大晦日
今日は12日31日、熊田神社は俺たちの住む地域にある小さな神社だ。普段はそんなに人はいないが流石は大晦日、参拝客も多い。
この町内会のおじさん達が、並んでいる参拝客に甘酒を配ったり、境内の方からはお囃子の笛や太鼓の音が聴こえてくる。
真冬なのに今年はそんなに寒くない、所謂暖冬だ。
俺、中野弘貴は都内の高校に通う3年生だ。
6歳の時、両親は航空機の事故によって亡くなっている。今は隣に住む母方の婆ちゃんが面倒みてくれていて、春からは大学の工学部へと進学する予定だ。 夢のキャンパスライフ、なんて思ってはいない。
引きこもりとかではないけど、元々コミュニケーション能力が低い俺だ。中学、高校と部活にも入らずに家でゲームしたり、本を読んだりSFアニメのファンブックを眺めて、架空の部品や素材の設定を黙々と調べたりしていた。もちろん学校内で俺は至って普通(自分としては)に振舞っている、浅く広くがモットーだ。
そんな俺でも仲のいい友達はいる。
今年は同い年の悠人、百華の3人で年越しをする事になった。
「やっぱし人多いな、さすがは大晦日」
今日、神社に集まろうと提案してくれたのはこいつ、葛城悠人だ。
悠人は小学校2年の時に転校してきた。俺はサッカーのことはあまり詳しくないが、なかなか凄いキーパーらしい。春からはスポーツも盛んな有名大学への進学が決まっていて、運動神経抜群で背も高くてイケメン、絵に描いたようなモテ男だ。
正直な所、世間でイケメンといわれる人種は苦手だが、悠人の爽やかさは嫌いじゃない。他の友達の話の内容についていけない事もある俺にとっては、俺の趣味の話も聞いてくれる悠人は居心地がいい。
「あちゃー、結構並んでるねぇ」
そう答えるセミロングの髪をした身長の低いこいつは野上百華俺の家の向かいに住んでいる同い年の女子、いわゆる幼馴染ってヤツだ。
何だかんだ幼稚園から高校までずっと同じ学校で、ゲーム好きと言っているが、マ○オカートとかそっち系のゲームの事だ。人当たりが良くて本人は気付いていなかっただろうが、クラスの男子からも人気だ。
動物好きな百華は春から獣医の専門学校へ行く予定だ、将来は獣医さんになりたいらしい。両親を亡くした俺に世話を焼いてくる。うるさい時もあるけど、憎めないのが悔しい。
「年越しの瞬間ジャンプとかするか?」
「やろやろ〜! ねぇねぇ、コーキは何をお願いするの〜?」
あれ?
こーゆー時って新年の抱負とかそんな感じじゃなかったっけ? いや、確かに無病息災だと交通安全だのっねよく考えたら"お願い"だ、まあなんでもいいのか
「えっと、今年こそ外国語が覚えられますように、かな?」
外国のファンタジーとか、翻訳前の本で読んでたらかっこいいじゃん? 宇宙開発の資料とかN○SAの報告とか原文で読めたらかっこいいじゃん? 全然っ英語わかんないけど!!
「ふつー……てか自分で努力して覚えなよっ!」
「くっ……じゃあ百華は?」
「私はね〜宝くじが当たりますように!」
「……へぇー」
「何よ?」
いや、他力本願なのは俺と変わらないじゃん!他にどんな反応をしろと!?
「ユートは?」
「俺はそうだなぁ、怪我や病気をしませんように」
「ふつー」
ふつーだ。
ここに来る前は3人で近くのお店で高校生ながらに寿司を食べながら(もちろん年齢は内緒だ)去年の悠人の下駄箱から溢れたチョコレート事件とか。 書道部の文化祭展示で、創作書道として百華が書いた奇妙な動物事件とか、しょーもない思い出話をしていた。
「あっあと1分だよっ!!」
早いっ、もう時間なのかっ!
そわそわしてる俺と百華に向きなおって悠人が咳払いをした。
「2人とも、今日は来てくれてありがとう。お世話になりました」
「「お世話になりました」」
「来年もよろしくお願いします」
「「よろしくお願いしますっ」」
……
「……時間余った」
「「「――ぷっ、あははっ」」」
そわそわしてる俺が言うのもなんだけど皆んな早いと思ったよ、手に持ったままの携帯を見てもあと30秒もある。
「あははっ、でもあと少しだよっ、カウントダウンで1になったらみんなでジャンプだよっ!」
「おう」
「わかったよ」
ざわざわしている参道の中から他の参拝客が
「15っ!」
15からカウントダウンかよっ! でも盛り上がるよね。
「「「10、9、8……」」」
俺たちも円になって数え始め
「3」
「2!」
「いちっ!」
――"回避成功"
……え?
初めて書く小説です。
読み辛い箇所も多いと思いますが、ご容赦願います。