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第60話

 霊閃と力の波動が激突した。

 その衝撃の凄まじさに僕の身体は吹き飛ばされ地面をゴロゴロと転がった。

 そして瓦礫にぶつかって止まる。


「うっ……」


 頭を強く打って僕は意識を失った。


 *


 ……太郎!


 ……太郎!!


 誰かが僕を呼びかける声がする。


 ……約束したでしょ!!


 ……負けないで!!


 そうだ。僕は約束したんだ。もみじと世界を救うと、涼子とは戦いに必ず勝つって。


 約束したんだ!!


 負けられない。僕は皆んなの想いに応えるためにも、そして僕の正義を全うするためにも絶対に負けられない!!


 *


「うぅっ、ぐぅっ!!」


 無理やり目を覚ました。

 僕の身体は瓦礫に寄りかかるようにして倒れているようだった。幸い手にはまだ忍者刀を握っている。ジンジンと体に響くダメージを無視して立ち上がった。


「……ここは、どこだ?」


 霊閃と力の波動がぶつかった衝撃で僕の身体は相当吹き飛ばされていたらしい。


 見覚えのない場所にいる。

 辺りを見回した。すると僕の目の前に大きなクレーターが存在してることに気づいた。


 その先に殺気を感じる。

 それは僕に向けられた殺気だ。恐らく黒川はもう僕に気づいて戦闘態勢をとっている。


 僕は痛む身体に鞭を打ち、殺気の迸る方向へ走った。


「!?」


 そして辿り着く。

 クレーターの奥、そこには両腕を失い血を流して倒れている黒川がいた。

 黒川が顔だけを動かし僕を睨む。


「お前の勝ちだ、田中太郎」


 言葉とは裏腹に黒川の目からは戦意が消えていなかった。ならばまだ戦えそうなものだが黒川は倒れたまま微動だにもしなかった。


「なぜ、傷を治さない?」


 思わず僕の口から疑問の言葉が出た。黒川の能力ならばその程度の欠損はすぐに治るはずだ。

 すると黒川は僕を睨みつけたまま口を開いた。


「俺はお前との戦いのために能力の全てのリソースを現実改変で戦闘能力につぎ込んだ。もはやメタモルフォーゼも現実改変も俺にはない」


 黒川の言葉は事実のようだった。腕を失った肩から流れ出る血が黒川から生命力を奪っている。次第に黒川の顔が青白くなっていくのが分かった。


「あぁ。俺は、死ぬのか」


 黒川が呟く。その声からは実感がないことが伝わってきた。


「……何か言い残すことはあるか?」


 僕は黒川の様子に若干の哀れさを感じ、聞いた。


「お前……、優しい奴なんだな」


 すると黒川の目から戦意が消えた。


「柊もみじに謝っといてくれるか?」


「わかった」


 黒川の最期の言葉を聞き、僕は片方の刀を背中に収め、もう一方の刀を両手で構えた。


 そして刀の狙いを黒川の首に定める。

 これから黒川にトドメを刺す。これ以上、苦しめる必要もない。


 そして僕は黒川の首目掛けて刀を思いっきり振り下ろした。


 ……。


「怖くはないの?」


 僕の刀は黒川の首、その薄皮一枚で止まっていた。

 黒川の顔はこれから死ぬというのにまるで恐怖の感情を浮かべていなかった。死を拒絶するために生きてきたような男がここまで潔いものなのだろうか。

 そんな考えが僕の刃を鈍らせた。


「最後に俺は本懐を遂げられた。その時点で未練が無くなったことに気づいた。もう悔いはない」


 黒川が穏やかな顔で言う。それは本心であるようだった。


 疑問は解決した。だけど僕は刀を黒川の首に押し込むことが出来なかった。なぜだ? コイツはこれまで非道なことをしてきたのだ。躊躇(ためら)う必要はない筈だ。


「これ以上晩節を汚させるな」


 僕が刀を黒川の首に当てたまま動けないでいると黒川が顔を前に出した。


 刃が首にめり込む。


 そして。


 思いっきり首を横に……。


 ーー夜のT都に鮮血が飛び散った。


 *


 黒川と決着をつけた。

 戦いが終わると身体に装着されていた鎧や忍者刀は役目が終わったことに気づいたかのように、空気に溶けるようにして消えた。きっと、また戦いになれば変身することもあるだろう。


