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第58話

「あ、アイツ。良い奴かと思えば頭のおかしい奴だったのだ……」


 戦場の片隅で仮面の女、カオルがカメラ片手に震えていた。そんなカオルの手の中のカメラは田中と黒川の戦いを今も収め続けている。


 カオルが映す映像、それは二人の生の戦いだ。当然、残酷で非常に刺激の悪いシーンも全て映していた。だがヒーローTV局の知る権利を優先する判断によって全てが全国区に放送されていた。


 *


 T都内の避難ドーム。

 そこで涼子とミチルがスマートフォンでヒーローTVの映像を見ている。当然、ボロボロの田中の胸に大穴が空いたところも見ていた。


「た、太郎……」


 涼子が顔の血の気を引かせ、どさりと床に倒れた。


「ボス……」


 ミチルはスマートフォンを持ち画面をしっかりと見ている。だが流石のミチルでも動揺は隠しきれないようで顔を青ざめさせていた。


 *


 公園のベンチで寝かされていたもみじは既に目を覚ましていた。そして音に誘われて田中と黒川の戦いが見える場所まで移動していた。


「太郎さん負けないで……!」


 もみじは田中と黒川の戦いを固唾を飲んで見守っている。

 今のもみじに黒川との戦いの記憶はない。それ故に自分が場に出て行っても足手まといにしかならないと考えていた。


 だからもみじは両手を組んで太郎の勝利を祈り続けた。


 自分の無力を嘆きながら。


 *


 幽界、大宝蔵殿。

 田中臣村重は銅の宝鏡に映る田中と黒川の戦いを見ていた。


「時は来た……」


 そして目を瞑ると重々しく呟く。


「頭領!」


 すると宝蔵殿に一つ目の小僧が息を切らして駆け込んできた。


「日鳥の霊気が消えたか」


 村重が目を開いて言う。


「あっ、そう、そうです! こんなことは初めてで……!」


「落ち着け。問題はないのぉ。とっくに原因は分かっとる」


 村重は鏡から目を離さない。


「ほれ、今から来るぞ。凄いのが」


「?」


 キョトンとした一つ目小僧が村重の後ろから鏡を覗き込んだ。鏡には今にも死にそうな田中の姿が映し出されていた。


 *


 今、黒川は田中に対して奇妙な感情を抱いていた。それは得体の知れないものへの恐怖と死への拒絶に対する、理解。


 俺は怯えているのか? 黒川は困惑する。

 さっきまでは田中のことをただのくだらない若者としか思っていなかった。中途半端な気持ちでヒーロー行為をする愚か者。リスク管理の出来ない馬鹿。そんなくだらない若者に無駄な時間を使ったことをイラついてさえいた。


 だが、今のコイツはなんだ? 全身の肌が弾け肉は断裂し骨は折れ曲がっている。胸には完全に致命傷となる大穴まで開けているのだ。そんな死の淵にいるような男がするような目か? これが……。


「お前が死ねば全て終わるんだよ!」


 黒川は恐怖心に駆られ声を荒げた。


「僕は、死なない……」


 掠れた声。

 田中の血まみれでうつむいた顔、視線は定まっていない。言葉とは逆に田中からは生命力を感じない。だが何故だ? コイツが死ぬと思えなくなってしまっている。奴の目からは消えぬ正義の灯火を感じてしまっている!


