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004.英雄

「うわっ……私の部屋、広すぎ……」


 少年執事ルカに先導されて到着した先は、テレビの中の世界でしか見たことがないような高級ホテルのスイートルームのような部屋だった。


「キリヤ様、しばらくはこのお部屋を自由に使ってくださいね」


 中肉中背のキリヤより少し身長の小さいルカに言われ、部屋の中に入る。天蓋付きのベッドなど、異世界モノのネット小説やアニメでしか見たことがなかった。


「あ、ああ……ありがとう」


 様呼ばわりに背中がかゆくなりながら答える。


「はい! 何かあれば、そこのベルで呼んでくださいね。魔石の力で、僕がどこにいても呼び出せるようになってますので」


 ベッド脇の小さな箪笥の上に置いてあった小さなプッシュ式のベルを確認する。


「何から何までほんと悪いね……」


「いいえ、僕はお客様のもてなし担当ですので。このくらいなんでもないです」


「あ、ああ……そうなんだ」


 ルカは肩ほどまで伸びた黒髪と、目鼻立ちがすっきりした顔つきが特徴的で、このまま成長したらきっと格好良くなるだろう顔つきをしている。


 そして12歳にして細かな気遣いができ、三きょうだいの中でも一番今の仕事がぴったりの男子であった。


「その……お言葉なんですけど、キリヤ様」


「ん? どうした?」


 だからこそ、ルカは疑問だった。


「キリヤ様はとても元気がない人に見えます。でもきっともともとは違くて、明るく活発な人だったんじゃないか、とも見えます。押しつけがましくて申し訳ないんですけど、仕事柄その人がどんな人なのか、少し話せば見えてくるのもあって……その、とても心配なんですよ。何があってここにきて、こんなに元気がないんだろうなって。アリサ様に親切にしていただいた人には、僕も親切にしたいです」


 キリヤにとって、これは図星だった。確かにキリヤ、もとい桐山光輝は引きこもりになる前、活発な人間だったのだ。


「い、いや……そんなこともねえけど」


「記憶喪失だって言ってましたけど、全部が全部忘れたわけではないですよね?」


 また図星を突くルカ。


 ここまで言い当てるルカのことを気持ち悪くさえ思っていた。


「んーまあ……どっか遠いところから来たってのは事実だと思うけど……その、魔法とかマケンシ? とかそういうのは全く分からねえし、家に帰れるかどうかも分からないからな。そんなんで元気になれると思うか?」


「えっ? 魔石の首飾りしてますよね……えっと……その」


「やっぱりこれになんか意味があんのか」


「何か意味って言うかですね……あんまり僕以外の方にこういう話はしないほうがいいですよ」


「どういう意味?」


 キリヤの問いに、小声になったルカが答える。


「キリヤ様は英雄、ジョー・クスコ様のことを覚えてますか?」


「いや、分からん」


 覚えていないというより知らないのだから仕方ない。割り切って答える。


「あー……そうですよね。ジョー・クスコ様というのは、もう何百年も前、人類史上初めて魔王討伐に成功し、人々に戦う力・魔力を与えてくださったトライランド大陸の歴史に残る英雄の事です」


「それはすごいことなのか?」


「もちろんですよ。魔王はそれからも代々現れ、大陸を征服しようとたくらんでますけど、魔力があるおかげで僕たちは魔族と戦うことができますし、魔物を討伐して、食用のお肉を調達して食べることもできます。魔石だって生活に応用できるようになりました。おかげで、人々の生活は脅威から解放され、豊かになったといいます。だから大陸ではこの偉業とともに英雄として扱われている、それがジョー・クスコ様なんです」


「へーえ」


 実際のところいくら解説されてもなんとなくジョー・クスコはすごい奴、くらいの事しかキリヤには分からなかったが、トライランド大陸というこの世界の情報を一つ得たことは大きかった。


