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第12話「電話番号」

「あれ〜? おかしいな〜」

「カズくんどうしたの?」

「この前ね、ここにお〜っきな穴が空いてたんだよ!! それで遊ぼうと思ってたのに〜」

 少年は自身の両腕を目一杯に使いその穴の大きさを表現する。

「穴〜? なにそれ〜。それよりあっちにリスがいたらしいよ!! 見にいこうよ!」

「えっ」

 少年はポニーテールの少女に手を引かれ、その場を離れる。

 (う〜ん……場所間違えたかなあ?)

 少年は煮え切っていない様な表情で今いた位置を何度も振り返っている。しかし、穴等はやはりどこにも見当たらない。

「もう! そんなのどうだっていいじゃん!」

「えっ、あ、ごめんユミちゃん……」


 この時、誰も気付いてはいなかったが、少年のポケットに収められていたキーホルダーが少女に腕を引かれた拍子にポケットから抜け落ちていた。

 ―――そのキーホルダーの落ちている地面の下では、冷たくなった安原が眠っていた。



 Xデイ−X is the day−第12話「電話番号」



 (っ…………!)

 僕は先程の場所から少し離れた公園に車を停め、急いで運転席を降りた。車体の後方に回り込み、勢い良くトランクを開ける。

 (………………)

 中身は勿論、空である。

「はぁっ……! あっ…………!」

 僕はすぐ傍の木に背中からよしかかった。

 幻聴か…………。当然と言えば当然だが……。一歩間違えれば死んでたな。

 僕は右手が未だ痺れている事に気付き、息を呑む。衣服を挟んで木に接している背中の汗が不快で体勢を戻した。

 (疲れてるのかな……。それとも罪悪感から来たのか…………。 両方か。)

 僕は溜息を吐いて車に戻り、運転席に座り顔を下げた。背もたれに背中はつけない。

 (落ち着け……。こんな調子じゃ15年間逃げ切るなんて無理だ!)

 ハンドルを握った両手に力を込め、顔を上げる。

 (冷酷になれ……!! 自分の事だけを考えろ!!)

 そう自分に言い聞かせて、すぐにその矛盾に気付いた。

 (だったら安原の家族を助けたり円と距離を置いたりしないか…………。)

 僕は自分に呆れた様に笑い、そしてジョイントワーク社に向かった。



 約1時間後、僕はジョイントワーク社の入っているビルの前に車を停める。あれからは何事も無くここまで運転して来る事ができた。僕は自動ドアの前に立ち、気合を入れ直す。

 自動ドアが開き中に入るとビル内の案内表示があった。ジョイントワーク社の名は5階の欄にある。エレベーターに乗り込み5階のボタンを押す。

 ゴウン……

 低い唸り声を上げてエレベーターが動き出す。外見からも見て取れたが、どうやらそこそこ古い建物らしい。他のそれと比べ比較的ゆっくりとエレベーターは動き、そして5階に到着した。

(ここか……)

 僕はオフィスの扉を開く前に一呼吸つき、ゆっくりと扉を押し開けた。

「…………」

 中に人は少なく非常に閑散としている。まあ派遣会社ならこんなものなのだろうか。すぐにその内の一人が僕の存在に気付く。

「ん、何だお前? どうした?」

 無精髭に短くなったタバコ。割と体格の良い男が僕に話し掛けてきた。

「あの……安原って人いますか?」

「安原ァ?」男は不思議そうな顔をする。そして「お前、あいつに何の用だ?」と続けた。

「いや……えっと、僕おじさんの親戚なんです。今日神奈川に着いたんですけど、連絡がとれなくって。それで、名刺に書いてあったここに来てみたんです。たまたま近くにいたんで」僕はそう言ってポケットに入れておいた名刺を取り出し、目の前の男に見せる。

「……、最近は全然見てねえよ。大分前から仕事もやってねえみてえだし」男は右手の人差し指で目の前の名刺を追い払う様なジェスチャーをし、僕にもうそれをしまっても良いという旨を伝える。

「そうですか……。携帯も繋がらないし…………」僕は名刺を再びポケットにしまいながら困った顔をしてみせる。

(…………)僕は男の表情を伺い、そして本題を切り出した。

「あの、ここでおじさんの自宅の番号って教えてもらえないんですか?」

「はあ?」男は驚いた様な表情を見せる。

「いや、そりゃ番号は控えてあっけどな。そんなのは流石に無理だ。今の御時世、電話番号ってのはおいそれと教えらんねえんだよ」男は呆れ、背もたれに体重を掛ける。

「いや……でも、今ほんと困ってて…………」

「あ〜、無理無理。諦めてくれ。何かあってどやされんのは俺なんだからよ」男は今度は左手で僕を追い払う仕草をして見せた。

(……ふん、こうなるのは始めから計算の内さ)

「あっ、じゃあ、今ここであなたがおじさんの自宅に電話を掛けてくれませんか? 僕に番号は教えずに。それで誰も出なかったら諦めますから」

「…………。ちっ、わかったよ。そういう事なら聞いてやらあ」

 そう言って男は立ち上がり、窓際の机の所に歩く。男は机の前まで行くとしゃがみ込み、引き出しを開けると1分も掛からず1枚の紙を取り出しこちらに戻って来た。

「えーっと、待ってろよ。今掛けっから」

 男は椅子に座り、その紙の内容を僕に見せない様に僕と正面から向き合った。そこから腕を伸ばし、ダイヤルを押す。

(見ろ……見るんだ。男の指先を……) 


 ×…3…1… 7…3…×…1……


 男が最後の数字をダイヤルするそのほんの直前、僕は左ポケットの中に入れておいた携帯のボタンを押す。それにより携帯から音楽が流れ出し、僕はポケットからそれを取り出した。

「あっ! すいません、今電話が掛かってきました!」僕は敢えてその主が誰かとは言わなかったが、安原、もしくはその肉親からと言う文脈だ。

「なんだ…? いいのか?」男は右手の人差し指を通話切断ボタンの上に構え、僕に尋ねる。

「あっ、はい! 申し訳ありません……」

「ったく……まあ連絡とれたなら良いけどよお」そう言って男は電話を切る。

 僕は男に礼を言うと共に詫びを入れ、そしてオフィスを出た。



(×31−73×1……っと)外に出て、僕は携帯の新規メール作成欄にその番号をメモした。 



(まったく。見ず知らずの男に社員の電話番号教えちゃ駄目だろ)

 僕は大空を見上げ、そして笑った。

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