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出迎え

ロビーの奥のレストランから 五十過ぎぐらいの精悍そうな男性がニコニコして 此方へ向かってきます。



彼が誰よりも信頼を寄せている「隆正くん」と呼ばれている専務さんであろうことは直ぐに分かった。




「遠いところ、お疲れさまです。専務の中尾です。社長からは菅野さんのことは聞いております。どうぞ、宜しくお願いします」



「こちらこそ、お世話になります。よろしくお願いします」





専務さんは、素敵な笑顔で子どもたちの側へ来られ一人一人に名前を訊ねて


「お腹が空いただろ。さぁ~こっちへおいで」


と、子どもたちとレストランへと行ってしまった。





そして、次に彼が、チェックのシャツにブレザーを羽織ったもう一人の男性を紹介してくださった。



「ゆき、こちらがいつも話しているだろう僕の友人の相沢さんだよ」



「いらっしゃい。お話は社長から色々伺っております。遠いところ、よく来てくださいましたね」



と、相沢さんは私に深々と頭を下げられた。


「ありがとうございます。皆さんのお言葉に甘えて大勢で押し掛けてしまいました。よろしくお願いします」




「こちらこそ、よろしく」



小柄な相沢さんは、真面目そうで人柄の良さが滲み出た方でした。




挨拶はそこそこに、子どもたちが待つレストランへと私たちも向かった。



遅い夕食となったが、子どもたちは、すっかり専務さんに馴染み もう既に笑い声が聞こえている。


「社長、こちらへ」


レストランの客は私たちだけ。中央に位置した長テーブルに それぞれ席に着いた。



その時、専務さんがいきなり



「社長、お綺麗な方ですね。良かったですね~」




わざと聞こえるように彼に耳打ちされた。



社交辞令だと思ってはいたが、彼も、にっこりと笑っていた。



何が良かったのか…解りませんが。



男同士の暗黙了解がそこには感じられた。




大人の男性が三人と私。そして子どもたち三人。


ハンバーグステーキを食べながら 楽しい会話が弾んだ。



兄貴は学校のこと柔道のことを質問される度に 悪戦苦闘しながら必死に標準語で答えているのがなんとも痛々しく感じた。



娘は、そんなことにはお構い無く いつも通りの口調である。



「そう、耀子ちゃんも柔道をしているんだね」


専務さんが娘に尋ねた。



「うん」



「ほほぉ~頼もしいね。ヤワラちゃんだね」



すると、社長が



「航一くんは、将来何になりたいんだね」



「はい、スポーツドクターになりたいです」



「ほほぉ~スポーツドクターね。それは素晴らしいね」



「そして、耀子ちゃんはオリンピックに出るのが夢なんだってね」


「うん!オリンピックで金メダルを獲るのが夢です」



「柔道で金メダルだね」



「違うよ!陸上でだよ!」



「陸上?!」



「そうなんだ!耀ちゃんは跳び箱も9段跳ぶらしいよ。走らせても一番速いそうだ」



社長が誰にともなく娘のことを自慢しているように聞こえた。




「そりゃ、すごいね。将来が楽しみだね」



一頻り、子どもたちの話題を話した後、専務さんが‥



「社長、雪乃さんは松下由樹に似てらっしゃいますね」



「松下由樹?!」



社長がご存じの訳がないと感じた専務は、続けて~




「似ていると言われませんか?

ねぇ~相沢さん、どう思う?似ていると思いませんか?」

すると、相沢さんが



「うん。誰かに似ていると思っていて思い出せなかったよ。そうそう松下由樹さんだった」




「でしょう。ほ~んと似ているよね」



専務さんは同意してもらえて嬉しそうです。




松下由樹を知らなかった社長は少し寂しそうです。



「そっか!そんなに似ているの?女優かね、歌手かね」


社長が訊ねると…




「女優さんだけど、最近のバラエティーにも出てるよね」




「そうですね。よくテレビには出ていますよ。また、ご覧になってみてくださいよ」



と、言っても彼は、ドラマは元よりバラエティーなんて観ることなどなく知るわけがないのです。



いつか、同僚に言われたことがある私でしたが、


なぜか、この場では烏滸がましくて



「初めて言われました」



そう応えてしまった。



一人だけ知らない社長がかわいそうに思えてのことだった。





その後、明日の予定を決めて、専務さんたちお二人は帰られ、



彼は、私たち親子を部屋まで送り届け、長男に



「航一君、お母さんと話をしたいんだが、少しお母さんを借りていいかな?」



「はい!」




そう言って彼は、駐車場へと戻って行った。


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