進むべき、道
彼が其処に到着する数分前。
一人の細身のスーツを着た男がとあるカフェにてパソコンを起動させ、何かをしている。ワープロソフトを使って何かを書いている。報告書だろうか。周りの客は特にそれを気にするわけでもなく談笑をする。
そこに、高校生だろうか。スーツの男には全く合わない、上下ジャージの男の子が男の座っているテーブルに座る。
「こんなところにまで呼んで、何の用だ。」
苛立った顔を隠そうともせず、男の子は問い掛ける。
「あぁ、すまない。彼処では少し話しずらくてな」
たいして悪びれた様子もなく、淡々と返す男。
それにたいしては何も気にせず、話は何だ、と問い直す。
「君は今、お金に困っている。そうだろう?そんな君に提案だ。」
先程とは打って変わってにこりと微笑む男。
「…学園に通わないか?あぁ、といっても君に拒否権はないよ。確か君は中学時代アメリカにいて飛び級したと聞いた。編入試験は少し難しいが君なら大丈夫だろう」
男は彼に返事を聞くこともなくペラペラと話し続ける。男の子は其を知っているのかは定かではないが口を挟もうとはしない。
「どこにはいればいいんだ」
一通り話が終わり、男の子は問う。
「桜坂学園だ。初等部から大学まで一貫の全寮制男子校、一度は聞いたことあるだろう?」
にこりといっそう笑みを深くし、問いているにも関わらず、返事なぞ望んでいないようだ。
「そこで、何をすればいい?」
「何も。ただ、普通の学園生活を送ってくれ。まぁ、君に普通が出来るかどうかは定かではないがね」
男の子はバカにするような態度に目を向けることもなく、話はそれだけかと席を立とうとする。
「あぁ、一つ言っておくが、あのお方は何時でも見ていらっしゃる。これもあのお方の娯楽の一つにすぎない。まぁ、精々頑張るんだな」
其を聞いていたのかは解らないが先程より少し機嫌が悪くなった男の子……、駿河章人は足を速める。
これは只のハジマリでしかない。其を知るのはあのお方のみ。果たして、運命の歯車はどのように崩れていくのだろうか。