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第1話

『世界の偉大なヒーロー列伝。記念すべき第一回となる今回は輝く太陽のマスクでご存知、世界最強ヒーロー≪サンライト≫をご紹介。燃えるような赤い髪に一目でわかるイカした覆面を付けた正体不明の男、それがサンライト! 彼はおよそ20年ほど前から正義のために戦い続けるナイスガイだ! 彼の戦法は単純明快、その体に宿った神懸かり的なパワーで立ちはだかる悪を一網打尽。そんなサンライトが一年の内に執行した正義はなんと1000件以上! ブラック企業も真っ青なパワープレイが彼の持ち味だ!』


「ひょえー、カッケー!」


 学校の休み時間、こっそりスマホの動画を見る僕の口から思わず声が出た。僕の周りにいる友達五人も同様だった。世界のため戦い続けるヒーローは幼い頃からの憧れだ。しかし馬鹿な中学生に過ぎない僕たちにはあまりにも遠すぎる憧れだった。

 しかし、それよりも僕には目の前の大切な目標があった。


「あ〜、皆んなは夏休み……」


「喰らえ! サンライズキック!」


「痛ぇ! やりやがったな!」


 一人がふざけて、そのままヒーローごっこが始まった。それで休み時間が潰れて最後の授業が始まり、そして学校が終わった。


「じゃーなー、田中。夏休み中にも遊ぼうなー」


「おう! またなー!」


 佐藤が友達数人と共に教室を出て行った。今日は終業式だった。明日から中学一年の夏休みが始まる。

 しかし、僕はついに夏休みに具体的なスケジュールを作れなかった。誰ともだ。どうせ口約束の遊ぼうという話は忘れられてしまうというのに。

 皆んな部活で忙しいから仕方ない。でもこんなことでは、いつまで経っても地味野郎のまんまだ。


 僕は自分の臆病で流されやすい性格がキライだ。本当は皆んなにチヤホヤされるクラスの人気者になりたいのだ。でも、どうしても自分の思いをハッキリと他人に伝えることが出来なかった。その度に自己嫌悪する。


 下校路、たった一人で歩くことが寂しかった。

 僕の住む街は日本海に面する港湾と山々に四方を囲まれている。港側は人の流れも活発で栄えているけれど僕が住む山側は田んぼや畑ばかりで正直かなり田舎だ。だから仲の良いクラスメイトはみな港側に住んでいて一緒に帰ることはなかった。

 でも本当はそんなことは言い訳で、こっち方面に住んでいる子と仲良くなれれば良いなんてことは分かっていた。


 次の日、僕は家の裏手にある小山の麓にいた。


「えー、点呼!」


「はい、1!」


「2ぃ」


「さーん」


「5…、4?」


「よし、全員いるな!」


 僕の前には小学生4人が横一列になって並んでいた。この子達は近所に住んでいる幼馴染の間柄で、昔からよく一緒に遊んでいる。

 だからこうして友達が少なく暇してる僕を遊びの仲間に入れてくれるのだ。ちなみに一緒に遊ぶときはいつもリーダー役を任される。


 さっきまで僕たちはこの立ち入っても迷子にならない安全な小山で昆虫採集をしていた。本当はもっと山の奥の方が沢山いるのだが、一度全員で遭難し迷子騒ぎになったことがあるので自粛中である。


「リーダー! 俺オオクワガタを見つけた!」


「まじかよ!……んん? 小さくすぎないコレ」


「リーダー、リョウマはコクワガタをオオクワガタと言い張ってます」


 オオクワガタ詐欺を行った少年はリョウマという。今年六年生であり僕の次に年長なので普段は彼がリーダーをしているようだ。彼はなぜか僕をとても慕ってくれており、積極的にリーダー扱いしてくる。


 ケンタの罪を暴いた少女の名はコト。彼女も小学六年生だ。このグループの残り二人のお姉さんである。


 後の二人の名前はケンタとユウタ、双子の小学三年生だ。ケンタは元気一杯のわんぱく坊主である。元気すぎてすぐに怪我して泣くので見ててハラハラする男である。ユウタはいつもぼーっとしている。が、目を離すとどっかに行ってしまうので見てないとハラハラする男である。


「ユウタとケンタは何か見つけたか?」


「カブトムシ見つけた」


 ケンタが被っていた麦わら帽子を裏返し僕に渡す。中にはオスのカブトムシが入っていた。


「おー、すげえじゃんか」


「へへへ……」


「ユウタは……、あれユウタどこに行った?」


 まずいぞ。リョウマとコトはまだ言い争っているし、誰もユウタを見ていなかったのか。


「おーい! ユウタぁ! ……あっ、ユウタ日陰で本読んどる」


 まあ、いいか。自由な性格がユウタの持ち味なのだ。


 その後、俺たちは近所の駄菓子屋に向かった。地元の駄菓子屋のおっちゃんは捕まえたカブトムシを一匹30円で買い取ってくれる。そして、儲けたお金でお菓子やジュースを買った。店の裏には箱詰めされた沢山のカブトムシ達がいる。彼らは一体どこへ行くのだろうか。