「お前は不死じゃないはずだ! お前は一体何なんだ!」


 黒川が顔を引きつらせて一歩、二歩と後ずさる。完全に気圧されていた。

 そんな黒川の前で田中が顔を上げた。そして黒川の言葉に返答するように田中が声を吐き出す。


「僕は……、正義を……」


 だが言い切る前にふらりと体を揺らし田中が前のめりに倒れた。


「……死んだのか?」


 黒川が恐る恐ると言った様子で呟く。


 その時である。


 星ひとつ見えない曇り空が白く光輝いた。そして天空の雲を割って田中に光が差す。


「なんだ!?」


 光に包まれる田中の体が輝いた。いつのまにか血は止まり輝く光が田中の左腕を再構成していた。


「何が起こっているんだ!!」


 黒川が田中に向かって右腕を突き出す。


「さっさと消え失せろ!!」


 そして黒川が右腕を振ると田中を全方位から黒い砲弾が襲いかかった。


 しかし砲弾が田中に当たるよりも早く大きな光が天空から舞い降りてきた。それは三本足の鳥のような形をした光だった。光の鳥が田中の体に吸い込まれるように入っていく。


 その直後、全ての砲弾が同時に田中に着弾した。爆煙が田中を覆い隠す。


 大地を包むような衝撃と音がT都を揺らした。その衝撃は間近にいた黒川が地面に膝をつけ顔を右腕で守らなければいけないほどだった。


 そして爆風が止んだ頃、黒川が腕を下げて爆心地を見た。煙に遮られており田中の姿は見えない。だがあれだけの衝撃だ。もはや肉片すら残るまい。そう黒川は考え落ち着こうとした。


 しかし。


「!?」


 突如、爆心地を中心とした突風が煙を吹き消す。煙が晴れた時、その中心には田中が立っていた。


「その姿は一体……」


 黒川は呆然として呟く。

 田中の姿は様変わりしていた。


 田中の身体中にあった傷や欠損が無くなっている。身体には黒い具足を上下に身につけていた。首元は赤いマフラーのようなものをなびかせており、鎧の右胸には真っ赤な太陽のマークが施されている。しかし特に目を引くのは背中にさしている二刀の忍者刀だ。その刀から尋常ではないプレッシャーを黒川は感じた。


 ゆらりと田中が両手を上げて背中の二刀の柄を掴む。そして言った。


「妖気収束」


 *


 光の鳥が僕の中に入ってきた瞬間、僕は苦痛から解放された。それどころか今、体には力が漲っている。僕は背中の二刀の柄を握った。


「妖気収束」


 そして身体中の妖気を手に集め背中の二刀を引き抜く。その瞬間、僕の体に莫大なオーラが溢れ出た。熱い。しかし不快ではない。この太陽の如きオーラは僕の力だ。そう理屈抜きで理解していた。


「お前は世界の敵だ。黒川」


 二刀を逆手に持ち腰を落とす。


「ぐっ、見た目が変わった程度で俺に勝てると思っているのか!? 身の程を知れ!」


 黒川が指を鳴らす。


 しかし何も起きない。


「ば、馬鹿な! なぜ効かない!? コイツの存在強度が高すぎるのか!?」


「何もしないならこっちから行くぞ」


 僕は全力で踏み込んだ。初速から音速を何段階も超え破壊の跡を撒き散らして進む。その余波だけで黒川は吹き飛ばされた。


「う、うおおおおおおお!!」


 黒川が吹き飛ばされながらも空中で体勢を整え止まる。その目の前で僕が二刀を振りかぶった。


「ぐっ、転移!」


 僕の振った刀は空を切った。後ろを振り返ると黒川が肩で息をしてこちらを睨んでいた。


「僕の力も使えるのか」


 瞬間移動されたら厄介だ。逃げられたら追うのが面倒くさい。


「くそッ! その禍々しい力を感じる刀はなんなんだ!」


「これは妖気を纏った忍者刀。因果を断ち切る不死殺しの刃だ」


 僕は今の自分の力を感覚的に理解していた。さっきまでとは違う、圧倒的なまでの力。これは太陽の力だ。なぜこんなことが起きたのか、それは分からない。でも今は深くは考えない。この力のおかげで僕は正義を全うできる。


「クソがッ!!」


 黒川が右手で指を鳴らした。すると僕の周りを無数の黒川が囲んだ。


「行け!」


 そして一斉に僕へと走り出してきた。


「フゥゥ……」


 僕は大きく息を吐くと二刀を肩まで引く。


「霊閃」


 そして横に振った。

 すると振られた刀から噴き出した巨大で真っ黒な斬撃が黒川達をスッパリと横断した。


「う、お、あ……」


 切られた黒川達が全身をチリにして消え去る。残ったのは尻餅をついて当たらなかった黒川が一人だけ。


「黒川、お前はもう終わりだ」


 僕は右手の忍者刀を黒川に突きつけた。

 黒川が立ち上がる。その顔は羞恥と怒りで真っ赤に染まっていた。


「ここまで来たんだ!! お前如きに俺の野望が潰されてたまるか!!」


「そうか。ならかかってこいよ」


 こうして僕と黒川の戦いは最終局面に入った。

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