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100年後だけれど、まだ乙女ゲームの真っ最中!?  作者: 鶯埜 餡
アルドルノフ事変、という名の戦争

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18/52

光り輝く過去

 そして、昼下がりに自室に戻ったアンジェリーナは皇妃から遣わされた女官たちに頭のてっぺんから足元まで磨かれた。

 女官たちによる着付けの完了するころには、日が落ちかけていた。

 全体的に水色だが、裾の方が濃くなっていくグラデーションになっているドレスであった。

「さあ、これで完璧ですわ」

 最後に胸元を飾るネックレスの金具を留められて、にっこりと言われた。アンジェリーナは姿見に映った自分を見て、さすがは皇妃の持ち物(・・・)だ、と感心してしまった。

(まあ、もとはアンジェリーナ自身が綺麗だから、なんだけれどね)

 女官たちの言葉に感心しながらも、多分、前世での自分だったら、どんなに綺麗に着飾っても言われることはないだろう、と心の中で冷静に感じていた。



 やがて時間になり、エミリオが迎えに来た。彼の服もかなり生地が良く、たった一晩で仕上げたものではないことが見て取れた。

「うん。やっぱりきれいだね」

 出迎えた彼は近づいたアンジェリーナの腰をいきなり引き寄せた。彼女は彼のいきなりの行動に驚き、顔を真っ赤にさせた。

「皇妃殿下のものだけあって質もいいから、子猫ちゃんを余計綺麗に見せているね」

 耳元でそうささやくので、アンジェリーナとしては突き放したかったが、そうできなかった。

「あ、ありがとう」

 その言葉を返すのが精いっぱいだった。

「いいんだ。子猫ちゃんが綺麗だからこのまま夜会になんて参加したくないな」

 エミリオは冗談かどうかが分からないことを言ったが、後ろから咳払いが聞こえ、エミリオはパッとアンジェリーナを離した。

「お時間ですよ、エミリオ様」

 後ろにいたのはどうやらニコラスだった。護衛騎士としている彼ともう一人の騎士、ロレンソもこの夜会には護衛騎士としてではなく、一参加者としているらしい。

「はいはい。ニコラス君、君は空気を読めない男って言われたことはないのかい?」

 エミリオは邪魔されたことに対してかなり不満に思ったみたいだった。一方のニコラスは涼しい顔をして、

「そうですね。言われたことはありませんよ。今だって空気を読んだんじゃありませんか」

 と答えた。

「そうだったのか。だったら、もう少し静かにしておいてくれてもよかったじゃないのかな」

「時間に遅れるのは国賓としてどうかと思いますよ」

 二人のやり取りに、アンジェリーナは落ち着きを取り戻した。

「まあ、そろそろ皇帝陛下もお待ちですし行きましょう」

 アンジェリーナはエミリオの方に手を差し出した。エミリオはその手を取り、

「ええ、そうですね。行きましょう、子猫ちゃん」

 と、言いながらウィンクした。

「よろしくてよ」

 アンジェリーナとエミリオ、ニコラスとロレンソは会場へ向かった。正式な夜会ではないためか、名前を呼ばれてからの入場、というわけではなく、各々が勝手に入場していた。

「遅かったな」

 アンジェリーナたちが会場に入った時にはすでにゲオルグ皇太子も入場しており、皇帝が座るだろう席の近くにいた。しかし、アンジェリーナたちが入ってきた途端、彼女たちの方へ来て、声を掛けてきた。そのため、周りにいた貴族たちは最初、アンジェリーナたちが何者かわからなく、冷めた視線を向けていたが、皇太子が声を掛けた瞬間に、『皇太子が声を掛けるものは一体、何者なんだ』という好奇な視線を向けてきた。

「この度はご招待ありがとうございます」

 アンジェリーナとエミリオは彼に向かって挨拶をした。

「いや、構わない。せっかくここまで来てもらったんだ。楽しんでいってほしい」

 ゲオルグは少し恥ずかしそうに言った。

「アンジェリーナ殿、あなたに後で、また声を掛ける」

 と言って、元の席へ戻っていった。



 やがて、時間になり、会が始まった。

 最初の曲は皇帝と皇妃のダンスであり、二曲目以降はほかの参加者たちもパートナーを見つけてダンスを開始した。アンジェリーナもエミリオと踊った。

「やっぱり子猫ちゃんは踊りが上手だな」

 アンジェリーナは久しぶりの夜会であり、少し緊張しているというのに、エミリオはそれを感じさせなく、むしろ、踊っている間に喋ることができる余裕があるんだな、と思った。

「ありがとうございます」

 彼女はそれだけを言って、ダンスに集中しようとした。しかし、やっぱりここが異国の地であるということ以上に、自分たちの関係性(・・・)がただの高位貴族同士というだけではないことが、彼女に緊張を走らせていた。


「力を抜いて、キュシー(・・・・)


 エミリオの言葉に、アンジェリーナは思い出した。否、思い出さざるを得なかった、あの時(・・・)のように。

「ええ、分かったわ、エミリオ」

 アンジェリーナはエミリオに対して、『様』つけずに呼んだ。その呼び名で、エミリオはそれが正解、というようににやりと笑った。


 アンジェリーナとエミリオは幼い時、本当の兄妹のようだった。現在の王族と対立している公爵家の一人息子と今の王族に従っている侯爵家の一人娘。そんな二人だったが、なぜか、昔はそんな実家の関係なんてお構いなしに近くの森でよく遊んでいた記憶がある。

『君はラナンキュラスの花のようだ』

 一歳しか違わないのに、大人びたことを言う少年。アンジェリーナは彼にときめくことはなく、不思議な人物だ、としか思わなかった。アンジェリーナは侯爵家の一人娘として、恥ずかしくないような立ち振る舞いしかできなかったので、いつも少年が楽しそうに動き回るのを彼女はそばから見ているのが楽しみだった。

 もちろん、幸せで不思議な日々はそう長くは続かなかった。

 ある日を境に彼は、近くの森に来なくなった。アンジェリーナもまた、本格的な淑女教育が始まったのもあり、森に遊びに行くのは少なくなった。

 デビュタントした後の夜会でも、ごくまれに彼と会うことはあっても、話すことはなくなっていた―――――すでに、記憶の中から彼の存在が消されていた。

 たとえ、彼が自分(アンジェリーナ)のことを目で追っていたとしても。



「ありがとう、エミリオ」

 曲が終わった時、自然と口からその言葉が出た。

「もちろんさ。また、いつでも踊らせてね」

 彼はにこやかに言った。だが、そんな機会はよっぽど遠くに行かねばできないだろう。ここでさえも少し危険な綱渡りだ。だが、そんな事実とは裏腹に、

「ええ、よろしく」

 アンジェリーナもそれを本気で望んだ。

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