGに出てくる神官の格好をしている。


「おいおい中野、久しぶりに会ったってのに人の顔見て吹き出すとは何事だぁ?」


 もうやめてくれ……

 図太い声に、荒っぽい言い方で神官とかマジでやめてくれ……


「グッチ先生お久しぶりでーす! コーキはよく怒られてからビックリしたんでしょ?」


 え? そうなの!?

 俺、こっちでも谷口先生に怒られてんの!?


「そういえばコウキは体力なかったから身体強化の訓練でいつもビリだったもんな」


 ああ、怒られたってより鬼教官的なね。


「人には人のペースってもんがあるんだが、さすがに中野からはやる気が感じられなかったからなっ」

「い、いえ、やる気はありましたよ?」

「ホント〜!?」


 おい、百華、アイリスのくれた日記にはサボったとかその時の心情なんて書いてないんだからわかるわけねぇだろ!

 大体なんで神官服を着てんのに身体強化の訓練担当なんだよっ

 俺の心の中のツッコミを他所(よそ)に、先生は4人分の酒を頼んでくれた。もちろん奢りで。

 酒が来るまでは百華が先生の装備についてあれこれ質問していた……同じ回復職のようだしな。

 格好はともかく先生はレベル90超えの超強い人。と日記に書いてあったから実力は本物だろう。


「そ、それよりも先生は何でこちらに?」


 先生の顔が少し曇った。


「どうやら各地の魔流泉(まりゅうせん)が活性化しているようでな……」

「まりゅうせん?」


 谷口先生の言う"魔流泉(まりゅうせん)"というのは、わかりやすく説明すると"地下を流れる魔素(まそ)"が噴き出す場所。この世界の魔法の元となるエネルギーであるため、俺たち人間にも必要とされるモノだが同時に魔物も魔の文字通り必要としているエネルギーだ。


 それが地上に湧き出しているポイントを魔流泉(まりゅうせん)といって、森林地帯の奥深くや海中、火山、渓谷など様々な場所に点在している。


 この魔流泉(まりゅうせん)の活性化は2パターンある。

 1つは、一部の魔流泉(まりゅうせん)のみが活性化するパターン。これは、なんらかの理由でその地域の魔素(まそ)が減ると稀に起こる現象だ。

 2つ目は、魔王が復活するために急速に魔素が消費され、大気中の不足した魔素(まそ)を補う為のモノだと考えられている。

 魔物が強くなったりするのは過剰(かじょう)魔素(まそ)が吹き出ているからで、それだけ大量の魔素(まそ)をもつのが魔王だ。


 今回の魔流泉(まりゅうせん)の活性化は、魔王が復活する周期にも当てはまり、一部の魔流泉(まりゅうせん)だけではなく全国各地の魔流泉(まりゅうせん)活性化しているから魔王の復活が近いといえるのだ。


 実は俺達が昼間に狩に向かった森の中を更に北上していくと魔流泉(まりゅうせん)の1つである、ムースラの泉があり、谷口先生達のパーティはそのあたりの調査をしていたらしい。


 もしかしたら、あのゴブリンは活性化のせいで強かったのか?


「先生、実は俺たちさっきかなり強いゴブリンと遭遇したんです」


 悠人が事の経緯を説明しているが谷口先生も首を(かし)げた。

 いくら活性化してるとはいえ、たった1匹でゴブリンが格上のパーティに挑むなんて聞いたことがないようで…


「とにかく無事でよかった、そのゴブリンについては原因を調べておこう。

 そもそも……夜行性の魔物が凶暴なのはお前達もよく知ってるだろうから、日暮れ前には狩場から帰れって俺は教えたはずだが?」


 ――ビクッ


「「「ご、ごめんなさい」」」

「次からは十分注意しろよ、まっこれでようやくお前達も一人前か……」


 言葉に少し詰まったように話す先生。

 おいおい、そんな涙(もろ)かったのか……


「グスッ……とにかくだっ何度も言ってるが、街の人達がいなければ俺らの仕事は成り立たない。それを忘れるなよ」

「「「はいっ」」」


 丁度、運ばれて来たエールで乾杯して一息ついた。


 うん、苦い。

 プハーっと飲んだ他の3人が木でできたジョッキを置くと、悠人が切り出した。


「先生どのくらいで魔王は復活するんですか?」

「3ヶ月いや早ければ1ヶ月って所か」

「なるほど、魔王が復活したら更に魔物の動きも活発になる可能性があるって事ですね」

「ああそーゆーこった、それだけ魔素(まそ)が濃くなるからな。だから気を引き締めとけよ」


 さっき谷口先生が言っていたように、俺たち冒険者は拠点となる街に商人や宿泊施設などがなければ成り立たない。そこで、レベル15以上の冒険者には規則のようなものがある。

 主な規則としては、冒険者の手引きにも書かれていた通り。依頼者に対しての横暴な態度をした場合の罰則や、過度な報酬の要求の禁止。などマナーのようなものと。災害時やその復興への協力、街への被害が想定される魔物の駆除協力がある。

 これは、レベル15以上の冒険者ほとんどの場合、民間人への被害を防ぐ為に騎士団及び憲兵への一時的な戦力の提供をする。というものだ。

 この戦力提供は、強制ではないが断ったりすればそのパーティや個人の心象が悪く、あまりにも非協力な事がギルドに報告されると、冒険者資格の剥奪や生涯冒険者としての登録が二度と出来なくなるという重い罰則を科せられる事もあるのだ。

 これは横暴な態度等の心象(しんしょう)も同じこと、"力ある者はその力を正しく使え"ってな事だ。


「まあ、俺達はともかくお前らは駆け出しも駆け出し。せいぜい街に来ちまった魔物の弱いのとかを相手にするとかだな。なあに、魔王の復活までは時間がある、上手くやりゃあ十分強くなれるさ。それに騎士団長は優秀なお人だ、今回も団長殿が魔王を早々に倒してくれるだろうよ」


 魔王が倒されてしまえば魔流泉(まりゅうせん)の活性化も収まり魔物の攻撃性も元に戻る。


「もしもの事もあるからな、レベル上げや連携の強化とか準備だけは(おこた)るなよ」

「「「はーい」」」


 そう言って、グッと自分の酒を飲み干して立ち上がった先生に百華が聴いた。


「ねぇ、グッチ先生!エノトウにはどうやったら入れるの?」

「あ? そうだなぁ、騎士団への申請が必要だな。レベル30以上が条件だったかな? 島の中央に石碑があってな、その石碑の研究者くらいしか寄らない所だが魔物が頻繁に出現するんだ。お前達が行くならもう少し経験積まねーと痛い目にあうぞ」

「ふーん、そうなんだ!ありがと!」

「おう、またな」


 ぷらぷらと手を振ってそのまま去って行く谷口先生。


「解決したわね、さっきのゴブリンは間違いなく活性化した強化種、ついでに何でかわからないけど、コーキが気にしてるエノトウへの入り方もわかったわね!」

「お、おう」

「方針は決まったな、魔王が復活する前に少しでも強くなっておかないとな、それにエノトウもレベル30必要だ」

「じゃあ明日からは討伐依頼(クエスト)増やしてレベルを上げましょう」

「そうだね」


 何故か、急に百華が張り切り出したけど、楔のある場所に近づける段取りはついたようだ……

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