 その後、もみじを迎えに行くためにもみじを寝かせた公園まで行った。すると向かう途中でもみじと合流することが出来た。もみじに声をかけられてドギマギしていると涼子とミチルも僕たちのもとにやってきた。千里眼の力のおかげで合流することが出来たようだ。


「うぅ、太郎ぉ〜〜!!」


 涼子が僕の胸に飛び込んでくる。


「ごめんね。心配かけたね」


 僕はその頭を優しく撫でた。


「あれだけの力を持っているなんて流石は未来のボスだね」


「あはは。ミチル、その話は今はやめようか」


 皆んながいる時にボスって呼ぶのはやめてもらいたいんだけど。


「太郎さん」


 もみじに声をかけられて僕はドキッとした。もみじには告白されているのだ。どんな顔で僕はもみじと話せばいいんだ。今更ながらに顔が熱くなってきた。


「な、何? もみじ」


 さっきの告白の続きだろうか。み、皆んながいるのにそれは恥ずかしい!


「黒川を止めてくれてありがとうございました。私一人じゃ何も出来ませんでした。だから本当にありがとうございました」


 あれ?

 告白じゃないの?


「う、うん。まあ、気にしないで。黒川を倒せてよかったよ。と、ところでさっきのことなんだけどさ」


「さっき?」


 もみじが首を傾ける。

 あれ? もしかしてあの時のことを憶えていない?


「い、いや! やっぱりなんでもない!」


 僕はヘタレて自分から言いだすことをやめた。


「あ、でもいや、そういえば。黒川がもみじに謝るって言ってたよ」


 ふと思い出し、僕は黒川の最期の言葉をもみじに伝える。


「そうですか。黒川が……」


 もみじは何か物思いにふけっているようだった。


 僕は黒川ともみじの関係を良く知らない。でも二人の仲はこれまで悪くはなかったはずだ。当事者同士にしか分からないことだけど、黒川はもみじに酷いことをしたことを後悔していたのかもしれない。僕はそう思った。


 *


 その後、涼子の千里眼と僕の瞬間移動の力でカロウ市まで帰った。皆んなくたくただったからすぐに解散して家に帰ることになった。


 家に帰ると爺ちゃんにこってりとしぼられた。病院を抜け出したことや連絡を入れなかったこと、それ以上に黒川と無茶な戦いをしたことを怒られた。なんでも僕と黒川の戦いはヒーローTVによって全国放送されていたらしい。それを爺ちゃんと婆ちゃんが見ていたようだ。それはかなり心配かけたはずだ。婆ちゃんには泣かれてしまった。やったことは後悔してないけれど反省しなくちゃいけないな。


 忍術を人前で使ったことで爺ちゃんに春休みの間の外出を禁止にされてしまった。当分ヒーロー活動はお預けだ。今はスマートフォンがあるからもみじ達と会話は出来るけれど暇な春休みになってしまったのだった。


 *


 幽界、大宝蔵殿。

 田中臣村重と一つ目小僧、そして多くの妖怪達が銅の宝鏡を囲んでいた。


「今代の神の尖兵は田中太郎だ。皆の衆、異論はないな!」


 村重の言葉に妖怪達はおう、と返事をする。


「神の尖兵ってなんですか?」


 一つ目小僧だけは顔に疑問符を浮かべていた。


 *


 ???


 そこは暗い洞穴の中、しかしメタリックな機器が所狭しと置かれた異様な場所だった。

 そこで古いブラウン管のテレビが映像を映していた。


「……日本のヒーローTVですか?」


 そこには二人の男がいた。一人は研究職のように白いコートを羽織った男。もう一人はテンガロンハットを被った男だ。


「ああ、俺の息子なんだよ」


「なんてこった、化け物の子供は化け物か!」


「ははは。太郎がここまで成長していたとはな」


 テンガロンハットを目深にかぶった男が口の端を上げる。


「こうなってしまえばどの組織も奴を放ってはおくまい。……時は来たようだな」

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