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第2話

 そして次の日。結局瞳の色が変わっても目が痛むようなことも無かったので病院には行かずにいた。そのため瞳の色は遺伝によるものだと納得し、今日はどうやって皆んなと仲直りするかを考えていた。


「最初に謝って、でももし無視されたら……」


 嫌な妄想ばかりが頭をよぎる。そもそも悪口を言われて逃げた訳ではないのだから被害妄想に近い話なのだが根が卑屈であるため頭が固くなってしまっていた。


「とにかく会って話さなきゃな……」


 時刻は10時になる頃で、この時間なら皆んなはおそらくリョウマの家に集合しているだろう。

 考えをまとめると、朝食を早々と食べ終え家を飛び出した。


 サンサンと照らす太陽の光を浴びて、僕は茹っていた。飛び出した勇ましさはなく、牛歩のごとく道を進んでいた。


「あー、なんて言って仲直りしよう」


 うだうだと考えながら進む。しかし、無情にも良い考えはなにも思いつかずリョウマの家までたどり着いてしまっていた。


「うーん、ん?」


 リョウマの家の門前から覗くと、昨日のメンバー全員が家の前に集まっていた。


「んん??」


 よく見ると昨日のメンバーだけでなく、僕の知らない子が数人いた。

 そこで人見知りの僕は足が止まってしまった。前にも後にも行けず隠れて聞き耳を立てると皆んなの話し声が聞こえてきた。


「今日も皆んなでスマシスやるかー!」


 ケンタが楽しそうに声をあげた。

 スマシス? あれは一度に四人しか遊べないゲームだ。人数が多すぎてあぶれた子が出てしまうじゃないか。遊びの輪に入れてもいないのにそんな事を疑問に思っているとユウタがその疑問に答えるように言った。


「交代交代ね。負けたら交代だから」


 交代交代! そりゃそうか、そうすれば皆んなでワイワイ遊べる。負ければ観戦しなくちゃいけないからゲームにも力が入るものだ。


「ねえ、なんで田中くん呼んであげないの?」


 ドキッとした。コトが僕の名前を出しからだ。僕はドキドキしながらも聞き耳により集中した。


「あいつツマンネーし、なんか変だからいーよ」


 ケンタが言った。それを聞いてユウタと知らない数人の子達が笑った。

 僕は、頭の中に冷めたい水を流されたかのような気分になった。


「まあ、昨日のアニキは変だったよな。暫くは関わらない方がいいっすよ」


 リョウマも同調するようなことを言ったと理解して、僕はまた逃げた。


 *


 走って走って、倒れた。何もかも嫌だった。でも、特に自分の性格が嫌で泣いた。なんで皆んなと仲良くできないのだろう。


「どうしたの君?」


 話しかけられたことに、暫く気づかなかった。


「聞いてる? 悩みがあるなら聴くよ」


「え?」


 濡れた目を拭って声の方を見ると、赤い髪の女の子がいた。


「何? お前……」


「私か? 私はだな! 正義のヒーロー…。 その名もぉ…、ヴァーズスカーレットだ!!」


 は? 何だこいつ。変だ。そんな風に思いながらも人と会話することで気持ちが落ち着いてきた自分がいた。


「バーム?」


「ゔヴァーズ!」


「バームクーヘンか」


「違う! ヴァーズスカァーレット! ただ今参上!」


 不思議と笑みを浮かべていた。このヘンテコな女の子の様子に気持ちが晴れていた。


「ありがとう、もう大丈夫」


「む? まだ何もしてないのだが……」


 *


「あ、お前、同じクラスのええと、柊さんか?」


「いや、私はヴァーズスカーレット」


「それはもういいから」


 ぼーとしてた思考が落ち着いてきた頃、彼女が自分のクラスメイトであることに気づいた。名前は確か≪柊 もみじ≫だったはず。


 柊さんをじっと見る。ヒーローを自称する割には普通の格好をしている。ポニーテールにした赤髪だけが特徴的だった。黒いカチューシャが良く映えている。ってそんなことはどうでも良いか。


「柊さんはなんでヒーローごっこなんてしてるの?」


「わ、私は…、まあいいです。私はいつも心にヒーローを持っているんです。だから困ってる人がいたら助けます。君が私の中のヒーローを呼んだんですよ。」


 言ってる意味が分からん。まあ、でもある意味助けてもらったのだしヒーローだと認めてもいいのかもしれない。


「そうか、ありがとうヒーロー」


「困ってる人を助けるのは当たり前です!」


 柊さんが僕の顔を見つめてくる。彼女はさっきからずっと眉尻を上げて怒ったような目をしているので少しびびる。その表情が彼女の普通なのだろうか。


「な、なにか?」


「あなた、ええと」


「あ、僕の名前は田中太郎」


「そうですか、田中さん。あなた珍しい瞳の色してますね。……じゃなくて、まだ困ったことがありますよね? だって、私はまだ何もしてないですし、泣いてた理由を知りたいです」


 僕は不思議なことに彼女に友達と仲良くなれないことや自分の性格が嫌なことを話してしまっていた。学校でもまったく喋っていなかった彼女に、デリケートなことを話してしまったことが自分でも不思議だった。