 まあ、そんなことはどうでも良いな。俺らは現代の奴隷商人だ。


 ジリジリと真夏の太陽が地面を焼く。アイスを舐めながら僕は皆んなを見渡した。


「よーし、じゃあ昼飯食べたらケンタの家に集合。午後からはザリガニ捕りするからバケツ持ってくるようにな!」


 田んぼ横の側溝や川で水遊びだ。きっと涼しくなれるだろう。


「えー、また外で遊ぶのー?」


「!!?」


 ユウタが不満げな声をあげた。


「ユウタは家で遊ぶ方が好きか?」


「そりゃそうだよ。ニンニンドーズイッチやりたいよ」


「コラ、ユウタ。ズイッチは4人までしか遊べないから田中君が居る時は出来ないって皆んなで話してたでしょっ!」


「!!?」


 叱られたのはユウタだ。しかし、僕はコトの言葉で心を強く揺さぶられた。もしかして、僕は邪魔だったのか……?


「えー、でも俺もズイッチやりたい。スマシスやりたいー」


「大丈夫っすよアニキ。交代で遊べば良いっす」


 既に俺を除いた3/4が室内ゲームで遊びたい方に心が傾いているらしい。ちなみにスマシスとはニンニンドー社の有名な格闘ゲームのことである。四人で遊ぶことができ、パーティゲームとしては定番だ。


「いや、僕は今日はもう帰る……。捕まえた虫、標本にしなくちゃいけないし」


「あっ、ちょっ、アニキ!?」


 俺は皆んなに背を向けて駆け出した。どこにも居場所がないような気がして胸が痛かったからだ。


 あぜ道には溶けたアイスだけが残されていた。


 *


「ただいま……」


 木のボロい引き戸を開けて家に入った。

 靴を脱ぎ捨て洗面所に向かう。洗面所の鏡に映る自分は情けない顔をしていた。目がぼやけそれも見えなくなる。なぜ、逃げたのだろう。後悔していた。別に僕が嫌われてるわけじゃないのだから、皆んなに合わせて遊べば良かったのだ。


 ……いや、そうじゃない。変に気をつかわれていたことが悲しかったのだ。僕は彼らを気の許せる仲間だと思っていたのに。


 水道水で顔の涙を洗い流す。

 涙を流したことで少し気分がさっぱりした。明日、皆んなに謝ろう。そして、今度こそは気の知れた仲間になるのだ。鏡の前で笑顔を作る。無理やりでもポジティブになれれば良い。


「ん?」


 鏡に映る自分に違和感があった。涙で腫れた瞼の下にある瞳。僕の瞳は普段は薄い茶色である。しかし、涙に濡れたそれは真っ黄色だった。まるで涙で色を落としてしまったかのように変化していた。


「病気?」


 鏡の中で顔が青褪めた。急な体の異常は病気の危険信号である。鼓動が速まり、吐き気がしてきた。


「おじ、おじいちゃぁぁぁぁん!!」


 僕は急いで家の隣にある畑で農作業をしていた爺ちゃんのもとに駆け込んだ。


「目が、目が変になった! これ大丈夫!?」


 僕の祖父は昔から地元で農家をしていたので、病気かどうかも判断出来る訳もない。しかし、この時の僕は相当焦っていたらしい。必死で爺ちゃんに瞳を見せていた。


「んー? なんか変なんか?」


「色が! 黄色になった!!」


 爺ちゃんはまた、ん〜?と唸り言った。


「そういや、太郎のおっかさんも瞳が黄色だったもんで琥珀色の瞳が綺麗だねって皆んなに言われとったのぉ……」


「お母さんも?」


 僕の両親は海外で仕事をしている。だから僕の家は僕と祖父、そして祖母の三人で暮らしている。祖父母はあまり両親のことについて話さないので、母の話が出てきたことに少し驚いた。


「そうじゃ。だから母親の遺伝だのぉそれは」


 突然色が変わったことに対する答えではなかったが僕の中で少なからず納得できたこともあり、僕は落ち着いた。


「お母さんは爺ちゃんから見てどんな人だったの?」


「んん、それはまた今度にな……」


 そう言って爺ちゃんは逃げるように自分の部屋に引っ込んでしまった。いつもそうだ。爺ちゃんは両親のことになると避けるような態度をとる。やはり父の仕事が原因なのだろうか。僕の父は社会的に悪とされる仕事をしているのだ。僕の心は暗く沈んだ。


 そのまま自分の部屋に戻る。そしてベッドにダイブした。


「なんなんだろこの目」


 寝っ転がりながらスマートフォンのカメラ機能で目を観察する。


「あっ、でもちょっとイケメンになったかも」


 珍しい瞳の色になったことで顔の印象が明るくなったことはラッキーだと思った。


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