第10話
そんなこんなでヒーロー部(同好会)が成立して一週間。僕らはなんの波乱もなく部活動を行なっていた。幸運なことにその間涼子への嫌がらせもなく平穏な毎日を送っていた。根が深い問題だと思ってただけに拍子抜けだが良いことだろう。僕個人は部活動がない間、ヒーローニューウィンドとして活動して町の平和を守っていた。まあ、強盗のようなヒーローの出動が必要な事件なんて起こらなかったのだけど。平和が一番だね。
「再来週から体育祭だけど皆んなは何に出るの?」
放課後僕らヒーロー部の三人は僕たちのクラス、(ちなみに1年2組だ。涼子は1年1組である。)で談笑していた。
この一週間、共に学校生活を送ることで僕らは仲良く会話するほど仲が良くなったのだ。もみじはもともと他の女子生徒と仲良くしていたがヒーロー部の創設騒動の時に愛想を尽かされてしまったらしい。涼子は孤立している。そのため僕らは三人で集まることが多い。そういう事情があった。
「アタシはあまり運動が得意じゃないから団体戦の綱引きと組体操に出るわ」
意外だ。ヒーロー部ではあんなにアクティブなのに。まあ運動が得意なようには見えない見た目だとも思うけど。
「田中さんは知っているかもしれないですけど私はリレーと障害物競走です。走るの得意なんですよ」
柊さんはいつも走ってるイメージだしピッタリの種目だな。
「僕は障害物競走と綱引きに出るよ」
個人競技はあからさまに身体能力が出るものは爺ちゃんに禁止されている。田中家特有の忍びの力を隠すためだが息苦しいものだ。超能力なら使っても良いのかというとそうではない。日本全国にミュータントは2万にほどいるらしい。大体1万人に一人がミュータントなのだから日本中にそこそこいるようだ。そうなると学校に通うミュータントというのも出てくる。そこでどこの学校も校則で校内での超能力の使用を禁止するようになっている。そもそも公共の場での緊急時以外の超能力の行使は禁止されているが、校則で明確に禁止がされている形だ。とはいえ子供なんて決まりは破るものと思っているので、ほいほい使う不良ミュータントも多いようだが酷い使い方をすると退学させられる事例もあるようだ。ちなみにミュータントは出生児に遺伝子診断される。僕は自分がミュータントだという話なんて聞いたことがないし、学校にも自分がミュータントだとは申告していない。でも実際に超能力が使えているのでこれは何かの法律を破っているのではないかと恐々としている毎日だ。出来ることなら暫くは隠していたい。この前のテロ事件で僕は派手に暴れすぎたから尻尾は出したくないのだ。
「へえ、アンタあんなに運動神経良いのにリレーに出ないんだ。意外ね」
「実は運動は好きじゃないんだ。僕はもみじを応援するよ」
「そうね。頑張ってねもみじ」
「あ、ありがとうございます……。私、実はあまり目立つことしたことないので、ちょっと緊張しちゃいます」
「きっと上手くいくわよ! 私が保証するわ!」
なんの保証だ?
「はい! 頑張ります」
柊さんがいつも眉尻を上げている眉をさらにキュッと寄せて決意を新たにしていた。
「ではそろそろヒーロー部の活動を始めましょう。実績を積まないとですから!」
その日も三人でカロウ町のヒーロー活動を開始することになった。
ワイワイと賑やかに教室の扉を開ける。
「うわっと」
扉の先に誰かがいた。思わずぶつかって尻餅をついてしまった。
「二人とも大丈夫ですか?」
「大丈夫……」
「アンタ誰よ」
涼子が扉の先にいた相手を睨む。
「睨まない睨まない、そういう敵を作ることはしちゃダメだって」
涼子を後ろに下げて相対する。
「で、君は?」
「お、俺はお前らに依頼があって来たんだ」
「ヒーロー部への依頼ですか?」
もみじ達が横からひょっこりと顔を出す。
「そうだ、その為に俺は来たんだ」
「勿体ぶらずに早く言いなさいよ」
涼子が威圧する。だからそれやめろって。
「弟が、居なくなったんだ。今警察も捜索してくれてる。ヒーロー部にも捜索の協力を頼みたい。頼む……、まったく手がかりがないんだ。藁にもすがる状況なんだよ」
「失踪者の捜索ですか。任せてください! きっと私達ヒーロー部がアナタ方家族のもとに弟さんを戻してみせます!」
そういってもみじは両手の拳を握った。
「警察にも見つけられてないんじゃ僕たちでどうにかなるかは微妙だと思うけど、まあやってみるよ」
「ありがとう! 弟の情報を君たちに渡す。ポスターも作ってあるんだ。これを見てくれ」
そう言うと彼は手に持った鞄からA4サイズの紙を取り出して僕に渡した。
「だいたい幼稚園児ぐらいかしら? 中々可愛らしい顔してるじゃない!」
紙には一人の男の幼児の顔写真と体長や失踪時の服装などの情報が書いてあった。
「カロウ町2-3の自宅で失踪。朝母親が起きると隣で寝てた筈の高峰トオル君が居なくなってた。家中を探すも見つからず捜索願を出した……か。なんだか不思議な話だなぁ」
「というかアンタ高峰っていうのね。まだ名前を聞いてないんだけど」
「あ、すまん。俺の名前は高峰カイト。お前らと同じ1年で三組に所属している。よろしく頼む」
「僕は田中太郎だ」
「私は柊もみじです」
「アタシは佐伯涼子よ」
「貴方のお家に行っても良いですか? 失踪した場所の状況が知りたいので」
「今家には警察が居てちょっと厳しいから明日の放課後来てもらえるか?」
「分かりました。では今日はトオル君についてもっと詳しく話し合いましょう。情報の共有をした後、捜索を開始します」
「ああ分かった。俺はやることも無いし、とことんヒーロー部に付き合うぜ。トオルのことよろしく頼む。見つけてくれ」
「こちらこそよろしく」
それから僕たちは高峰弟や高峰家について話し合った。高峰弟の好きな場所などは有益な情報となるだろう。高峰弟のいる可能性の高い場所に目安を付けていく。
「じゃあ、一番居そうな場所から回りましょう!」
涼子が言う。それが僕たちの方針となった。
「一応そこらも俺ら家族が探したが、もしかしたらヒーロー部なら何か別の視点があるかもしれねえ。ぜひ来てくれ」
というわけで学校を出る。
「なんだかこういう活動って探偵みたいでワクワクするわねっ」
涼子が小声で僕に囁く。
「遊びか! 高峰君は必死なんだぞ! 真面目にやれよ」
「何よ。怒らないでよ」
全然反省してない……。
これからの捜索に不安が増す僕だった。