「ふむふむ、なるほどです。あなたは友達と仲違いしてしまっていて仲直りしたいのと自分の性格を良くして皆んなの人気者になりたいんですね?」


「まあ、そんな感じ……」


「それなら私に任せるといいです! ヴァーズスカーレットが君の悩みを綺麗さっぱり解決してあげよう!」


「うーん、なるほど」


 正直不安しかない。

 とはいえ、僕は柊さんと仲良くなれたらいいなと考え始めていたので、一緒に遊ぶような感覚でいたのだった。


「あなたを皆んなに慕われる人格者にするにはやっぱりヒーロー活動が一番だと思います!」


 柊がにっこりと笑って言った。不覚にも少しドキッとした。


「街の悪い奴らを倒すのか?」


「まさか! そんなの中学生でしかない私たちには不可能ですよ。大きな正義を為さずとも小さな平和を守っていけばいいのです」


 つまり、重い荷物を運んでいるお婆さんを助けるような、ちょっとした人助けをするんだよ、と彼女は続けて言い歩き始めた。


「どこ行くんだ?」


「取り敢えず人の多いカロウ町の中心部に行きます」


 僕たちの住む街は三方を山に、一方を海に囲まれている。カロウ街はやや海側の一番栄えてる所だ。街は海に向かった坂が多く景色が良い。坂の上に立つと海の先まで見えるのだ。


「で、着いたけど何をするんだ?」


「手当たり次第人助けしますよ!」


 なんじゃそりゃと思う暇もなく柊が走り出した。


「ちょっ待っ!」


 それからはもうひたすらに町中を駆けずり回った。木に引っかかったバルーンを女の子のために取ってあげたかと思えば、道に迷った外国人の道案内をしたり、バイトにドタキャンされて回らなくなった中華料理屋の手伝いを終えた所で一息ついた。


「はぁ〜、疲れた。もう日も暮れちゃったな」


「お疲れ様です。良いヒーローっぷりでしたよ」


 柊はまるで疲れを感じてないかのようだった。僕は体力には自信があったのでなんだか負けたようで少しショックだった。


「じゃあまた明日だね」


 家に帰ると、疲れがどっと出てきたためすぐにベッドに横たわった。目を瞑っていると色々と今日のことを思い出す。皆んなに変な奴だと思われてたこと、柊さんとヒーロー活動を始めたこと。


 柊さんは……学校のクラスではおとなしい子という印象で、あまりにも今日の柊さんとはイメージが違っていた。ただ可愛い見た目と赤い髪とが相まって学校での知名度は結構高い。女の子とはあまり遊ばない僕でも知っていた程だ。ただヒーローに憧れていたとは知らなかったが。


「明日も、柊さんとヒーロー活動かぁ」


 少しだけ明日が楽しみだった。


 *


 次の日、待ち合わせをして首尾よく二人集まるとまた、ヒーロー活動というていの慈善活動を始めた。


 今は引っ越し作業をたった一人でしていた友達のいない大学生さんを手伝っている。


「いやー、手伝ってくれてありがとう。後でお小遣いあげるよ」


「必要無いです。ヒーロー活動なので」


 そこは貰っとこうよ。タダ働きばっかりで気持ちが萎え始めていたが、この萎える弱い心がダメなんだと奮起する。


「いよおぉし運ぶぞぉぉぉ!」


「おおっ、その調子だよ!」


 僕の勢いにつられてか三人での作業は思いのほか早く終わった。ありがたいことに大学生さんは最後に缶ジュースを奢ってくれた。


 二人でベンチに腰を掛けてジュースを飲む。炭酸が刺激的で美味しい。運動をして汗をかいた時に飲むジュースはいつも以上に美味しく感じた。


「柊さんはさ、将来ヒーローライセンスを取るの?」


「私は、ヒーローライセンスは取れないと思います。でもプロのヒーローじゃなくてもヒーローにはなれると信じてますから」


 この世界にはヒーローがいる。彼らは日々、世界の平和を守るため悪い奴らと戦っている。悪い奴らは本当に悪いので不意打ち狙撃爆破テロなんでもござれでヒーローを殺しにくる。なので普通の人はヒーローにはなれない。ヒーローになれるのは特別な力を持つミュータントの人だけだ。


 ミュータントというのは生まれつき特殊な能力を持つ才能がある人の総称だ。火を操ったり、超人的な体を持っていたり能力は千差万別だが、本当のヒーローになるためにはミュータントでないといけないと一般的に言われている。ヒーローライセンスというのは政府が発行するヒーローの証明みたいなものだ。これがあると社会的にヒーローであると認められる。ヒーローライセンスを持つのは全員ミュータントだそうだ。ちなみに僕はミュータントではない。


「そっかー、柊さんなら一番ヒーローらしいヒーローになれるよ」


「田中君はならないんですか?」


「僕? 僕は……どうだろう」


 ゆっくりとした空気が流れていた。この雰囲気は僕は嫌いじゃないなと思った。


 その時である。


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