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第12話

 眼が覚めると見知らぬ天井があった。起き上がり周りを見回す。そこはどこかの座敷だった。枕元には灯籠が置かれており、隣の布団でもみじが寝かされていた。

 襖を開けて外に出ると夜だった。星空が明るい。そしてそこには驚くべき物があった。


「な、なんじゃこりゃあ!?」


 地球が浮かんでいた。青と緑の星がまるで夜空の月のように浮かんでいたのだ。


「おう、もう起きたのか」


 驚愕する僕に横から声がかけられた。


「だ、誰だ?」


 声の方を向く。和装で壮年の大柄の男がいた。腰には木鞘の刀を差している。髪は白髪のちょんまげで時代錯誤な格好だった。しかし何よりも僕が気を向けざる得なかったのはその男からは強い武の威風を感じたからである。恐らく超能力抜きの戦いでは僕よりも強い。立ち振る舞いに隙がなかった。


「そう身構えるな。お前たちを夕影の世界から救ったのはワシだ。敵ではない」


 その言葉に武の意識を解く。


「助けてくださりありがとうございました。ここは、どこなんですか?」


「フム、聞きたいことは数あろうが、まあついて来なさい」


 そういって男は踵を返して縁側を歩き出した。

 僕もそれをついていく。もみじを置いていくことに不安があったが、そもそもこの僕より大幅に強いであろう男が僕らに何かしようとすれば防ぐ術はないのだ。黙ってついていくことにした。


「ここだ」


「えっ……!」


 通された部屋では宴会が行われていた。ただの宴会ではない。妖怪の宴会である。一つ目の大男や首の長い女、身体中に毛が生えた小男など尋常でない存在たちが大勢集まって騒いでいた。


「なに、取って食いはしない。ここに座れ」


 そういうと男は僕を空いた席に座らせた。


「皆の衆!」


 男が大声を上げた。僕はそのうるさすぎる大音響に耳を塞ぐ。


「今宵は現世から百余年ぶりのお客人だ! 盛大に持て成そうじゃないか! さあ、騒いでくれ!!」


 妖怪たちがおおっと言って飲めや騒げやとこれまで以上に騒ぎ始めた。


「さて、お客人。名前は?」


「あ、僕の名前は田中太郎です」


「ふむ、太郎か。奇遇だな。私も名を田中臣村重(たなかのおみむらしげ)と言う。臣と呼ぶとよい」


 おみさんか。


「質問してもいいですか?」


「聞きたいことは多かろう。いくらでも聞くがよい」


「ここはどこですか?」


「ここか。ここは幽界。現世の裏の世界だ。死者たちの世界の中でもはぐれものの世界だがね」


「し、死者の世界!?」


 僕たちは死んじゃったのか!?


「心配せんでもよい。ここは死者の世界だがお前たちは生きておる。いずれ元の世界に返してやろう」


 僕はほっとした。良かった元の生活に戻れるのか。


「なぜ僕らはここにいるのですか?」


「それについてはよく分からん。何故かお前たちが夕影の世界にいたからこっちの世界に避難させたのだ」


「夕影の世界とはなんでしょう」


「あれか。夕影の世界は……神の世界だ。たまに現世から落ちる者がいる。そういったものは神隠しにあったと昔は言っていた」


 神隠し……。ぼくらはそれにあってしまったのか。


「夕影の世界には影の化け物がいました。あれは一体?」


「あの影たちは過去の神隠しの被害者たちだ。あの世界の影に食われて己も影に堕ちてしまった悲しい存在だ。ん? どうした箸が止まっているぞ?」


 僕は恐ろしい想像をしていた。もしかして高峰の弟もあの世界に落ちしまったのでは……。だとしたら今頃……。


「僕の前に夕影の世界から救った人はいますか?」


「おお、それならばおるぞ。別室でよく寝ておる」


「それは四歳ぐらいの男の子ですか?」


「そうだ。後で現世に返そうと思っておったがお前たちと一緒に戻すのが都合が良いだろう」


 良かった。高峰の弟はすでに幽世に避難していたんだな。これで僕らが戻れば一件落着だ。


「他に聞きたいことはないのか? お主は百余年ぶりに幽世でも意識を保てる人間だ。ワシらも色々と話がしたくてのぉ」


 なんだかおみさんはお茶目な人だな。


「ではなぜもみじは夕影の世界で虚ろな状態になってしまったのでしょう?」


「あの世界は神の世界だ。普通の人間は強すぎる世界からのプレッシャーで意識の位階が落ちる。これは生き物の防衛本能のようなものだ。だが稀にそうしなくとも平気な人間がいる。それがお前だ」


