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第4話「死体処理-その2」

 夜中の3時半。僕は車を走らせていた。


Xデイ−X is the day−第4話「死体処理-その2」


 バラバラにしてゴミとして出してしまうか…硫酸で溶かしてしまうか。はっきり言って手間を考えるとそんなことができるとは到底思えず、他に良策の思い浮かばなかった僕はトランクに死体を積んだまま隣県の森林を目指すことにした。

 そもそも、公訴時効が成立するには犯行の存在を警察等が認識する必要がある。10年後や20年後に殺人が発覚してから15年、ということではてんで話にならない。ならばと初めから完全に殺人の存在を隠し通すことも考えたが、僕はそれでは駄目だった。そもそも犯行を完全に隠し切るなんてことは容易なことではないし、何より15年逃げ通した犯人の末路を世間に公表し、母と妹の無念を晴らす必要がある。加えて目には目をの言葉通り、僕自身15年もの年月を逃げ通すことで犯人に対する復讐を果たしたいという感情もあった。僕の岡本に対する復讐は、まだ終わりを見ていなかったのだ。

 つまり僕がとるべき行動とは、僕に繋がる証拠を全て消し去った上で岡本が殺人事件の被害者になったことを警察に認識させ、そこから15年間逃げ切ることだった。もっとも、僕がこういう結論に辿り着いた理由の1つには、死ぬまで警察の手を恐れながら生きるなど冗談ではないという思いもあった。15年なら15年、きっちりと逃げ切って全てを終わらせる気でいた。

 すなわち、森林を目指しているというのは死体を埋めることが目的ではなく、森林に死体を放棄することが目的である。

 約2時間後、僕は森林に到着した。そこはキノコ狩りなどで日中は割と人が多く、死体も発見されやすいであろうことから選んだ場所だった。入り口付近に車を停め、ビニールシートの塊を抱えて歩き出す。髪の毛などが落ちないように被った黒いニット帽、指紋を残さないようにはめた手袋があたりの暗闇に溶けてゆく。

 数十分ほど歩いたであろうか。木の密集した中に少し空間を見つけ、そこに死体を置くことにした。あくまで、死体を隠す訳ではなく第三者に発見されることが大事だったからだ。ビニールシートをめくり死体を確認し、そこに乱暴に放棄した。

 「ふ…」

 ビニールシートを丸め、再び来た道を戻ろうとしたその時だった。

 ガサガサッ

 「!!?」

 心臓が破裂するかと思った。風などではなく、近くに確かに何かがいた。

 (何…!? こんな時間に……何だ…!?)

 その音の主は確かにこちらに近づいてきていた。胸が締め付けられるほど鼓動が激しくなり、どっと汗が噴き出す。

 「…………!!」

 その主が木陰から姿を現した。それは、兎や熊などの森の動物ではなくれっきとした、人間だった。顔中に無造作に髭を生やしたその顔が、暗闇の中ではっきりと僕の目に映る。

 見られた――!? 鼓動は更に激しさを増し、僕はその時指先一つ動かすことができなかった。男は伏し目がちにこちらを見ている。

 なんだ!? 何者!? バレた!? 死体は!? 見られた!? なんで!? なにしてる!?

 ぴくりともしない僕の体とは裏腹に、頭の中では考えがまとまらず暴走していた。

 「くっ…」

 必死の思いで少し後ろに下がった。それはただ単に男と距離を置きたいという意思の表れであり、他の何物でもなかった。顔中に汗がしたたる。首筋から流れてくる汗が気持ち悪い。そんな僕の様子を眺めながら、初めて男が口を開いた。


 「あの……殺してくれませんか? ぼく……」


 一瞬、時が止まった気がした。

 「はっ、ははっ……」

 僕は顔をひきつらせたまま笑った。しかしそれは当たり前と言えば当たり前の反応だ。初対面の人間に対していきなり殺してくれだなんて、冗談としか思えない。

 男は相変わらず伏し目がちに僕を見ている。

 「ぼく、今日ここには自殺しにきていたんですけどね…」

 自殺!! 僕はばかだ。そんな可能性にも頭が回っていなかったなんて――!

 「最初は、後のことなんて考えずに自殺に踏み切ろうとしていたんですけど…、死ぬ直前やっぱり気になるといえば気になるんですよ。家族のことが」

 こいつ、家族を残して自殺しようとしているのか。どうしようもないダメ人間だ。

 「それで……ぼく、一応額の多めの生命保険に入ってるんです。まだ死ぬつもりの無かった頃に、万が一のことを考えて」

 僕は黙って男の話を聞いていた。

 「でも、自殺じゃ生命保険は下りませんよね? だから…あなたが殺してください。ぼくのこと」

 「!」


 この男……! 

 

 冗談じゃない! こんなことで人を殺すなんてまっぴらごめんだった。そもそも、わざわざリスクを上げることをしてどうする。

 「そんなバカな! 冗談じゃない。そもそも、他殺に見せかけることぐらいその気になれば1人でもできるだろう!?」

 「いやあ…正直な所、いざ死ぬとなるとなかなかできないものでしてね、恐いんですよ。自分で自分のことを殺すというのが。飛び降り自殺とかじゃ意味無いですし。お恥ずかしい」

 …………!!

 「ふざけるなっ! そんな理由で」

 僕を巻き込むな!と言おうとしたが、その途中で男に遮られてしまった。

 「いいんですか? 殺してくれないとぼく、言っちゃいますよ。あなたがここで何をしてたか……」

 「――――っ!」

 男はあくまで遠慮がちに申し訳なさそうに、しかしとんでもないことを言っている。

 「いいですか…? とにかくあなたは、誰の目にも他殺だと明らかなようにぼくを殺して下さい。お願いします…。まああなたにも準備はあるでしょうし、後ほどまた別の場所で会いましょう。来てくれなかったら、警察に言います……。車のナンバーは覚えてますよ。ぼく、あなたの後ろをついてきてたんです…。ああ、これぼくの連絡先です。連絡して下さい…。その時、明日会う場所を決めましょう。絶対に連絡して下さいね。連絡してくれなくてもぼく、警察に言いますから……。あと―」

 こいつ…… こいつ…… 

 


 こいつ……!!!



 僕は悔しさで思い切り歯軋りをした。こんな、気弱そうな男に追い詰められるなんて……!

 しかし、もはや僕に選択肢は無い。この世で最も恐ろしいのは死を覚悟した人間だと、誰かが言っていたのを思い出した。

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