「で、ここから先が厄介なんですけど……その、ジョー・クスコ様が旅立たれたのが、このマッケンジー領からだと言われているんです。ようは英雄の出身地なので、町の皆様はジョー・クスコ様のことを大変崇拝されているんです」


「まあ、そうだろうな」


 日本でだって歴史に残る偉人の出身地には、資料館やゆかりの記念碑などを建て、その功績をたたえる文化は根付いている。キリヤは、今度は納得して話を進める。


「それのどこが厄介なんだ?」


「はい。その色のついていない魔石の首飾りは魔剣士候補生の証なんですけど、その魔剣士っていうのは魔石の力で魔力を増幅して、魔物の討伐や、その他人々の手に負えない問題を解決する仕事なんです」


「つまり……英雄の歴史も知らねえのに魔剣士なんてやろうとするんじゃねえって町の皆さんから怒られるってことか?」


「理解が早くて助かります。もっとも、怒られるというよりか頭がおかしくて気が狂った人だと思われるほうがあり得るでしょうけど」


「アリサはよく俺の事助けてくれたな……」


「そうです。アリサ様は決して人のことを悪く思わない、とても優しい方なんですよ!」


 ルカが幼くも整った顔面に満面の笑顔を咲かせる。それだけルカがアリサのことを尊敬していて、人間として好きだというのが伝わってくる。


「まあ、話を戻します。ここからは推測なんですけど、毎年この季節、一週間後に『立志の儀式』といって魔剣士候補生を正式な魔剣士として認める儀式があるんです。で、キリヤ様はそれを受けるためにどこか遠くからいらっしゃったんじゃないかと思うんです。例えば東のダールトン領では魔物の活動が活発になっているって話ですけど、そのせいでダールトンの町では立志の儀式が行えないからこっちに赴いてきた、なんて」


「そうだな……そうだったらいいけどな」


 キリヤは12歳でそこまで頭が回るルカのことを正直凄いと思い、感心すらしたが、残念ながらその推測は間違いである。桐山光輝という人間は、確かに地球という星の日本という国で、引きこもりとして毎日を無駄に消費していたのだから。


 異世界に来た実感がまた少しずつと湧いてきて、今さらながら何となく、六畳間に机と椅子とベッドとパソコンくらいしかなかった自室が一瞬恋しくなる。


「あ、ごめんなさい。キリヤ様をなんとが勇気づけようと頑張ったんですけど、逆に気分を害したみたいで。申し訳ないです」


「ああ、いいんだ……ただ元気になるにはもっと時間がかかるかもな」


「そうですか……もし気分が晴れないのなら、ヴァレッタさんに相談するのがいいですよ。時には優しく、時には厳しく、困っている人を導いてくれる素晴らしい方ですので」


「ああ、あのお姉さんね……」


「お姉さんっていうか、おばさんですけどね。もうあの人48歳になった、若さが足りないって嘆いてましたから」


「え? そんな歳いってるの?」


「見えませんよね。若さが足りないって、あの人若さの塊みたいな人ですし」


 キリヤは驚いて、ただただ異世界のすごさを実感するばかりであった。あの美貌とスタイルで48歳というのは、地球上では絶対にありえないことだと思った。


 ふと、我に返る。六畳の狭い部屋から、高級スイートルームのような領主の館の客人の間。アリサの優しさに触れ、ルカに世界のことを教えてもらった。ヴァレッタたちとの日常を垣間見ることで、この世界でも人々は生活していることを生々しく感じられる。


 なんとなく自分の立場を理解した。いつも読んでいたネット小説のような出来事が自分の身に降りかかっていて、多少なりともこの世界を生きなくてはいけない、と前向きな気持ちも湧いてきていた。


「よし分かった。明日、ヴァレッタさんに相談してみるよ。ルカ君がおばさんって言ってたことも伝えとく」


「あ! それは駄目です! 絶対ダメですよ! 絶対ですからね!」


 慌てるルカを見て、キリヤはこの世界に来て初めて笑うことができた。


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