 なるほどな。僕は大体の疑問が晴れたので食事に集中した。そういやヨモツヘグイになるのかなコレ。


「おおい、もう聞きたいことはないのか?」


 その後、僕は妖怪たちに混じって騒いだ。僕の超能力を用いたマジックは場をおおいに沸かせた。そして騒ぎ疲れた僕は次の日まで妖怪達と床で倒れるように眠った。


 次の日、天気は夜である。どうやらここは常に夜であるらしい。僕はなんとなく現実ではここは月の位置にあるのではないかと思った。


「助けてくださりありがとうございました」


 僕たちはあの神社の中にあったものと似ている鏡の前にいた。ここは僕たちが寝ていた家屋とは別の家である。隣には意識の虚ろなもみじと高峰弟がいる


「うむ、お主も達者でな」


 僕はおみさんと握手をした。この人が助けてくれなければ僕たちは夕影の世界で影達の仲間となっていただろう。感謝してもしきれない。


「では現世に送る」


 おみさんが鏡を手に取る。そして右手で手印を作ると呪文のようなものを念じ始めた。僕はそれを聞いて驚いた。なんと僕の家の忍術の巻物にあった謎の呪文と一致しているのだ。


「おみさん、貴方は一体」


「さらばだ太郎!」


 鏡が光り輝く。

 僕たちの体がおみさんの手に持つ鏡に吸い込まれた。寸前で聞きたいことが出来てしまったがその答えを得ることは出来なかった。そして僕の意識は闇に落ちた。


「頭領、良いんですか? 太郎は貴方の子孫でしょう?」


「なに、また会える」


 *


 気がつくと僕たちはあの神社の拝殿の前にいた。


「今何日だ!?」


 スマートフォンで日にちと時刻を確認する。驚いたことに高峰弟を探すためにこの公園に着いたときから1時間しか経っていなかった。幽世の世界は時空がねじ曲がっていたのだろう。そう納得した。


「んん? あれ?」


「ここどこぉー?」


 少しして二人の目が覚めた。


「あれー?」


 僕も二人を真似して今目が覚めたふりをする。二人には幽世のことを話すつもりはない。言ってもきっと信じられないだろう。僕だって実際に体験しなければ信じない。


「あ、太郎さん。ええと、ここは公園の神社ですね。立って寝てたのかな。あれ? 貴方は高峰さんの弟くんではないですか?」


「お姉さん僕のこと知ってるのー?」


「皆んなが貴方のことを探していますよ。さあ、お母さんのとこに戻りましょう。太郎さんも、帰りましょう」


「そうだね」


 僕はもみじに向かってそう言った。そしてあの不気味な世界からやっと帰ってこれたんだということを実感したのだった。


 神社の階段を降りると高峰と涼子がいた。二人とも僕らのことを探していたらしい。


「もうっ! 二人まで居なくなったと思ったわよ! ってあれ? その子はまさか高峰の弟!?」


「トオル!!」


 高峰は真っ赤な目で高峰弟に抱きついた。


「兄ちゃん苦しい」


「ばっかお前、皆んな心配してたんだぞ。本当に無事でよかった……」


「兄ちゃん……」


 高峰の感極まった声に釣られたのか高峰弟が泣き出した。そして高峰の兄弟は二人抱き合って泣いた。


「一件落着みたいね。アタシ何もしてないからちょっと拍子抜けだけど」


「私も何もしてません。気づいたら近くにいたんです」


「本当に不思議だなー、気づいたら居たもんなー」


 その後、高峰からは滅茶苦茶感謝されたし高峰家の両親からは礼金を渡すという話もあったがもみじが断った。ヒーロー活動は無私の活動だとのこと。もちろん涼子と僕はとても惜しく思った。とはいえ高峰はその後僕たちにお菓子の詰め合わせを持って来てくれた。

 こうして僕らの初めての依頼は終わったのだった。


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