二話:目覚め
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目を覚ます
いや、厳密には目を覚ましているけれど目は開いていないので
実際に目を覚ましているかというと曖昧である
どうして生きているのか・・・
そう考える
先ほど弟の手によって死んだはずの俺が
心臓を一突きされて死んだはずの俺がどうして生きているのか
いや、生きていると考えるのは早急なのかもしれない
意識は覚醒しているわけだが、目は開かず、体は一切動かすことができない
もしかしたらこれが死の世界・・・というやつかもしれない
と、考える
朦朧とした曖昧で希薄な意識の中で考える
死・・・
何千人という人間を殺してきた俺が―――
国の為、王の為と何千人の人間を殺してきた俺が死ぬとは・・・
それも実の弟の手によって
だが、恨んではいない
弟を殺せと命じた王も
俺を殺した弟も
恨んではいない
盗みを繰り返してその日暮らしをする毎日だった俺を、俺たちを拾い、名誉ある騎士に任じてくれた王に感謝すればこそ恨むことなどない
それは死んだ今も変わらない
ただ、ただ心残りがあるとすれば、弟が俺を殺した後、どうなったか知ることが出来ないことだろうか
どうか生きていてほしいと思う
俺のように死なないでほしいと願う
ただ一人の肉親である弟には幸せになってほしいと
「・・・・・・」
不意に、声が聞こえてくる
その声は酷く小さく
何かに遮られているのか、聞こえることがかろうじて分かるだけで、なんと言っているか分からない
「・・・・・・・」
また聞こえてきた
これは・・・いわゆる閻魔という者の声だろうか
宗教の一つである大陸から渡ってきた仏教という物に出てくる閻魔大王ではないか・・・と思う
死者の罪を裁く地獄の王
詳しことは知らないがそんなものがいるらしい
と、前に弟が言っていた
「・・・・あ・・・・」
少しだけ、ほんの少しだけだが、何か聞き取れた気がする
相変わらず意味は分からないが、言葉のようなものが聞こえた気がする
あくまで気の所為なんだが
「お・・・み・・・ク・・・」
もう少し、あと少し
そして俺の意識は途絶える
―――――――――――――――――
そして目を覚ます
今度は何も見えない暗闇ではない
目を開いての目覚め
霞みがかったかのようにぼやけてはいるが、景色が見える
景色というか、人が見える
紅い何かが見える
「ダ・・・お・・・たのね」
目の前の人が喋る
が、途切れ、途切れに聞こえてくるその声を俺が理解することは出来ない
もしかしたらここが仏教で言うところの地獄なのだろうか
随分と平和的なのだな
そんな考えをしていると、体が宙に浮かぶ感覚に襲われる
いや、目の前にいた人に抱きかかえられる
まるで赤子を抱えるかのように抱きかかえる
「・・・・・のみな・・・い」
俺を右手で抱き寄せたまま、人・・・いや、女は服をおもむろに脱ぎだし、乳頭を俺の顔に近づける
吸えとばかりに近づける
「飲まない…調・・・・悪い・・・・」
「飲まない」
その単語だけははっきりと聞こえた
俺に理解できる言葉だ
そして飲めと言うのはもしや母乳のことなのか?
俺は驚き、そして現状を理解する
自分がどうなっているかを理解する
「あだぶ」
声を発しようとしたらそう発音した
やはり俺は赤子・・・それも母乳を貰うような生まれたての赤子になっているようだ